第五一話:大宇宙から突撃! ガチ※ホモ王国へ!
パンゲア城が大気圏に突入した。
ガガーンという大気の層にぶち当たる衝撃が物理結界につつまれ城全体を震わせた。
城に残っていた一番高い塔が途中からポキンと折れて崩れ落ちた。
ガチ※ホモの魔法使いが散々石を投げて攻撃していたせいだろう。俺のせいではない。
『アイン! 魔力薄いわ! なにやってんの!』
脳内でドヤ顔の精霊様が、俺に言った。
つーか、さっきまでの凄まじく高揚した気分がすっかりなくなっているんだけど。
俺は周囲を見た、物理結界の外側が真っ赤に染まり、凄まじい熱を持っているのが分かった。
ガタガタとこの結界全体が震えている。大丈夫か?
『いや、もう、自由落下しているし、魔力はいらんだろ……』
『なんでーー! 光りの速度で星を粉砕するっていったわ! やってみたーい!』
悪魔のようなことを無邪気にのたまう精霊様。無自覚の邪悪さはとどまることを知らない。
『いや、言ったかもしれんが、取り消しだ。なんか、魔力回路フル回転させるとやばい…… なんというか、強烈なハイテンション状態になる』
ちょっと全身がけだるい感じだ。
俺の体内の七つの魔力回路をフル回転させたせいだろう。今は、元々の一個だけが稼働しているようだ。
それに、魔力回路フル回転させたときの、あの気分はなんだ?
大宇宙超絶帝王にでもなれるような気分だったんだけど……
なんつーか、非常に危険な気がする。魔力回路の全力運転をすると、どうやら俺の精神状態までハイテンションになるようだ。
どーなんだこれ?
『あー! もう、つまんなーい!』
いや、面白いとか、つまらないとかの問題じゃないから。
ガンガンと揺れながら母なる大地に向け、凄まじい速度で垂直降下を続けるパンゲア城。
これ、このままで大丈夫なのか?
結構な質量があるものが、超高速で宇宙から落下してくるわけだが……
「アイン―― やっぱりアナタは、天才です」
涼やかな声がした。俺はその声の方を見た。
メガネの奥の切れ長の美しい目が、俺を見つめていた。シャラートだ。
先ほどまで青い顔をしていたと思ったが、立ち直ったようだ。
彼女は、ゆっくりとその長い黒髪をかきあげた。サラサラと流れるように黒髪が舞う。
俺の美しき姉にして婚約者。痴女で暗殺者でサイコであるが、俺は大好き。とくにおっぱい。それは変わらん。
俺専用の大きなおっぱいも、俺の思いを喜ぶかのようにプルンプルンと振動に合わせ揺れていた。
「ああ、まあ、確かに俺は天才だけど……」
パンゲア城は自由落下を続けている。なんか、物理結界の外側は、赤を通り越して眩(まばゆ)く輝いてんだけど。青白いんだけど。
これ、温度は何度あるんだろう?
「すごいのよ、この結界…… 外側が1兆2000万度の高熱になっているのよ。もうね、私には分かるのよッ」
エロリィの目の周囲にゴーグルのような複層魔法陣ができていた。
それで、温度が分かるのか? すごいなそれ。
「うむ、確かにスペクトル分析の結果でも、エロリィちゃんの主張は正しい言えるだろう―― ちなみに太陽の内部温度は1000万度といわれる」
『ブ〇ストファイヤーより熱いわね……』
エロリィとエルフの千葉がなんか言っている。大気圏突入でそんなに温度が上がるのか……
サラームの感想はスルーする。
この大質量の城が結界につつまれたまま、周囲の温度を1兆2000万度にして突撃中ということ?
それ、結構まずいんじゃね? どーなんだ?
「あはッ! これ、そのままガチ※ホモのところに直撃させるの? さすが、やることがエゲツないな! アイン! これで、生きのこったガチホモどもは、一緒に殺しまくろう! たくさん殺そうね! 早くぶち殺したい!」
左右非対称の長く緋色の髪を揺らしながら、ライサが言った。
釘バットとメリケンサックを装備。完全に第一種戦闘態勢に入っている。
「いよいよ決戦です。ガチ※ホモ王国を殲滅する日が来ました――」
銀髪の竜槍姫が、全身から本気のオーラを出していた。手には伝説の槍を持っている。
「お母様――」
「あああん、だめよ! お母様はダメ! もう、天才で可愛い私のアインちゃんは、"ママ"って呼ばないとダメなの」
「はい、ママ」
「おらぁぁぁ!! てめぇ! いつまで寝てやがる!」
ルサーナは「ギンッ!」と視線を転がっている自分の夫に向けた。つまり俺のオヤジ。「雷鳴の勇者」の異名を持つシュバインだ。
間髪入れず、鋭く無慈悲な蹴りが、オヤジの脇腹に食いこんだ。
メキとかベキという音が聞こえた。
「あごぉッ……」
肺の中の空気を固形化して吐きだすような声を上げ、ビクンと反応するオヤジ。
それでも、頭を振ってなんとか立ち上がってきた。その点はさすが勇者なのだろうか。
ママの一撃必殺の攻撃をその身に何度浴びても死なない点は評価できた。
ちょっと尊敬している。
俺も強くならねばな。
しかし、結界の外がますます凄まじいい色になってきた。なんちゅーか地獄の炎のような色。
ガタガタとした振動が収まり、甲高い「キーン」って音が響くようになった。
ますます、ヤバいような気がしてくる。
つーか、これ突撃させて、生き残る奴いるの?
いや、ガチホモだけじゃなくて、この星の生きとし生ける物全てが……
俺の脳裏にはネットで何回も見た、小惑星が激突し、地球が灼熱の星になる動画が浮かんでくる。
TVで放送され、子どもたちに絶望的なトラウマを与えた有名な動画だ。
これってそれに近い状況になるんじゃね? どーなの?
「なあ、千葉――」
「なんだアイン」
エルフの千葉が腕を組んで立っている。細身であるが、芸術的なふくらみをみせる胸の下で腕がくまれている。
千葉は、エメラルドグリーンの瞳を俺に向けた。幻想的な瞳。
まさしく、幻想世界の美少女なのである。ただし、中身は男子高生。それも、特濃ヲタ。性別は揺らぎの中ある。
「これさ、このまま城が突っ込むとどーなるんだろうな?」
「うむ…… この城の質量と、突入速度から考え……」
千葉はエアメガネを人差し指で持ち上げるポーズを決めながら考え出した。
「星は木端微塵だろう。更に言えば、熱核融合反応が起き、新たな恒星が誕生するかもしれない――」
「マジ?」
「いや、それは、そのままぶつければだろ? オマエが減速するなり、なんかやるんだよな?」
「ううん、やらない。というか、やり方分からん」
「マジか? アイン……」
見る見るうちに、エルフの千葉の顔が、スカイブルーのような色になってきた。
顔色まで幻想的。
「天成ぃぃぃ!! なんとかしろぉぉぉ!!」
千葉絶叫。エルフキャラの仮面を脱ぎ捨て、男子高校生が出現。俺の襟首をつかみ、絶叫だった。
「まて! なんとか! なんとかする!」
俺だって死にたくねーよ。
くそ!
やっぱ、ろくでもねーことになっているしぃぃ!!
「アインに手を出すと、アナタでも殺します――」
音も気配なく接近したシャラートがチャクラムを千葉の首筋に当てていた。
ちょっと滑らせれば、鮮血が噴出す。
「いや、なんでもないです…… あああああ…… どーすんだよ…… アイン……」
千葉はゆっくりと俺から手を離した。
シャラートはそれを見て凶悪なチャクラムをしまった。
『おい!! 羽虫! なんとかしろ!』
『この精霊王にむかって羽虫とかひどいわね! アインがこうしろって言ったわ! 私はその通りにしただけなのに!』
『いいから、止めろ! いや、あれだ…… 穏便に、え…… 周りに被害を与えず、着地させろ。いいか! 絶対だ! 絶対にだぞ!』
スルンと俺の胸から、サラームの上半身が生えてきた。
そして、そのまま俺の体から外に出てきた。アンビリカルケーブルでつながっているが。
パタパタと4枚羽を羽ばたかせ、俺の顔の前でホバリングした。
『いいけど、ちゃんと帰ったら、アニメ見せてよ。「やはり俺の後ろの穴にそれを突っ込むのはまちがっている」を第1期から見たいわ』
ああ、人気ナンバーワンのラノベをアニメ化したやつだな。略称「穴ガイル」。
世界中がパンデミックでホモだらけになって、なんか主人公の後ろの穴が狙われまくるやつだな。
確かに、名作ではあるな。
それなら多分、千葉のPCにもあるだろう。第5期まで放映された人気作だし。
『分かった! たのむ! サラーム』
『まかせて― アニメ、絶対だからね』
『で、どーすんだ? 具体的に』
『うーん、衝突しても、周りに被害がなければいいんでしょ?』
『ああ…… そうだな。それが重要だな』
『この城が落ちる地点に筒状の結界つくるわ。その中に、この城を落とす。外にはなにも被害がないわ』
なるほど。今この城を包んでいる物理結界もサラームが作った物だ。
これと同レベルの頑丈な結界なら問題ないだろう。
『そうか。で、ぶつかった衝撃はどうなる?』
『うーん、結界を筒状にしてあるから、衝撃エネルギーはそのまま、宇宙に向けて発射だわ』
『なるほど……』
筒状の結界にこの城を落とす。でもって、発生した衝撃エネルギーだけを筒先から、宇宙に向け放出すると――
うん、サラームにしては、頭のいい解決方法だな。
『それで行くか』
『分かったわ。アイン。まかせて』
ツルンとした胸をそらせて、サラームが言った。
『まずは、結界を作るわ』
そして、俺の体の中から大量の魔力が消費されていく。
あれ……
なんか、めまいがしてきた。
俺は段々と気が遠くなってきて、そして意識を失った。
◇◇◇◇◇◇
「アイン―― アイン、大丈夫ですか」
声が聞こえた。
聞き覚えのある涼やかな声。選ばれた巨乳でメガネの黒髪のクルービューティだけが出せる美しい声だ。
俺はゆっくりと頭を上げる。
顔にプルンと柔らかく、極上の弾力を感じた。
目を開けた。あれ? なにこれ?
俺の視界に大きな白くて柔らかい物が映っていた。
俺は手を伸ばしてそれをモミモミする。
「シャラート! シャラートか」
この感触はシャラートだった。
俺はシャラートにひざまくらされていたのだった。
「アイン! 目を覚ましたのですね」
病的なまでに俺にガチ惚れのお姉様が、俺の頭をギュッと抱きしめた。
柔らかい極上おっぱいの感触が最高。とりあえず揉む。
「あん~ アインたら、そんなに上手に揉んで―― 元気ですね。ここも――」
すっと、その指が俺のヤバい部分に伸びてきそうになる。
「てめぇ! 乳メガネ! 順番でひざまくらだけだろ! 殺すぞ! それ触ったら! てめぇだけのもんじゃねーんだ!」
凄まじい美少女声が聞こえた。深夜アニメのヒロイン声優が自信を喪失するレベル。
ライサだった。
「もうね、本当に運がいいのよ! このクソ乳メガネは! アインも、私の時に目が覚めればいいのに! プンスカ!」
これまた、鈴を転がしまくったような美しい調べの声が響く。
エロリィだ。
順番でひざまくらしていたのか……
「あああん、天成君が急に倒れて―― 先生は心配だったのよ。これは、教師として…… いいえ、堕ちていった牝として、天成君を心配していたの、うふ(ああダメよ、真央。天成君がこちを見ているわ。私の子宮を堕としまくった年下の牡が―― あああん、ダメ。体の芯が熱くなってきそう。そんな目で先生を見つめるなんて、なんて罪な男なの…… でもいいの。これも、私が選んだこと…… もう私の体は子宮も卵巣もアナタのものなの―― うふ)」
狂気を帯びた18禁内面描写をメルトダウンさせる人外教師。池内先生も健在だった。
「アイン、目覚めたか」
ビッっとしたエルフの声が聞こえた。千葉だ。
「千葉。いったい?」
「うむ。よくやったなアイン」
「え?」
「これから、敵本陣に対し、白昼白兵突撃を敢行する―― 敵を包囲殲滅するのだ」
エメラルドグリーンの髪を風にたなびかせ、エルフとなった男子高校生が宣言した。額に旭日の鉢巻をしている。そんなエルフは見たことない。
その手には、懐かしの槍がにぎられていた。
ライサが学校備品の机の脚をねじ切って作った槍だ。
俺はゆっくりと立ち上がった。そして周囲を見た。
「アイン、起きましたね。突撃です。ガチホモ城に突撃です」
ルサーナだった。戦装束に身を包んだ「銀髪の竜槍姫」が言った。
「あれが? もしかして、あれがガチホモの……」
どうやら、パンゲア城は無事着地。しかも敵の城の目の前に着地したようだった。
俺は、「ガチホモ城」らしき建造物を見た。
それは城というより、塔に近い物だった。
まるで天に挑むように高くそびえる、漆黒の槍のように見えた。
つーか、あれだよね……
『ああ、これあれね!』
サラームが言った。俺の体の中には戻っていない。アンビリカルケーブルでつながったまま、俺の頭上で羽ばたいていた。
俺はコイツが次に何を言うか分かった。「てめーは次にこう言う……」と言ってやろうかと思った。
『ネ〇アームストロングサイクロンジェットアー〇ストロング砲だわ! 再現性高いわね!』
サラームの言葉が異世界の大地に響く。
俺の予想通りだった。
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