第五二話:そのとき歴史は動いた 語られるガチホモの恐怖! 『第1次ノンケ狩り戦争』と『魔法のリング』!

「これが…… ガチホモの本拠地」


 俺は淫猥な造形の塔のような城を見た。

 塔の周囲は高さ10メート以上はありそうな城壁に囲まれていた。

 頑丈そうな石組みの城壁だった。

 無駄に技術が高いように見える。変態野郎の国のくせに。

 塔の頂上には巨大な旗が待っていた。国旗だろうか?


「王都ハッテンバーのガチホモ城にございます。アイン様」


 背後から抑揚のない唐突な説明セリフ。

 振り向くと奴がいた。セバスチャンだった。

 無表情な中年男が俺の背後に立っていた。


「別に王都の名前なんて知りたくないから」


「ハッテンバーは、元々、ガチホモが出会いを求める聖地として生まれたと言われています。そして、この大陸。いえ、世界中から集いしガチホモが独立し、王国を築き上げたのです。それがガチ※ホモ王国です」


 俺の言葉をガン無視で淡々と説明を続けるセバスチャン。

 薄汚れた情報を俺に聞かせるセバスチャン。聞きくない。脳の記憶領域が汚される気がするから。


『ホモの聖地だわ…… これが、ガチホモの聖地なのね!』

 

 俺の脳内に歓喜に満ち溢れた声が響く。

 ヲタ精霊の腐れスイッチが入ったようだ。


「ホモたちは国を作りました。しかし、そこには大きな問題があったのです――」


 俺のこの嫌そうな顔を見ろよ。察しろよセバスチャン。忖度しろよ。なに、淡々と説明しているの?


「ほう―― それは興味深い話ではあるな」


 人差し指で存在しないメガネをクイッと上げるポーズを決めるエルフの千葉。


 まあ、コイツもホモに興味があっておかしくないか……


「アインよ! 私はホモではない――」


 まるで俺の思考を呼んだかのように言い放つ千葉。


 済まん千葉。

 確かに、オマエは「ホモ」とか「ゲイ」とかそんな生易しいもんじゃなかったな。


 コイツの存在は、男と女の不確定性のはざまにある。

 要するに、観察した瞬間にどっちかに決定するのだ。

 波動関数が収束していない今は、男でもあり女でもある。可能性が重なり合っている。

「シュレディンガーの〇ン〇」状態なのである。でもって俺の第4の許嫁だ。


「そうです。ホモたちは、子どもを作ることができなかったのです――」


 なにが「そうです」だよ?

 なんかもう、N〇Kの歴史番組に出ているアナウンサーのように説明を続けるセバスチャン。


「彼らが王国を維持するためには、新しいホモを獲得し続けなければいけなかったのです」


「うむ、筋の通った話だな」


 エメラルドグリーンの髪のエルフはいつの間にか、体育座りをしてセバスチャンの話に聞き入っていた。


 つーか、千葉だけじゃなかった。俺の許嫁と先生まで体育座りで、セバスチャンの話を聞いていた。


 シャラートは、食いつくような表情で話しを聞いている。なんか鼻息が「ふーふー」言いだしている。

 ライサも興味津々という感じだ。これから、彼女はこのホモを殺しまくるのだろうけど。

 エロリィは完全に発情しているように見えた。このホモ話のどこに発情する材料があるのか意味不明だ。

 

「ああん、男の子同士ってどうなのかしら? ねえ、天成君。先生、ちょっと気になるわ、うふ(ああん、天成君が他の男の子ともつれ合っている姿を想像すると…… ああん、私どうかなってしまいそう…… いいの? そこに、先生は混じって行っていいの? うふ)」


 とどまることを知らない池内先生の内面描写。

 なんかすごく汚された気がするんですけどぉぉ!


「どうなのかしら、天成君? 男の同士って、うふ」


 妖艶な眼差しを俺に向けて、サブいぼが出そうな質問を投げかける先生。


『いいわ! いいに決まっているわ! アイン! ここは聖地よ、やり放題だわ!』

『やらねーよ! 黙れ!』


「先生、俺になんでそんなこと訊くんですか?」


 俺は凄まじく嫌そうな顔をして先生に言った。


「ああん、たくさんの男の子たちに、蹂躙される天成君を想像するだけで、先生の子宮が熱くなってきそうなの、ああん、排卵してしまいそうだわ、うふ」


「勝手に俺を妄想に使わんでください!」


「あら、やっぱり、天成君は千葉君がいいのね…… 真央ちょっと妬けちゃうわ」


 28歳の魔族と融合した金髪の英語教師は、艶やかな唇に、人差し指を当てると、それを舐め上げる。

 ピンクの舌が、ヌメヌメと指の上を這ていく。

 そして、濡れた指を自分の巨大な胸に当て、滑らすのであった。


「あはは、照れるな…… なあ、アイン」


 エルフの千葉が顔を赤らめて、俺を見つめる。

 外見が凄まじく幻想的で美しい。

 性別の不確定性理論の真っただ中にいる千葉。

 オマエ、心の友とかじゃなく、本気で俺に恋愛感情を……


 眩暈がしてきた。


 考えると、心が死にそうになるので俺はもう黙っていることにした。


「ガチ※ホモ王国には、世界中からホモが集まってきます。しかし、それだけでは足りなかったのです――」

 

 淡々と語り続けるセバスチャン。

 ウンウンと頷く、俺の婚約者たち。


 エロリィはどこから取り出したのか、せんべいみたいなものをポリポリ食いだした。

 食いながら、下品の真髄を極めそうな話を聞き続けている。


「時に、パンゲア暦1914年7月29日―― ガチ※ホモ王国は周辺国家に宣戦布告なしの奇襲をしかけます。後に『第1次ノンケ狩り戦争』と言われる戦乱の始まりだったのです」


「ろくでもねーー!!」


 なに、そのとき歴史が動いたような感じで語ってんの?

 あまりのくだらなさに思わず声を上げた。


「アイン―― 静かにしなさい。これは、大事な話なのです」


 シャラートが俺を見つめて言った。

 俺の婚約者たちの耳をこんな穢れた話で汚したくはないんですけど。

 つーか、早く戦争はじめないのか?

 どーなってんだよ。


 俺は天に向かってそびえたつ淫猥な造形の城を見やった。

 ガチホモ城は不気味な沈黙を守っていた。


「ガチホモたちの男を求める強烈な、欲望はそのまま戦力となり、多くのノンケの男たちは、貫かれ、そして堕ちていったのです。彼らの持つ武器が、戦争を優位に戦わせる原動力となったのです」


「武器? それはいったい?」


 千葉が言った。


「魔法のリング――」


 セバスチャンはゆっくりとした動作で懐からなにかを取り出した。


「この魔法のリングこそが、ガチ※ホモ王国の武器。『第一次ノンケ狩り戦争』で猛威を振るったものです。通称『ガチホモ・リング』です」


 それは、青銅かなにかで作られた輪っかのように見えた。


「ほう、いかにも異世界のファンタジーの王道のような道具だな」  

 

 千葉が感心したように言った。いや、俺の予想ではそんな生易しいものではないと思うぞ。この異世界を甘く見てはいけない。


 セバスチャンは淡々と話を続ける。


「これは、『ブロンズ・リング』です。『ガチホモ・リング』には、『ブロンズ』、『シルバー』、そして『ゴールド』があります」


『なんか、コスモが熱く燃えそうだわ』


 サラームが食いつく。


「ガチホモたちはそれを装着し、次々とノンケを貫いたのです。この魔法のリングは、己の体の一部を槍と化すのです―― 恐ろしい武器です」


 マジで恐ろしいよ。本気で恐ろしいよ。こんな恐ろしい武器ねーよ。

 どこに装着するかは説明いらないから。分かるから。もう、説明無くても想像つくから。


「この槍で貫かれた者は、どのようなノンケであろうと、一瞬にして、ガチホモになってしまいます。まさしく、魔法のリングです」


「ふむ…… なかなか、手ごわい敵のようであるが…… だが、それは過去の話なのだろう?」

 

 千葉が訊いた。真剣な表情でセバスチャンを見つめている。神秘のエメラルドグリーンの瞳だ。


「はい。アイン様の婚約者であらせられる千葉様のご指摘の通り、これは過去の話です」


「ふむ」


 うなづく千葉。


 セバスチャンは一呼吸おくと、話しを続けた。


「『第一次ノンケ狩り戦争』は我がパンゲア王国の参戦により、戦況が一変します。徹底した魔法のリング対策が功を奏したのです――」


「対策?」


「はい。当時の王。第16第国王・ガルタフ2世が対策を編み出したのです。それは、徹底的に括約筋を鍛え上げ、槍の挿入を防ぐというものだったのです」


 すいません。そろそろ、限界なんですけど。

 気持ち悪くなってきたんですけど。

 即時、措置入院レベルの世界設定なんですけど?

 どこかにゲロ袋ないですか?


「ほう…… なるほどな。あの現在の国王――。老人にもかかわらず、あの体をしている訳、合点がいったぞ」


 千葉のエメラルドグリーンの目が光る。


 確かに、今の国王。俺の母の父であり、俺の祖父にあたるガルタフ3世は、老人とは思えぬ肉体をしている。

 異世界の王というよりは、世紀末覇者という感じだ。 


「ほう―― 千葉様、お分かりになりますか?」


 無表情だったセバスチャンの口元に、あるかなしかの笑みが浮かんだ。


「括約筋のみを重点的に鍛えることも可能だろう。だが、それだけではおそらく不十分だったんだ。全身の筋肉のパワーを括約筋に集束させる。そのために、全身を鍛え上げる。特定部位の筋肉だけを鍛え上げるのは、科学的ではない。全身を鍛え上げる中での、括約筋の強化―― それが重要だ。あの国王の肉体は、その結果作られたものだな――」


 フッと笑みを浮かべながら、無駄に鋭い分析をする千葉。抜群にIQが高いのは認めるが超絶的なドアホウ様である。


「Exactly ―その通りでございます―」


 すっと、侍従のセバスチャンは頭を下げた。

 俺の周りはドアホウ様ばかりだった。


「我が、パンゲア王国の鍛え上げた括約筋の前に、ガチ※ホモ王国の戦線は崩壊。『第一次ノンケ狩り戦争』がここに終結したのです」


「うむ、異世界にも、このような深い歴史の積み重ねで今があるのだな」


 深いというより、闇の歴史だろ。


「でもぉ、なんで、今パンゲア王国が負けそうになってんのよ。おかげで、私の国も悲惨なのよ! 借金の取り立てが厳しくなってんのよ!」


 金色に輝くツインテールを揺らしながら、美しい幼女が疑問を口にした。エロリィだった。

 神聖ロリコーン王国のプリンセスにして、禁呪使い。俺の婚約者の1人だ。


「なあ、エロリィ、借金ってなんだ?」


 気になった俺は訊いた。確か、神聖ロリコーン王国はパンゲア王国の同盟国だったはずだが。


「私の国は、パンゲア王国からお金を借りてるのよ! 国の借金が21垓102京17兆5686億4876万グオルドあるのよ!」


「お、おう……」


 いきなりの天文学的な数字に言葉が出なくなる。

 なんか、色々複雑な事情がありそうだった。


「もし、パンゲア王国が負けると、その借金の権利はガチ※ホモ王国のものになるのよ。そうなると、地獄なのよ! 奴らは女に容赦なしなのよ! 奴隷なのよ!」


 なるほど。そういうことか……


「しかしだ。戦争が終わって、ガチホモは無力化されなかったのか? どのような戦後環境が生まれたのだ?」


 千葉が思案気な顔を見せ、セバスチャンに訊いた。


「はい。戦争後、バラゾック条約により、ガチ※ホモ王国は一切の魔法のリング所持、開発を禁止されたのです」


「ならば、なぜ? 今、こんな戦争が」


「新たな、ガチホモ王のためです。ガチホモ王―― アーヴェ・ガチホモ。恐るべき独裁者の出現です」


 セバスチャンはブロンズリングを懐にしまいながら、説明を続ける。

 そんな汚そうなものを懐にいれるなよ……


「アーヴェは、秘密裏に魔法のリングの再開発を行っていたのです。そして、そのリングは『第一次ノンケ狩り戦争』の戦訓を取りいれ、鍛え上げた括約筋すら貫くものだったのです」


「あはッ! 鍛え方が足りないんじゃないの? もっと鍛えればいいんだよ、なあ、アイン。アインの括約筋なら大丈夫だろ?」

 

 大丈夫じゃないから。

 なに言ってるんですか? この超絶美少女は。

 

 緋色の髪を揺らし、俺の方を振り向く超絶的な美少女。

 ライサだった。ルビーのような瞳で俺を見つめる。

 

「いえ、ライサ様。括約筋を鍛えても無駄なのです。菊門を狙った槍は至近距離で空間跳躍をします。ダイレクトに直腸内に侵入するのです。いかに括約筋を鍛え上げても無駄なのです。このため、我が王国の精鋭。そして王家の者まで、ガチホモの毒牙にかかったのです」


 ろくでもね-! なにその下品な技術。

 ちょっと待て、それで確か、王国の王位継承権を持つ者がいなくなって……

 確か、俺がいまのところ、王位継承権1位になってるんだよな。

 その俺をこんな危険な場面に投入してもいいの?


「しかし、天才のアイン様であらせられば、そのような魔法のリングから菊門を守りガチホモを打倒すと、このセバスチャンは確信しております」


「とうぜんです。アインは天才で最強で無敵なのです。私の良人となる可愛い弟が、ガチホモごときに後れを取るわけがありません…… でも、遅れを取ったアインの姿も…… 悪くは無いのです」


 呼吸を「はぁ、はぁ」させながらシャラートが言った。

 なに興奮してるんですか? お姉様。


 それに、アナタは、俺が幼い時から、過大評価がすぎるんですけど?

 それで、何度も死ぬ思いしてるんですけど?

 2歳でドラゴンと戦うことになったり、5歳でダンジョンに放置されたり。


 死ぬよ? 今度は本当に死ぬから。そんなのに貫かれたら、俺死ぬからね。


「セバスチャン。その空間跳躍能力は、ブロンズもシルバーもゴールドも同じなのか?」


「千葉様、それ自体は同じです。ブロンズ、シルバー、ゴールドの違いは槍の長さと太さにございます」


「なるほど」


「ブロンズが長さ70センチ、直径5センチ。シルバーが長さ120センチ、直径10センチ。ゴールドが長さ200センチ、直径20センチにございます。直腸へのダメージはサイズに比例いたします」


 バカか!

 長さ200センチで直径20センチの槍が直腸に刺さったら、ガチホモ転生する前に死ぬわ!


「しかし、今次大戦―― 『第二次ノンケ狩り戦争』では、ゴールド以上の魔法のリングが出現しております」


「な、なんだってー!!」

『な、なんだってー!!』


 千葉とサラームが同時に声を上げた。リアクションも同じだった。


「ガチホモ四天王―― ガチ※ホモ王国の精鋭。彼らの装着する魔法のリングは、遥かにゴールドリングを上回ると噂されています」


「噂? 実態はわからないのか?」


「今のところいくつかの噂はございますが、確証はございません。千葉様。しかし――」


 セバスチャンは、そう言うと、自分の後ろにそびえ立つ、ガチホモの要塞。ガチホモ城を見上げた。


「このガチホモ城を登れば、いずれ彼らと対決することになります。十分に警戒してください」


 風が吹いた。

 セバスチャンの言葉はその風に乗って、この戦場に広がっていくような気がした。

 

 ガチホモ四天王――

 ガチホモ・リング――

 隠された恐ろしい力―― 


 恐るべき戦いが始まりそうであった。

 俺は心底、帰りたくなった。

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