第六四話:ガチホモ☆ランキング!

「ワンワン! ワンワン! ワンォォォォ!!(ああああ! ご主人様最高ぉぉぉ、こっちです! こっちから行くのです!)」


 四つん這いで首輪しているガチホモ。

 首輪から伸びるリードはエロリィが握っている。

 グングンとエロリィを引っ張るように前に進む。四つん這いで。


「やっぱり、奴隷を取っておいて正解だたのよッ」


 エロリィは、口元の尖った八重歯を見せながら言った。

 金色のツインテールが歩みに合わせふわふわと揺れている。

 可憐と美麗のバランスが調和した凄まじい美貌だ。

 

 そんなエロリィが引きつれているのが奴隷から「犬」という存在にまで身を落としたガチホモ兵だ。

 元シルバーリング保持者なので、そこそこの戦士だったはず。

 パンゲア大陸を席巻する原動力ともなっている存在のはずだった。


 それが今や、犬――


 シルバーの六尺ふんどし一丁で、乳首に洗濯ばさみをぶら下げている。

 ボールギャグをかまされた口は、もはや人語を離すことが不可能となっていた。

 

 ただ、この見るも無残な元ガチホモ兵のおかげで、俺たちは迷わずに、ガチホモ城の中を移動できた。

 二階に上がる階段を見つけると、そこを登る。

 さらに、三階、四階と上がっていくが、特に敵が出てくることは無い。


「もうね、どこなのよ! さっさと敵のとこに案内しなさいよ! 全然、敵が出ないのよッ!」


 エロリィの蹴りが飛ぶ。ガチホモの脇腹にその蹴りが食いこむ。

 相変わらず、幼女とは思えぬ鋭い蹴りだった。

「キャン――」と高い声で吼える犬。元ガチホモ兵。


「あはッ、早く敵を殺したいんだけどぉ! ああ、殺したい、殺したい。ぶち殺したい! あの、変態ケツ穴野郎は、どこなんだよぉ! ぶち殺してやるから」


 ライサが獰猛な笑顔を見せながら言った。釣り目気味の大きな目が更に傾斜を増している。


「ワオォォン、ワン、ワン!(もうすぐ、ゴールドリング保持者のいる塔に着きます。そこを突破すれば、ガチホモ四天王、そして「男色孕ませ牧場」に行けます」


「逆に言えば、そこを突破せねば、王族を救うことはできないということなのか……」

 

 俺はエルフの千葉に視線を向けて言った。


「浸透突破できる余地がない以上、正面から撃破していくしかあるまい。まあ、こっちの戦力を考えれば楽勝だと思うが」


 大和魂と書かれた旭日の鉢巻を締めたエルフが言った。中身は濃厚ヲタの俺の親友、男子高校生の千葉君。

 今でも少し、羨望の眼差しで犬となったガチホモ兵を見ている。

 

 とにかく、王族を助けて、ガチホモを滅ぼす。さっさと済ませて、俺は帰りたいのだ。

 これ以上ここにはいたくない。

 だって、出てくる奴がガチホモの変態ばかりだから。


「これから先、ガチホモランキングに入っている者が敵になります。気を引き締めた方がよろしいかと愚考いたします」

 

 セバスチャンが平坦な声で言った。なんだよ? ガチホモランキングって?

 俺は疑問に思ったが、あえて訊かない。気分が悪くなる可能性が高いから。つーかほぼ100パーなる。


「ガチホモランキングとは――」


 誰も訊いてないのに、セバスチャンが説明を開始した。

 わざわざ、俺の方に移動して、俺の耳元に口を近づけてだ。


「セバスチャン、俺の耳に吐息をかけるな!」


「これは、失礼いたしましたアイン様。よく聞こえる様にと配慮したのですが――」


 殺すか? このクソ侍従。俺の中の殺意が成長していく。


『アイン、この侍従もアインが好きなんだわ! アイン×セバスチャン! 王子と侍従の禁じられた愛――』


『黙れ、サラーム。羽虫!』


『羽虫じゃないわ! 精霊よ。しかも精霊王になる存在なの!』


 俺の中に引きこもる精霊だが、候補、候補というが、いつ王になるのか、全く不明だ。


 セバスチャンが少し俺と距離をおいて話し出した。


「ガチホモランキングとは、ガチ※ホモ王国における、上位戦士に付けられた序列でございます。

 『第一次ノンケ狩り戦争』ではゴールドリング保持者のものでした。

 今はガチホモ四天王を称する者がおりますので、それを含めたランキングでしょうか」


「セバスチャン――」


 シャラートが涼やかな視線をセバスチャンに向けた。


「はい、なんでしょうか? シャラート様」


「ゴールドリング保持者は何人いるのですか?」


「はぁ…… おそらく10人前後かと。先の大戦ではその程度です。少数精鋭ですから」


「その10人…… そして、ガチホモ四天王、ガチホモ王。全員殺せば、終わりですね――」


 シャラートは、低く静かに透き通るような声でつぶやいた。

 すっと瞳の色が深い暗黒の色になる。シャラートは口元に微笑みともいえる物を浮かべている。

 氷のような微笑みだった。


        ◇◇◇◇◇◇


『いよいよだわ! ネ〇アームストロングサイクロンジェットアー〇ストロング砲の中に入るのね』


 外から見れば、そう表現するしかない、造形の塔である。

 高さは相当なものだった。

 石造りの巨大建設物は、淫猥なデザインでも、なにかしら人を圧倒する迫力というものがあった。


「ごらぁぁぁ!! ぶち殺す! 死ねやぁぁ!! 殺してやるーー!!」


 ライサが絶叫して、分厚い扉をぶん殴った。

 凄まじい爆発音のような破壊音。

 振りぬいたライサの拳が巨大な扉を一瞬で粉砕していた。

 巻き上がる粉じんが俺たちの視界を阻んだ。


 ライサのメリケンサック付の拳の破壊力は、異次元のレベルにある。

 まさしく、美少女打撃兵器だった。

 濃厚な粉じんが徐々に晴れてくる。


「何かいます――」


 シャラートがチャクラムを構え、すっと腰を落とす。

 その黒い瞳を細め、冷たい闘気をゆるゆると大気の中に放っていた。


「フッ―― なんとも、非常識な輩が来たものよ……」


 粉じんの中から声が聞こえた。

 徐々に粉じんが晴れてくる――


 巨大な影。

 そして、俺たちの前に徐々にその姿を露わにしてきた。


「一万人のガチホモ兵を斃したくらいで、いい気になってもらっては困る――」


 その巨体の男は言った。

 

「殺してやる!! ぶち殺す! 殺してやるぅぅぅ!! 死ねぇぇ! このド畜生がぁぁぁ!! きゃははは!!」


 戦闘開始を告げる叫びの尾を引いて、ライサが突撃した。

 塔の中の通路の垂直な壁を蹴る。

 まるで、跳弾のように、壁、天井を弾けるように移動する。

 くるっと身を翻し、天井に着地し、そこから逆落としで急降下する。

 釘バットを振りかぶり、ものすごい勢いで振り下ろす。


 パキィィーン!!


 硬質で、乾いた音が塔の中に響いた。

 その男は、ライサの超音速というか、ほとんど相対性理論に足を突っ込む猛スイングの釘バットを止めていた。


 リンゴのような大きさの玉が連なった物を手に持っていた。

 まるで巨大な数珠のようなものだ。


「ほう―― 早くもホモ・リンゴに魔剣『アナル・ビーズ』を抜かせるかよ……」


 その男の後ろにも大きな男が立っていた。

 筋肉ではち切れそうな体。見るからに人相の悪い顔。ふんどし一丁は変わらない。

 しかし、そのふんどしが金属製だった。なんか鍵穴がついている。

 その手には「電気アンマ」みたいなものと「掃除機」みたいなものを持っていた。

 もはや、見るだけで、嫌な予感しかしない存在だった。


「チィッ! クソが!」


 釘バットの反動を利用し、ふわりと、ライサが後方に着地した。

 長く非対称な緋色の髪が揺れる。

 慎重に間合いを開けながら、メリケンサックを握りこんでいく。


 ライサが一撃で仕留めきれない――

 それだけで、この敵が恐ろしい存在であることが分かる。十分にだ。


 数珠のような「魔剣アナル・ビーズ」を構えた男は、無造作に間合いを詰めてきた。

 手元は輪っかのようになっていて、そこを握る様になっている。

 柔軟な構造のようで、プルンプルンと震えていた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛~ がががが、あがぁ―― いたぞ。可愛い黒と銀の髪の男の子だぁぁ。俺の物だぁぁ、俺が、ぶち込んで、俺の体から離れられなくしてやるのだぁぁ~ ガチホモの素晴らしさ、男の体の良さを教えてやるのだぁぁ、それは精進なのだぁぁ!」


 ひときわ巨大な男がぬっとあらわれた。

 凶悪という言葉が生ぬるい姿であった。

 全身には恐ろしい傷が無数に走っている。長いベロをダラーンとたらし、ダラダラとよだれを垂らしている。

 ふんどしの脇からは絶えることのない、白濁液が流れ続けていた。この男の立つところが白濁した液で染まっていく。


 ギュンと瞳孔が開きっぱなしの目が俺を捉えた。


「俺? なに俺? 俺ですか?」


「ああああああ、オマエだぁぁ、可愛いのだぁぁ、貫いてやりたいのだぁぁぁ」


 白濁液を垂れ流しながら、巨体をゆっくりとこちらに向けた。


 なんで、俺を見つめるの?

 なに? 俺をどうにかする気かぁぁ?


 最悪の想定が脳内に走る。

 俺は気が遠くなってきた。消えそうになる意識を何とかつなぎとめる。

 恐怖で崩れそうになる足を踏ん張る。

 

「もしかして、アイン様を狙っているのですかな」


 セバスチャンが淡々と言った。完全に他人事のように。

 てめぇ、なに言ってんだよ!


『あああ! もうこれは蹂躙だわ! アインが輪姦されるわ! ガチホモ輪姦! ああああ、すごいことになりそう』

 

 サラームの腐ったスイッチがオンになった。

 

「あばがぁぁぁ、アインというのかぁぁ、いいぞおぉぉぅぅ、俺の槍でお前を貫き、離れられなくしてやるのだ! 精進なのだぁぁ!」


「先走るな―― 木冬木風。その可愛い男の子は、俺だって欲しいのだ――」


 デンマと掃除を握っているガチホモが、人相の悪い笑みを浮かべ、俺を見つめる。 

 そして、舌舐めずりをしている。


「アナギワ・テイソウタイ。オマエは、ガチホモ王に操を立てているのでは――」


「ふふん、俺は―― コイツで、いじめてみたいと思っているだけだ」


 そう言って、アナギワ・テイソウタイと呼ばれた男は「デンマ」と「掃除機」をひょいと持ち上げる。


「く、く、く…… 相変わらず、鬼畜。ガチホモ道の求道者よ」


 魔剣アナルビーズを持った、ホモ・リンゴという男が、ぷりぷりとした尻を揺らして言った。

 この三人、見ているだけで、最悪の気分。吐き気がしてくる存在だった。


 すっと俺の前にシャラートが立った。俺を守るようにガチホモの前に立ちはだかる。

 痴女で暗殺者でサイコな俺の姉で婚約者だが、俺にガチ惚れで、俺を必死に守ろうとするところは変わらない。

 俺が赤ちゃんの時からずっとだ。


「アインに手を出した瞬間に、殺します―― すぐ殺してほしいと懇願する方法で殺します――」


 長い黒髪がふわりと俺の視界の中で揺れる。いい匂いがする。

 シャラートはいつもそうだ。絶対に俺を守ろうとする。


「もうね、アインには指一本、先っちょだって入れさせないのよ!」

 

 エロリィが構える。その両腕には複層魔法陣が展開されていた。

 クルクルと回転し、全身を青い魔力光で包んでいく。


 なにかのきっかけがあれば、即戦闘が開始しそうなほど、空気がギチギチと張りつめていく。


「まだ、気が早いんじゃないですか―― 四天王のみなさん」


 聞き覚えのある声がした。

 奴だ。超変態、アナル・ガンの使い手、アナール・ドゥーンだ。

 ふんどしの隙間から伸びたホースのような物を握りしめやってきた。


 その言葉が、絶妙に攻撃の間を外して割り込んできていた。


「なんだ? アナール・ドゥーンよ…… 貴様も、狙っているのか? あの男の子を」


 ビシッと人相の悪いガチホモが、俺指さす。止めてくれお願い。


「はい―― 可愛らしく、強気そうなあの顔…… それを泣きわめく顔に変えてみたいですね」


 ふっと目を細めながら、その視線を俺にロックオンする変態野郎。

 なんだこいつら?

 超ド級の変態揃い踏みか?

 こいつらが、ガチホモ四天王か?


「まずは、邪魔者を消しましょう。それから、皆で楽しめばいいのです」


 アナール・ドゥーンはそう言うと、後ろを振りかえる。


 通路向こうから、金色のふんどしを締めた10人の男が俺たちに向かって歩を進めていた。


「ゴールド・リング保持者。ガチホモランキング5位から14位、まずは彼らに邪魔者を排除してもらいましょう」


 アナル・ドゥーンの言葉が、ガチホモの塔の中に響いていた。 


 これまで、俺は異世界で散々理不尽な危機に遭遇してきた。

 しかしだ。

 これは……

 俺の異世界生活最大の危機――

 そう言った物が迫っている気がしてならなかった。

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