第五三話:青く輝く菊門の栄えある光が降り注ぐ

「「「「「ジーメン! ガチホモ!」」」」」


「「「「「ジーメン! ガチホモ!」」」」」


「「「「「ジーメン! ガチホモ!」」」」」


 巨大な城。

 いや、天に挑む牙のような高さからは、むしろ塔と称すべきものであろうか。


 ガチホモ城――

 そう呼ばれる城塞であった。

 城内には約1万のガチホモ兵たちが集まっていた。


 口々に叫ぶ「ジーメン! ガチホモ!」の声。まるで地鳴りのようであった。

 それは、祖国の永遠の繁栄を信じる「万歳」の声であった。

 

「よう、オラネコ、あの話は本当だと思うか?」

 

 万歳三唱の声の中、かき消されそうな声だった。

 六尺ふんどしだけを身に付けた毛深い男であった。


「ああ? サムソン。派遣軍が天変地異で全滅したって話か?」


 一見すると優男風に見えるが、その上半身は締まっていた。

 同じく六尺ふんどしを身に着けた男だった。


 六尺ふんどしは、ブロンズ・リングを持つ兵士の正装であった。

 この1万の兵は全て魔法のリングを体の一部に装着していた。


 ふんどしの中である。


 それは、ガチホモのみが装着できる部位であった。

 誇るべき、ガチ※ホモ王国の精鋭の証明でもあった。


「あの、天変地異は、パンゲアの魔法使い―― いや、精霊マスターの仕業だって話だぜ」


「莫迦な、そんなことができる人間がいるわけないだろ」


 パンゲア王国を包囲していた15万のガチホモ軍が全滅したことは公然の秘密となっていた。

 ガチ※ホモ王国もパンゲア派遣軍が大打撃を受けたことを否定はしなかったのだ。

 ただ、その原因は、天変地異とされている。

 隕石の落下によって引き起こされた巨大地震と火山の噴火だった。


 その異変はパンゲア大陸全土を包み込み、各地に大量の難民を生みだしていた。巨大な地震と広範囲に降り注いだ火山灰と火山弾は多くの国に、深刻なダメージを与えていたのだ。


 その被害は、戦争どころではないレベルである。


 ガチ※ホモ王国の占領地域でも物資の不足から反乱などが発生していた。


「なあ、ヤバいんじゃないか……」


「大丈夫だ。俺がいる―― サムソン」


 サムソンはギュッと毛深いオラネコの手を握りしめた。オラネコの手は指関節にまで剛毛が密集している。素敵な手だとサムソンは思った。


「オラネコ……」


 二人は熱く見つめ合うのであった。

 ガチ※ホモ軍の編成上の特徴である「バディ・システム」。

 恋人同士が2人一組となり、ペアで戦う。

 他の国にとっては恐怖のシステムであった。

 それは、ノンケではあり得ない絆と連携を生み出すものだった。

 魔法のリングと合わせ、ガチホモ軍大進撃の理由の一つとなっていた。


「国家斉唱!」


 声が響く。勇壮な前奏が流れ出した。


 青く輝く菊門の 栄えある光が降り注ぐ♪

 1兆5000年の無敵の歴史 ああ無敵♪

 ああガチホモ ガチホモ~ 真理の光♪

 刺して 刺されて 気持ちいい♪

 兜比べは 嗜みだ 黒く輝く 俺の槍♪

 さあ こっちへ来てごらん こわくなんかないんだよ♪

 くぱぁ くぱぁ くぱぁ―― ♪

 限界拡張は 男の誉 もっと広げろ直腸を♪

 飛び散る腸液 男汁 それは聖なる滴なり♪

 いざゆけ ガチホモ どこまでも♪

 ああ ガチホモ~ ガチホモ~♪

 栄光のガチ※ホモ王国ぅぅぅ♪


 1万人の野太いの合唱が響いた。

 これこそが、今まさにパンゲア大陸を支配しょうとしているガチ※ホモ王国の精神性を現したものであった。


「国宝陛下! おなりである!」


 ブーーンと羽音のような音がして、1万の兵が集まる空間に魔力光が立ち上がった。

 巨大な青い光がまるでプロジェクタのようなものを作り上げる。

 空間投影の魔法だった。

 空間に、ガチ※ホモ王国の王の巨体が映し出されていた。


 ガチホモ王国の支配者。

 狂気の「第二次ノンケ狩り戦争」を引き起こした男であった。

 名前は、アーヴェ・ガチホモ。

 身長2メートル50センチ。体重230キロの巨体。

 狂気の色を帯びた光で満ちた双眸をした男であった。


「諸君―― 愛すべき精鋭なる、我がガチ※ホモ王国の愛国者の諸君」


 聞く者を魅了するようなバリトンボイスが響く。

 うっとりとした表情でその声に身をまかす者が続出している。

 静まりかえった巨大な空間には、重低音のバリトンボイスが響くだけだった。


「愛すべき、ガチホモの諸君。今、我が国は栄光を掴む一歩手前まできた――」


 剃りあげたというよりは、完全に脱毛したのではないかと思われる頭部。

 そこには、1本の毛も生えていない。

 頭頂部に刀傷があった。そのためだろうが、尖った頭蓋骨のラインがそこで歪みをみせていた。


「これは神罰だ! 女などという、軟弱な生き物で繁殖するノンケどもに、神の鉄槌が下ったのだ!」


 バッとその巨体を包んでいた黒いマントを払った。

 その肉体は黒光りする筋肉に包まれていた。

 乳首にはリング状のピアス。

 鋲打ちされた革バンドが肩から股間に向け伸びている。

 Vの字を描く革バンドが股間でクロスしていた。


 まさしくそれは、王者の肉体であった。王者のオーラを纏った存在であった。


「パンゲア王国は滅びた―― この大陸を支配していた、邪悪なる王国は滅びたのだ! 諸君、愛国者の諸君!」


 グッと拳を持ち上げ、叫ぶガチホモ王。


「パンゲア城は消えた。なぜだ? それは、神の怒りに触れたのだ!」


 巨大なアーヴェは首の筋を伸ばし、唾を飛ばして演説する。


「女を孕ませ繁殖する! 人類をそのようなステージに縛り付ける頑迷な思想は打破されねばならぬ!! 古い人類は滅ぶのである!」


 1万のガチホモ兵たちはうっとりと、その声と姿に酔っていた。


「奴らの国は滅びたのだ。ノンケ死すべし! もしくは、生まれ変わらせるのだ! 吾らの槍で! いよいよ、我らの時代が来る! 男だけの! 男による! 男のためのパラダイスが現出するのだ。諸君、愛すべき、ガチ※ホモ王国の諸君。槍を構えよ! 腰を振れ! 貫け! ノンケだろうと構わぬ! 掘りまくるのだ! そこの先にこそ、吾が望む理想郷! 永遠のシャングリラがやってくるのであーる!!」


「ジーメン! ガチホモ!」「ジーメン! ガチホモ!」「ジーメン! ガチホモ!」


 よく響くバリトンの演説に、自然発生する「ジーメン! ガチホモ!」の声。


 その大音響をかき消すような破壊音が響いた。まるで天空から物理結界に包まれた城が超音速で突撃してきたような音であった。


 ドゴォオーン!!


 ビリビリとガチホモ城が揺れた。


「ムッ! なにごとぁぁ」


 魔法によって映し出されているガチホモ王・アーヴェが声を上げた。

 ビューンと、テレビのスイッチを切ったかのように空間投影映像が消えた。

 1万のガチホモ兵は騒然とした空気の中に放置プレイであった。


「なにが起きた。なんだいったい?」

 

 アーヴェが声を上げた。無駄にいいバリトンボイスは変わらない。

 その声には、すでに動揺の色はなかった。

 ただ事実の確認のみをもとめた王者の声であった。ガチホモであるが。


「アーヴェ様! 城です! パンゲア城が……」

 

 伝令兵の士官が王の間に飛び込んで、声を上げた。

 

「なにがおきたのだ?」


「空から、パンゲア城が降ってきました!」


「なんだとぉぉ!!?」


 そのバリトンボイスが、王の間に響いた。


        ◇◇◇◇◇◇


「確かにあれはパンゲア城……」


 指で双眼鏡を作りながら、その男は言った。

 岩陰に身をかくし、城を観察している。

 彼は、事実確認の斥候として、この場にいたのであった。


 それは威力偵察を兼ねたものである。

 彼を隊長とした斥候隊は10人。

 2人一組。5つのバディで形成されていた。


「なんで、こんなところに、いきなり」


 パンゲア城はガチホモ城の目と鼻の先に出現。

 天空から降ってきたという目撃証言が複数あった。

 地面に激突した瞬間、眩い光の奔流が天空に向け伸びていったという。


 彼は、眼前の状況を整理していく。

 パンゲア城は、15万の我が軍に囲まれ落城寸前であった。

 それがたまたま起きた、地殻変動と火山噴火で一瞬で消し飛んだと報告されていた。

 その天変地異で、我が15万の軍勢も壊滅的打撃を受けたが、粘るパンゲア城が無くなったのは大きかった。


「なぜ、こんなところに奴らの城が……」


「マラスキー隊長! あれを!」


 彼のバディ(相棒)であるホモロビッチが声を上げた。


 緋色の髪をした女がこちらに向かって歩いてきていた。

 女にしては背が高い。

 長い髪が風の中、揺れている。


(敵か……?)


 マラスキーは、魔力望遠鏡の倍率を上げた。

 その女の顔を視界にとらえた。


 緋色の髪。左右非対称の髪型。

 その瞳も真紅といっていい赤い色を帯びていた。

 まるで、ルビーをハメ込んだような瞳だ。

 やや釣り目気味の大きな瞳。


(武器か…… あれは)


 その女は、右手に釘バットを握っていた。

 次の瞬間、女の首がすぅーと動いた。

 口元に獰猛な笑みが浮かんでいる。まるで牙のような八重歯を見せていた。

 

 ニィィィ―

 凶悪な愉悦を帯びた口元が吊り上っていく。

 射抜くようなルビー色の視線。その双眸がスゥゥッと細くなってく。


 完全に目が合ったような錯覚。

 まさか!

 この距離で!


 マラスキ-は固まっていた。

 彼とて、生粋のガチホモ戦士である。

 シルバーリングを装着したガチホモだ。


 本能的な恐怖。

 コイツはヤバイ。絶対にヤバい――

 本能はガンガンと警鐘をならしていた。


「いたぁぁぁ!! いたぞ! ガチホモがぁぁ!! 殺す! ぶち殺してやる! 殺すぞ! ド畜生が! 死ね! 死ねぇぇぇ!!」


 緋色の少女が咆哮した。ビリビリと天を振るわせる咆哮。


 戦慄の超絶美少女殺戮兵器――

 アインザム・ダートリンクの婚約者にして、ナグール王国の姫。


 ライサ・ナグールが地を蹴っていた。

 風を貫き、死と破壊と蹂躙を愛する打撃兵器。

 今まさにフル稼働しようとしていたのだった。 

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