第六二話:アナル・ガン! アナル弾!

 仲間の死体の中でガクガクと震えるガチホモ。

 上半身裸の筋肉質。大胸筋がプルプル震えていた。


「パ…… パンゲアの悪魔どもめ……」


 それでも命乞いはしなかった。

 

「あはッ! コイツを殺したら、アインと一晩だかんな! 独り占めして色々やってやるぅぅ~」


 ライサが緋色の髪を揺らしながら言った。凶悪な釘バットはいつでもフルスイングの準備完了だ。

 そのルビーの瞳がヤバいことになっている。瞳孔が完全に開いてやがる。

 

「きゃはははははははは!! もうね、殺すのよ! コイツ殺して、私がアインと一緒に寝るのよぉぉ!」

 

 エロリィも完全にアヘ顔から復帰。全身から魔力光を滾らせ、殺気ムンムンだった。

 北欧の美の女神を土下座させるその美貌が、鋭い殺意に彩られている。


 シャラートが無言で横にスッと動いた。

 その間合いを嫌うように、ライサが同じく横に動く。

 それを見て、エロリィも動いた。

 

 お互いがお互いをけん制しているのだ。

 もし、ガチホモ攻撃に出た場合、その隙を他の二人に狙われる可能性があるのだ。

 だから、三人ともガチホモに攻撃ができないでいた。

 

 また、シャラートが横に動いた。油断なくチャクラムを構える。

 その切れ長の目が、ふっと長いまつ毛で影をつくった。

 他の二人も間合いを維持するかのように、横に動く。

 まるで、椅子取りゲームのような状況がそこに出現していた。


 シャラートが俺の正面に移動してきた。

 俺と目があった。

 黒い瞳が俺を見つめる。脳を痺れさせるような視線。

 中身はともかく、その美しさは完ぺきに近い。


「アインが! アイン! なんですか! そんなところでいきなり脱ぎだすなんて!」


 ビシッと俺を指さし、シャラート絶叫。

 俺脱いでねーよ!

 なにそれ?

 

「あはッ! なんだってぇ!」


「もうね、アインが脱いだの!?」


 キュンとライサとエロリィの視線が俺に集まる。

 しかし、俺は呆然とするだけ。だって脱いでないし。


「ああん~ 天成君たら、こんなとこで脱ぎだすなんて、大人の私を誘っているのかしら?(あああ、ダメよ。その若い男の子の自分の肉体を見せつけて、この私を落とそうというのね…… ダメよ。もう、先生は28歳ですもの、男の裸くらいでドキドキしないわ…… ああん、ダメよ! ダメっていっているのよ! 天成君! ああん、うふ)」


 俺が服を着ていることを目の前で確認しているにもかかわらず、先生は暴走。


「チャーンス! やはり、アインの遺伝子は私が独占です!」


 斬れるような笑みを浮かべシャラートが、チャクラムを投げつけた。

 外れる距離じゃない。

 シャラートは、暗殺者だけに、どんな手段を使っても相手を殺しにかかる。

 俺が脱いだという嘘で、ライサとエロリィの注意を削いだのだ。


 しかし――


「キンッ!」と高い音を響かせ、チャクラムが弾き飛ばされていた。


「――!!」


 声にならない声を上げ、シャラートが戦闘態勢に入った。

 シュンと、移動する。

 その瞬間、今までシャラートのいた場所になにかが次々と着弾していた。


「ヒュン――」というなにかが風を切る音が聞こえた。


 ライサが釘バットを振るった。


「カツン」という音がして、釘バットになにかが突き刺さっていた。


「なんだこれ?」


 ライサがそれを抜き取った。

 黒く尖ったいわゆる円錐形のなにかだ。

 ソフトクリームのコーンのような形だ。


「これは、アナル弾ですな。これを放つガチホモがまだいたのですか」


 セバスチャンが解説を開始した。

 なんだよ、アナル弾って?

 いや、訊かないから。絶対に訊かない。

 どうせ、ロクでもないし。

 聞くと心と耳が穢れること100パーだよ。

 

「ライサ、すぐ捨てた方がいい。後、手を洗おう」

 

 俺はキョトンとしているライサに言った。


「あはッ! なんかヌルヌルしているよ、これ?」


 ライサはそう言って、その「アナル弾」という奴を俺に向かって持ってきた。

 いや、それいらないから。絶対にいらないから。


「絶対に捨てて、今すぐ捨てて、早く」


 ヒュン―― ヒュン――


 更に風を切る音が響いた。

 

『アイン、危ない! 疾風刃!』


 サラームが叫んで、魔法を発動。

 俺が適当に名前をつけた風による切断魔法だ。


 俺目がけて飛んできたらしい「アナル弾」は俺の目前で切り刻まれた。空中でだ。

 細かい破片が飛びちって、ピチピチと顔に当たった。

 確かに、なんかヌルヌルした感じが残っている。


「ぺッ! 口の中入った! クソ! ぺッ!」

 

 細かい破片となったせいで、口の中に破片が入ってきやがった。

 くそ、名前からして嫌な予感しかしないものが、口の中に入ってきやがった。

 最悪だ。


『サラーム。もう少し丁寧な仕事しろよ。雑だよ』


『なんで? 防いだんだからいいじゃない!』


『まあ、それはありがたいけどさ……』

 

 精霊のサラームは俺の中に引きこもっている。

 やはり、俺を失って、外に出るのは恐ろしいのだろう。

 俺の守りはかなり固い。


「もうね、いったいなんなのよ、これは?」


 エロリィが言った。すでに、残ったガチホモを殺す競争をしている場合ではなかった。

 新たなガチホモがやってきているんだ。

 どこにいる?


「ほう…… 私のアナル弾を、回避するとはやりますね」


 すっと1万人がバトルできる大広間の上の方に人影が見えた。

 ちょうど、体育館の壁にある廊下みたいなところだった。


 壁の影からすっと全身を現した男。

 やはり、正真正銘のガチホモ。

 

 黒い革バンドが乳首を隠しているだけの上半身裸。

 下は真っ黒い革製のふんどしを締めている。

 そのふんどしの後ろの方から、ホースのような物が伸びている。

 そんで、そのホースの先を手に握っているわけだよ。


 ホースの根元がどこに突っ込まれているのか、想像したくねーよ。


「私はガチホモ四天王の1人、アナール・ドゥーン。『アナル・ガン』の使い手です――」


「ほう、アナル・ガンの使い手がまだいたのですか」


 淡々と会話に割り込むセバスチャン。止めろよてめぇ。


「キュン」と風を切ってチャクラムが飛んだ。


 シャラートだ。そうだ、そんな会話聞く必要ない、殺してしまえ。


 キンッ!

 

 凶悪な光を放ち、あらゆるものを切断するシャラートのチャクラムが撃ち落とされた。

 カラカラと音をたて、地面に落ちて転がる。


「私のチャクラムを……」


 シャラートは、突き刺すような視線をガチホモ四天王と名乗ったアナール・ドゥーンに向けた。


 ホースのような「アナル・ガン」とかいう物から、ヌルヌルの粘液みたいなのが垂れている。


「もうね、なんなのよ! 『アナル・ガン』とか『アナル弾』って!」


「エロリィ! いいから、スルーしよう! 頼む!」


「そうですな―― 『アナル・ガン』それは呪われた武器なのです」


 そんな俺の声を無視して、淡々と語り出すセバスチャン。


「『第一次ノンケ狩り戦争』後、ガチ※ホモ王国の敗戦、そしてバラゾック条約により所有が禁止された禁忌の武器――」


「ほう…… 少しは物の分かる者がいるようですね」


 ガチムチの男。アナール・ドゥーンと名乗った男は、ふわりと舞い降りてきた。

 どうみても体重120~130Kgはありそうなのに、その重さを感じさせない動きだった。


 いつもだったら、敵を見れば無条件で飛びかかる、狂犬のようなライサが、警戒して間合いを開けた。

 彼女の殲滅兵器としての勘が、危険のシグナルを出しているのだろう。


「『アナル・ガン』は直腸内に挿入された、『アナル弾』を括約筋の圧力で撃ちだすものです。過剰な腸液の分泌、そして恐るべき、括約筋の力が必要となります」

 

 セバスチャンの話はやはりろくでもなかった。

 さっき、俺の口の中に入ったの、ガチホモの「腸液」ついてたの?

 俺死ぬよ。そんなの聞いたら、精神的に死ぬから。

 もう、吐きたいんだけど。


「アイン~!! やだぁぁぁ!! 水! 水出してよぉ! 手洗いたい!!」


 緋色の髪の美少女が俺に泣きついてきた。

 俺も泣きたいんだけど。そっちは手だよね。こっちは飲んじゃったよ。破片だけど。


『サラーム! とにかく水だ!』


『はーい! いいわよ』


 空中に水球が出来た。

 俺はそこから水を手でとって口をゆすぐ。うがいもする。

 ああ、少し気分が楽になった。


 ライサは必死で手を洗っていた。

 なんか、泣きそうな顔になっているんだけど。

 普段、血まみれになっているけど、やはりガチホモの腸液は嫌だよな。絶対にやだよ。


「しかし、アナル弾は、弾込に時間がかかるもの…… 連発など、聞いたことがありませんな」


 セバスチャンが棒読みで言った。もう、その話題いいから。


「フッ―― 所詮は、前の戦争の理解の域を出ませんか。技術は日々進歩するのです。今や、この直腸には30発の『アナル弾』が装填されています」


 ふわりと自分の前髪を払って、アナールが言った。


「さらに、私の腸液の滑りは、通常のガチホモの3倍なのです。本気を出せば、この『アナル弾』を初速700メートル/秒で撃ちだせます。毎分600発のレートで……」


「むぅ…… それは、まるであの零戦に搭載された『九九式二〇粍二号機銃並み…… いや、口径を考えると、『五式三十粍固定機銃』クラスということか……」


 エルフの千葉が、「アナル・ガン」のスペックに反応する。

 どうして、こう軍ヲタとは役にたたないことを、こんなに覚えているのか……


 しかし、ガチホモの腸液にまみれた、「アナル弾」こんなとこまき散らされたらかなわない。


『なあ、サラーム、コイツ殺そう! このガチホモ』


 セバスチャンも亡き者にしたかったが、ここは目撃者が多すぎた。

 

『えー、せっかく面白いんだから、もう少し見て見たいわ! アイン、そんなに簡単に殺そうとか、良くないわ! 精霊として忠告するわ! 命は大事なのよ!』


『てめぇ、どの口でいいやがる!』


 いつもは、殺すことになんの躊躇もない精霊様が、「面白い」という理由で殺すのを拒否。

 お前はいつもそうだな。

 この、羽虫が。


 まあ、いいこっちは最強許嫁軍団もいるのだ。ガチホモ1人程度、どうということはない。


「クソがぁぁ!! ぶち殺してやるぅぅ!! その存在を、この世から消してやるぅぅ! 殺す! 殺す! ぶち殺す! ここで、死なす! このガチホモのド畜生がぁぁぁ!!」


 手を洗い終わったライサが、釘バットを構えた。当然、メリケンサックも装着済だ。

 チンピラゴロツキの武器を持った、超絶美少女殺戮兵器だ。


「殺します―― まず、どこを切り落として欲しいですか? リクエストを4回まで聞きます。5回目は首ですけどね――」


 チャクラムを構え直し、ゆらゆらと気配を空気の中に溶けこませていくシャラート。

 陽炎のように、存在が希薄になってくる。やはり、生粋の暗殺者だ。


「もうね、アンタ丸焦げ決定なのよぉ! 1000億万度の業火で焼いてやるのよぉぉ!」

 

 エロリィの周囲から魔力光が湧きあがる。

 更に、広げた両腕にリングのような魔法陣が展開。それが回転を始めた。


「いやいや、これは怖い、お嬢さんたちです…… しかし――」


 フッとアナールが笑みを浮かべた。

 よくみると、結構整った顔をしてやがる。まあ、俺ほどではないが。


「逃げちゃいましたけど、いいのですか?」


「あはッ?」


「ん~?」


「もうね、なによ?」


 ライサとシャラートとエロリィがキョトンとした顔になる。


「ほら、ブロンズ兵がいなくなってしまいましたね。あれを殺す競争をしていたのでは?」


 ニヤニヤと笑みを顔に張りつけ、アナールは言った。


「あびゃーーす!! もうね、アンタたちが余計なことするから、もうね!!」


 エロリィがパンパンと足で地面を踏み鳴らす。まさに、地団太を踏むという言葉をリアルで再現。


「クソがぁぁ!! じゃあ、このガチホモ殺した方が勝ちでいいだろ!」


「しかし…… お義母様、先ほどの競争は――」


 シャラートがルサーナに振り返って訊いた。


「先ほどの競争は、1万人を全滅した場合に適用します。この四天王は別です」


 凛とした声で、目の前のガチホモ四天王は、俺の一晩独占権競争の対象外であると宣言。


「では、そういうことで、今のところは、顔見世でいいしょう―― いずれ、アナタたちが上がってきたら、お相手する時が来るかもしれません…… フッ」


 ガチホモ四天王、アナール・ドゥーンは地面に向かって、アナルガンを連射した。

 その反動で、飛びあがる。

 高い通路に手をかけて、ふわりとたった。


「では、今回はここまでです」


「あ~ あ~ アインとの一晩が~ 遺伝子がぁ…… ああ、もう……」


 シャラートが「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ」言いだした。

 もはや、そこにいたのは、暗殺者ではなく、発情モードに入った一人のサイコ気味の痴女だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る