第四二話:「銀河裏美道69」を見ても仕方ない
いくら、北欧の宝石とか妖精級の美少女というか幼女でも、耐えられなかった。
白濁した液体。魔素だ。喉元にからむ最悪の味が俺を苛む。
吐きたい。しかし、吐けない。ゲーゲーやろうとしたが、余計に苦しくなってきた。
目の前が暗くなってくる。
「アイン……」
声変わりのしていない少女特有の音域の声が響く。エロリィだった。
うずくまっている俺にすっと寄り添って、背中をさすってくれた。
振り向く俺。
キラキラとしたツインテールが漆黒の宇宙空間をバックに、金色のフォトンを振りまく。
エロリィの存在する空間全体がうっすらと光を帯びているような感じがした。
「私の吐きだした魔素を全部吸いこんでくれたのね」
いつもの尖がった物言いが影をひそめていた。
「あ゛あ゛~ 飲んだよぉぉ、一気飲みしたよ」
喉の調子がイマイチだ。ドロドロの魔素が喉元に絡みついているような感じだ。
「やっぱり私はアインのお嫁さんになりたいの―― もうね、絶対なのよ」
金色の長いまつ毛が沈み込み、碧い瞳に濃淡を作る。吸いこまれそうなほど魅惑的な瞳だ。
背中から俺に抱き着いてきた。
フラットでありながら、空力的に芸術的なラインを描く魅惑のボディが俺の背中に押し付けられる。
シャラートの大きく、柔らかな俺専用おっぱいも最高であるが、エロリィのボディもまた夢のような存在だった。
地球では絶対にあり得ない存在。
お巡りさんが来てしまうレベルの魅惑のボディなのだ。
「イジェクトボタンが…… 背中に……」
「ああん、もうね、アインの背中にスリスリしていると、意識がイジェクトされちゃうのよぉ」
『このビッチ発情しているわね! ここでおっぱじめるの? アイン! やるの?』
『やらねーよ! 宇宙空間で! そんなことやってる場合じゃねーよ』
俺の体内に引きこもっているヲタ精霊。サラームの脳内通信で俺は振り返る。
エロリィの淫靡な光を湛えた視線が俺に絡みつく。
「今度は、アインの作った魔素を飲みたいのよぉ」
「俺の魔素?」
「アインの魔素で体の中をパンパンにしてほしいのよ。もうね、それで孕んでもいいのよぉ」
ちょっと待て、魔素で孕むのか?
なにそれ?
魔素ってなんだよ?
「アインの赤ちゃんが欲しいのよ。アイツラより先に私を孕ませて欲しいのよ――」
「いや、赤ちゃんとか、孕ませるとか、それどころじゃねーよ。見ろ、エロリィ。この状況、外をみて見ろ!」
俺は指さす。青く輝く異世界の星。おそらく、さっきまで俺たちがいたパンゲア王国のある惑星だ。
エロリィは「んん~」とトローンとした瞳のまま、首を回転させ、俺の指さす方向を見た。
「なによ、あれ?」
じっと見つめて固まるエロリィ。
金髪ツインテールだけが無重力の中揺れる。
「多分、俺たちがいた星」
「なんで、ここから見えるの?」
「宇宙だし、なんか、宇宙に飛び出した。城ごと、俺たち」
じっと青い星を見つめ、それから漆黒の宇宙空間を見つめるエロリィ。
「なによ! これ! 私のせいじゃないんだからね!」
キッと、強気な眼差しで俺を見つめるエロリィ。
「いや、エロリィのせいじゃないのは分かっている。なんか、別の原因だ」
俺の言葉に、すっとエロリィの表情が緩くなった。しかし、それも一瞬。一転、その顔に不安の色が現れる。
「どうすんのよ……」
「いや、エロリィの禁呪で転移できないのか? 一気にあそこに」
エロリィが元に戻れば、禁呪の転移魔法で、パンゲア王国に戻ればいいと考えていたわけだが、彼女の表情を見ていると、そう簡単ではないようだ。
「アイン…… 無理よ」
「無理なのか?」
「だって、ここの位置座標が分からないのよ? どうやって飛ぶのよ? 転移なんて無理よ」
手のひらを口に当て、エロリィは言った。少し声が震えている。
これ、マジでヤバいか?
エロリィの禁呪で戻れないってことになると、どーなるんだよ。
『これはもう、宇宙に旅立つしかないわね! 『宇宙城塞パンゲア』だわ! あ~ 円盤売れそうにないわね……』
『サラーム! お前の魔法で戻ることは?』
『どんな魔法使えば、いいのかわからない。宇宙空間には風がないし。ああ、キャ〇テン・ハー〇ックでは吹いていたけど』
サラームは風を操る精霊だ。下僕の精霊がいるので、他の属性の魔法も使えるが、自分自身は風なのだ。
そうなると、宇宙空間そのものでは、なんもできない。無力な羽虫じゃないか……
『ねえ、ここは、宇宙物のアニメを見て、アイデアを探しましょう。『銀河裏美道69』を見たいわ。劇場版がいいわ。あのPCにあるかしら?」
頭の腐った提案をする羽虫。
「銀河裏美道69」は確かに名作だと思うが、今の状況に対し参考になる要素は一切ない。
電動伯爵に母親をコマされた主人公が復讐をとげ、謎の美女とともにアンドロメダを目指す話だ。
タダで機械の〇〇コをくれる星に行くのが目的だぞ。この話のどこに参考になる要素があるんだ?
そんなもん見ても、何も解決しねーよ。まあ、作品は名作だし、劇場版の主題歌は最高だと思うが。
「エロリィ、なんか他の禁呪とかないか? 転移以外の方法で……」
「そんな…… いくら天才の私でも、無理な物は無理なのよ……」
漆黒の宇宙空間をバックに固まる俺とエロリィ。
どうするか?
とにかくだ。俺とエロリィとサラームの2人と1匹では、いいアイデアは出そうにない。
とりあえず、みんなを起こさないとダメだな。
「エロリィ、とりあえず、みんなを起こそう」
俺は言った。
◇◇◇◇◇◇
「マントルプルームの爆発。その影響で一気に宇宙空間まで放り出されたのだと思う」
クイッとエアメガネを持ち上げるポーズを極め、エルフの千葉が言った。
「なんだそれ?」
「よーするに、でっかい火山の爆発だ。城ごと爆発で宇宙に飛ばされたのだろう。あくまでも仮説であるが」
「そうか、自然災害とは怖い物だな。千葉――」
「いや、まてアイン」
「自然災害は怖いよな! 千葉ぁぁぁ!」
俺はエルフの千葉の両肩をグッと掴んだ。細く繊細な作りの肩。力を入れるとぽっきりイッテしまいそうな気がしたけど、そのときはそのときだ。
「ぐぉぉぉ…… あ、アイン、怖いな、自然は、自然は怖い……」
さすが、心の友であった。タップしながら俺の言わんとすることをすかさず察してくれた。
要するに「俺はしらねーよ」ということである。
俺はゆっくりと肩から手を離した。
「多分、千葉の言うとおりだろう。未曾有の天災に巻き込まれてしまったようだな」
俺は、銀色の髪の毛の方を手で払いながら言った。母親譲りの銀髪が無重力の中、ハラハラと流れる。
「アインの言うことはいつでも正しいです。天才なのですから」
シャラートがふわりと俺の右の方に身を寄せてきた。
漆黒の宇宙空間の中に溶け込みそうな黒髪とメガネのお姉様。大きなおっぱいは重力から解放され、プルンと天を突いていた。
「あはッ、んじゃさっさと戻ろうよ。ねえ、アイン。戻ってガチホモを一緒に殺そうよ!」
俺の頬に手を伸ばすライサ。そのまま、俺の両頬を挟み込んで、自分の体を引き寄せる。
緋色の長い髪が俺の顔のあたりをサラサラと揺れる。
「それはそうと、どうやって戻るのよ――」
金髪碧眼の禁呪使いのエロリィだ。
「なんだよ? ロリ姫のクソ禁呪で戻れないのか?」
ポカーンとした顔で、ライサが言った。
「あんた、話し聞いてないわね! 脳の神経繊維がハリガネ虫でできてるんじゃないの?」
「なんだと? おい、クソロリ姫、殺されたいのか? いいぞ、殺してやるよ――」
ゆらりとライサが立ち上がる。
いつの間にか、その手には鈍い凶悪な色を放つメリケンサックが握りこまれている。
「ふふーんだ! もうね、アンタらアインを諦めた方がいいのよ。ま、側室なら許してやるのよ。ひゃはははははぁぁっ!」
唐突に勝利宣言をするエロリィ。そっくりかえって高笑い。
「ほう…… それはどういう意味ですか? エロリィ王女?」
俺の隣で、鼻息をふーふーさせて、エロ痴女モードになりかけていたシャラートも立ち上がった。
メガネの奥の双眸が妖しく光る。
しかし、無重力なのに、見事なバランス感覚だった。
「アインは、私の体の中でパンパンになった魔素を全部吸い取って飲んでくれたのよぉぉ。もうね、これは愛なのよ。絶対の愛なのよ。離れられないのよぉ!」
「なんだって!」
「アイン……」
シャラートとライサが衝撃を受ける。勝ち誇るエロリィ。
なにそれ?
俺はただ、ポカーンと美しい婚約者たちを見つめるだけだった。
意味がわからんのであった。
「女性の体内で生成された魔素を飲むという行為は、男女の神聖な儀式でございます。古より伝わる愛の儀式にございます。エロリィ様が第一夫人になるのは、決定かと」
セバスチャンが解説した。なに言ってんのこのおっさん。無表情で感情のこもらない声で。やらないと死ぬとかいってたよな? 今さら儀式とかなにそれ?
ビリビリとした緊張感が三人の間に走る。
まるで空間が固形化したような気がしてきた。
「あはッ、やっぱ、殺すしかないね! 殺すか? クソビッチのロリ姫が」
「私のアインを奪う者には死を―― 深き絶望の死を――」
「ひゃはははは!! もうね、アンタらなんかに、負けるわけないのよ。天才なのよ! 私は!」
無限に広がる宇宙空間で俺の許嫁たちのバトルが開始されようとしていた。
勘弁して欲しいんだけど。
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