第六三話:ハーレムの本質とはなにか?

 ガチホモ四天王の1人、アナール・ドゥーンとかいう超ド級の変態野郎は去った。

 ふんどしの隙間から伸びているホースを握りしめる超絶変態。

 そこから、腸液にまみれた弾丸を射出する悪夢のような野郎だ。

 なにが「アナル・ガン」に「アナル弾」だ。頭腐っているわ!


「クソがぁ!! 絶対にぶち殺してやる! 許さねー!! 殺す! 死なす! 絶対にぶち殺す!」

 

 ライサがたけり狂っている。

 ブンブンと釘バットを振り回している。

 スイング速度が事象の地平を突き破り、バットの唸りに特異点が見えそうな勢い。

 この殺意には、おれも大きく同意したい。


 早く殺せ。

 直腸に弾丸仕込んで、腸液まみれでそれを放つ奴はこの世の中に必要ない。絶対にだ。


「はい、はい。では、次のフロアに行って、ガチホモを攻め滅ぼしましょう」


 両手をパンパンと叩いて、皆を促すルサーナ。

 異世界最強の俺のママには誰でも逆らわない。

 しかしだ――


「お義母様――」


 シャラートがルサーナに話しかけた。その言葉に切羽詰った物があった。


「ああ、私はもう我慢できません―― アインを…… アインを……」


「ふう~、ふう~、はぁ~、はぁ~」という荒い呼気に交えて言葉を吐きだす。


 もはや、立っているのがやっとという感じで、カクカクと体を震わせる。

 そのメガネの奥の黒い瞳が完全に妖しく濡れ光っている。

 発情の臨界点を突破した顔。俺は知っている。赤ちゃんのときからの付き合いだ。


 彼女は、素早い速度で腕を動かした。

 今まで持っていたチャクラムが消えた。

 代わりに、その手には丸めたゴザのような物が握られていた。

 女だけが持つ、アイテムボックスから取り出したのか?

 早すぎて確認が出来ない。


 バッとそれを床に素早く敷いた。

 パンパンとそれを叩いて、埃を飛ばす。


 そして、音もなく俺に接近。キュッと俺を抱きしめてきた。

 ゆっくりと動きながら俺の手を握る。

 その白く細い指が俺の指に絡んでくる。ヒンヤリとした体温が染み込むようだった。

 キュッと俺の手を強く握った。


「あッ―― アイン…… あああ~」


 それだけで、体をビクンビクンさせている婚約者の巨乳メガネのお姉様。

 痙攣に合わせ、大きなおっぱいがプルプル震えている。


 今度は、俺に抱き着いて、脚を絡ませてくる。

 そして、ゆっくりと自分の胸の前を開いた。

 そこに、俺の手を差し込もうとした――

 おっぱいだ。

 俺専用で、柔らかさと弾力を兼ね備えた超一級品。

 メガネの向こう側で黒い瞳が潤んでしまっている。

 もはや、そこには発情の色しかない。完全な痴女の目になっている。


「ああ、アイン、私と遺伝子を混ぜ合わせましょう。グチャグチャにかき混ぜてほしいのです――」


 俺の耳元に、唇をよせて、甘ったるい声で呟いてくる。

 そして俺をゴザの上に引きずり込もうとする。


 なにする気ですか?

 ここで?

 敵地の真ん中で?

 ああ、みんな見てますよ、お姉様――


『すごいわね! アンタの義姉で婚約者、頭がおかしいと思っていたけど、振り切れてるわ―― ぶっちぎりのサイコだわ』


 サラームが嬉しそうに俺の中で言った。

 俺だってこんな場所じゃなきゃ嬉しいよ。俺、なんだかんだ言ってもシャラート大好きだから。

 でも、ここはダメだろ?

 普通に。

 ゴザの上でなにやる気だよ?


 ブオン!!

 

 釘バットが唸りを上げた。

 

 ボオワァァァ!!!!


 炎の塊が吹っ飛んできた。


 釘バットが俺の顔の至近距離を超音速で通過。

 もはや、鼓膜を通り越し、内臓がブルブルと衝撃波で揺れまくる。


 火の塊は俺の顔面をかすめ、髪の毛をプスプスと焦がして、飛んで行った。

 髪の焼ける嫌な臭いが広がった。


 当然のごとくシャラートは、ふわりと躱していた。

 その黒い瞳が痴女モードから暗殺モードに切り替わっていた。

 無機質な笑みを顔に張りつけ、チャクラムを構えている。

 見る者の心をへし折る様な、暗黒の殺気を身にまとっていた。


 凍りつくような刃。チャクラムに、真っ赤な舌を這わせ攻撃してきた2人を見つめた。


「殺します―― 赤ゴリラ女にクソロリ姫――」


 一気に周囲の気温が絶対零度になりそうな声音だった。

 

「このぉぉ! 殺すぞぉぉ! てめぇ、死なずぞ、クソ乳メガネがぁぁ!」


 紅蓮の炎を巻き上げるような、怒気を身にまとう美少女。

 バチバチと緋色の髪を空間に舞い上げるライサ。

 釘バットは摩擦熱で、薄い煙を出している。


「アンタね! なに勝手に先走ってのよぉ! 殺すのよぉ、クソメガネ乳!」


 両掌に魔法陣を展開。更に禁呪を連発する体勢に入っているエロリィ。

 金色のツインテールが青い魔力光の中を揺蕩っている。

 碧い瞳が、鋭い切っ先となり、突き刺すようにシャラートを睨む。


 またしても、殺気がビンビンに満ちてくる。

 なんか、だんだんとこの状況に俺は慣れてきた気がする。

 またか…… という感じになるのだ。


「待つのだ! 許嫁エッチ拡散制限条約参加メンバーよ! 会議だぁぁぁ!! 臨時招集! 安全保障会議を開催するッ!」


 エルフの千葉が絶叫した。最後の方は声が完全に裏返っている。

 エメラルドグリーンの髪を揺らしながら、ふわりと俺の前に出た。

 その仕草、滑らかな四肢の美しさは、まさに異世界の幻想そのものを体現していた。

 ただし、中身は男子高校生の千葉君だ。


 この千葉の叫びに、3人ともなぜか従う。

 4人が円陣を組んで話し合いを始めた。


「あああ、もうアインちゃんは、どうして、こんなに女の子にモテモテなのかしら、やっぱり天才で、最強で、無敵の精霊マスターだからね! もう可愛くて、ママはたまらないわ!」

 

 ルサーナはなんか、許嫁が俺を取り合って争うのを見ることがうれしいようだ。

 自分の愛する息子がモテモテなのが、いいのかもしれない。

 まあ、溺愛のママなのでなにをしても「アインちゃん、可愛い、最高」なのではないかと思うけど。


「ああん~ 天成君の彼女たち…… ううん、許嫁なのね。とっても天成君を愛しているのが分かるの…… でも、私も、教師と生徒という立場を超えて、天成君を愛しているの、うふ(あ~、ダメ、天成君。そんなことで、28歳のこの熟れた体の大人の女をもてあそぶのね…… ああ、そうやって、見せつけて、私の心に火をつけるつもりなの? ううん、ダメ―― ああん、でも私は、分かっていても、堕てしまうわ―― だって、女なんですもの、うふ)」


 久しぶりに、先生のダダ漏れ内面描写が俺を直撃。

 つーか、先生は「生徒」と「教師」の立場より「人類」と「それ以外」の壁も超えなきゃいかんわけですよ。

 

 そんな俺の内面の動きは漏れないので、先生は知らない。

 ただ、その巨大なおっぱいをプルンプルンさせながら、エナメルボンテージに包まれた肉体をクネクネさせている。

 棒があったら、ポールダンスを始めそうな勢いだ。

 もはや、健全なエロを飛び越え、発禁処分に片足突っ込んでいる存在だ。両足かもしれないけど。

 ああ、この先生も現在俺の許嫁候補だ。

 5人目になる可能性を秘めている。


「よし! 話はまとまった!」


 円陣が解かれ、ビシッと千葉が宣言した。

 エルフの長い髪が揺れる。

 額には相変わらず、旭日の鉢巻がまかれている。


「千葉、話しがまとまったって?」


「うむ、今回のアインの一晩独占を誰か一人に決めるのは困難だ」


「まあ、そうだな……」


「そこで、今回はノーコンテストだ」


「妥当だな」


「よって、アインを一晩独占する権利は全員が1回づつということになった」


「おお!」


 まあ、それは俺にとってそう悪い話ではない。

 いつも、3人掛かりで責めまくられ、最後まで持たない。いつも、途中で意識が吹っ飛んでいる。

 そのため、俺はいまだに卒業しているのか、していないのか分からんのだ。

 一人ずつ、順番というのは理想だ。

 さすが、心の友、千葉だった。俺の親友だ。


 しかし、千葉は遠くを見つめるような目をして言葉を続ける。


「そして、独占されている間、残りのメンバーは、その場を監視することになった―― これが妥協案だ」


「はぁ?」


「順番が最初の者は、1番というメリットもあるが、NTRの興奮なしで、一晩過ごすデメリットもある」


 毅然とした顔を俺にむけ、とんでもないことをのたまう、エルフの千葉。

 その緑の瞳どこかに、狂気が潜んでんじゃねーの? やっぱ、キミも病んでるんじゃないの? 千葉君。

 その幻想的で可憐といっていい唇が、狂ったことをのたまうわけだ。


「確かに、NTRは興奮します―― ああ、エルフの提案も悪くありません」


 さっきまで発情して手が付けられなかったシャラートが顔を赤くしていた。

 そして、細かく身を震わせていた。


「ああ、アインと私の遺伝子交換を見せつける…… そして、アインが他の女と…… それを私は見るだけ…… ああ…… これは、想像しただけで――」


「シャラートお姉様! NTRでの心の痛みが、更なる興奮を生み、アインとの絆を深くするのです! 激しく燃えるのです! 遺伝子混ぜ合わせが絶好調になるのです!」


 清らかで荘厳なエルフの声音でとびきりどうしようもないことを言い切る千葉君。


「あああ~ 確かにそうです。この胸の奥、この痛みが、甘美な物に変わっていくのが…… あああ、いいですね―― そして、遺伝子混ぜ合わせ…… ああ、アイン」


 シャラートが瞳を潤ませ、ガクガクと震える。まるで、身の内に生じた大きな快感に耐えるように、赤い唇をキュッと噛みしめている。


 なに言ってんの? 千葉君。君、いつもそんな調子で会議しているの?

 しかしなに? NTRって……

 俺の、許嫁たちをどうしたいの?


『寝取られだわ! まさか、コイツら、他の婚約者とアインがやってんの見て楽しもうっての? すごい、ビッチ揃いだわ―― これは、ドンビキだわ――』


 サラームの言葉に俺は黙るしかない。つーか、俺もその通りだと思う。

 いいの?

 それでいいの?


「あはッ! とりあえず順番は後で決めるとして、全員が一晩アインを独占ってのがいいよね! 私になんでもやっていいけど、こっちも遠慮なくやるし!」


「もうね、どうせ私と一晩過ごしたら、アインはもう私に夢中になるに決まっているのよ! メロメロにしてあげるのよ! ドロドロにとろかしてあげるのよ!」


 ライサとエロリィもやる気になっている。

 

「てめぇ…… 千葉ぁぁぁ~」


 俺はエルフの千葉の肩をグッと掴む。異世界の人間の身体能力は高い。俺の握力も実は半端ない。

 ギリギリと、その細い肩を掴む。


「まて、痛い! 痛いぞ! アイン! 離してくれ」


「なんで、こんな狂った結論が導き出されるんだ?」


「その本質を考えろ! アイン、ハーレムとはなんだ? 畢竟、ハーレムとは女性の側から見れば、NTR要素は避け得ぬ物だ。ならば、積極的にそれを受け入れる環境を作り上げるべきなのだぁぁ!! これも教えだ! 血破覇極流の教えなのだ! 痛い! 痛いから離してくれ!」


 俺は手を離した。

 確かにそうか……

 ハーレムとは、基本男1人に女が複数。

 女の側から見れば、愛する男が自分だけを愛するわけじゃない。

 ああ、確かに千葉のいうことも一理あるか……


「はい、それでは、アイン様の一晩独占問題も解決ということで、ガチホモ征伐にまいりましょう」

 

 セバスチャンが言った。平坦で魂の全くこもっていない言葉。


「そうですね。セバスチャン。よく言いました」


 俺の母親のルサーナもこの決定に異議をとなえない。


 釈然としない物を抱えながらも、俺は黙るしかなかった。

 そして、俺たちはガチホモ城の次のフロアに向かうのであった。


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