第四一話:エロリィの余剰魔素を吸え!

『あーあはぁ~、ああああはぁ、あ~あ~~ あ~~あ』

 サラームが異常なほど透明感のある高音域の声で歌い始めた。

 芸域の広い精霊様だ。

 無限に広がる異世界の大宇宙に、精霊の澄みきった声が染み込んでいく。

 

 しかし、俺はそれどころではない。

 精霊のバックコーラスの中、縦回転でクルクル回っているだけの俺。

 目が回って来たんだけど。


 俺の渾身の絶叫は、腰を起点とし俺を縦回転させる運動エネルギーを生み出していた。

 慣性の法則に従って、大宇宙でクルクルと回転する俺。

 まるで、範〇勇〇郎のアッパーを食らったバ〇のように回っているだけだ。

 俺の回転に合わせて、パタパタとサーラムが周回軌道を飛んでいる。

 

 もはや、なにがなんだか分からん絵図になっている。


『サラーム……』

『無限に広がる大宇宙、静寂な光に満ちた――』

『いいから! もういいから! なんとかしてくれ~』

『アイン、地球よ! 地球が、私たちの地球が!』

『地球じゃねーよ。完全に異世界だよ。オマエ地球産じゃないし。しかも異世界で俺ら宇宙空間だよ。なんだよこれ?』


 眼下に見える青い星は地球に似ているが、地球ではない。異世界だ。

 しかも、一部が遊星爆弾を食らったみたいなことになっているんだけど。

 俺はなにもしらないけどね。


 つーか、異世界まで来て、なんで宇宙に飛ばされるの?

 1980年代のアニメじゃないんだから、なんでも宇宙に飛ばせばいいってもんじゃないよな。


『とにかく、下ろしてくれ――』

『ん、まあ、いいわ』


 「あ~あ」コーラスに飽きたサラームが周囲の風を操り、俺を城壁の上に着地させた。

 しかし、無重力なので歩くこともできない。

 サラームに言って、風を纏いながら飛んで移動する。


 少し落ち着いた俺は、周囲を見た。

 シャラート、ライサ、千葉がひっくり返っている。エロリィはプカプカと金色のツインテールを揺蕩え宙に浮いていた。


『おい、サラーム』

『なーに?』

『なにこれ?』


 無重力に抱かれ、揺蕩う美しき幼女を俺は見た。ときどきビクンビクンと痙攣している。


「ああん、らめぇ…… 私のぉ、私の魔力回路がパンパンになって、壊れちゃうのぉぉ、こんなに注ぎこまれたら、おかしくなったうのぉぉ、切ないのぉぉ、凄く切なくなってくるのよぉぉ~、アイン、アイン、アイン~ ギュッとして欲しいのよぉ、あああああん、頭が真っ白になちゃうのよぉ~」


 痙攣しながら俺の名を連呼するエロリィ。

 その碧い瞳は焦点が合ってない。淫靡の色に支配され、完全にアヘ顔。

 ときどきピンクの舌で唇を湿らせながら、荒い呼気で喘いでいた。

 苦しそうだ。

 禁呪を使った際に、お決まりの「ダブルピース」をする余裕もないようだった。


「エロリィの禁呪が暴走したのか……」


 城ごとガチ※ホモ王国の本拠地に突っ込むため、彼女は禁呪を唱えていたはずだ。

 それが暴走したのだろうか?

 過去にも、そういうことはあったような話を聞いた記憶がある。


『この状況の原因は、金髪ビッチの禁呪じゃないわね』

 

 サラームが真面目な声で言った。本当かいな?


『じゃあ、なんだよこれ?』

『分からないけど、この腐れビッチの生意気な「禁呪」とやらは起動してないわ』

『そうなのか?』

『多分だけど、なにか別の力で飛ばされたんじゃないかしら』

『まじか?』

『精霊の私には分かるわ。この城は、失われた先史文明の遺物で、城のどこかに縮退炉エンジンが……』


 脳内の奥深くまで厨二病に犯されているヲタ精霊は言い切った。

 他の奴に「お前はアニメと漫画の見過ぎだ」という感想を持ったのは初めてだった。しかもそいつは人間じゃない。

 

「あああああん、感じちゃうのぉぉ、私の体の奥の魔力回路がビクビクいっているのぉぉ、らめぇ、らめなのぉぉ、これ以上気持ちよくなると、バカになっちゃうのよぉ~」


 首をブンブンと振りながら空間を揺蕩っているエロリィ。首の動きに合わせ、長い金髪ツインテールがキラキラと光をまきながら揺れていく。

 そうだな。とりあえず、エロリィをなんとかせんといかんか。

 

『キャハハハハッ! 人間のクソビッチの分際で、魔法を自由に使えると思いあがるから罰が当たったわね! これは死ぬわね。悶え死にね。バーカ』

 

 生きとし生ける者の苦しみを娯楽としか認識していない精霊様が爆笑。

 その精神性は、無垢な邪悪と言って過言ではない。

 

 エロリィの呼吸が更に荒くなってきた。しかも口角からは、よだれまで流している。無重力の中、シャボン玉のように球形となって宙を舞うよだれ。

 それはある種のロマンを感じさせる光景であったことは否定できない。千葉であれば、そのよだれを即時回収していることだろう。


「幼女の元気球! これは幼女の元気玉だ! 日常の壁を越え、我に七難八苦を与えたもうと、入手すべき御宝物である!」とか言いそうだ。まあ、今の俺はそこまでガツガツしない。だって、ベロチュウも一日10回OKだからね。おっぱいモミモミは30回だし。

 千葉君は、そんな俺の思いを知らずに、ひっくり返っている。見た目はエルフ。宇宙空間をバックに、倒れ込むエルフというのも中々絵にはなっている。

 漆黒の空間をバックに、エメラルドグリーンの長い髪が無重力の中をハラハラと舞うように動いている。


「これは体内の余剰魔素を吸い出しませんと、死にますな」

「わっ!」


 びっくりした。俺の爺さんで国王のガルタフ3世。その侍従であるセバスチャンだった。

 唐突に俺の背後に出現したかと思うと、上のセリフを吐いたのだ。

 そういえば、コイツは今までどこいた。さっきまでいたか?

 シャラートとかライサとか、超絶戦闘力を誇る俺の許嫁の美少女ですら気絶してるんだぞ。お前、なにもんだよ?


「エロリィ様はアイン様の婚約者であらせます。また、同盟国の姫君。早急にお助けすべきかと思いますが――」

 セバスチャンが言った。言葉は丁寧だが、そこには感情の一切がこもっていない。


「なにが起きてるの?」

「禁呪が完成しなかったため、エロリィ様が体内に取り込んだ魔素が魔力変換されず、体内に大量に滞留しているかと」


 セバスチャンは淡々と言った。


「で? それでどうなるの」

「余剰魔素が暴走して、体内組織を破壊します。早く吸いだしませんと、死にますな」


「ああああ。アイン、チュウなのぉぉ、チュウしてぇぇ、体の中がパンパンで、熱いのぉぉ、もう駄目なのぉぉ、我慢できないのぉぉ。早く吸って欲しいのよぉ」


 虚ろな目で俺のチュウをおねだりするエロリィ。なに? チュウすればいいのか? で、吸えばいいの? まあ、別に嫌ではないし、毎日やっていることだ。

 俺はサラームに言って、体を浮かせる風を纏い、体を安定させ、エロリィを抱きかかえた。

 お姫様抱っこである。


 やはり至近距離で見るエロリィは、ものすごい美形だった。

 北欧の美の女神はポツダム宣言を受諾し、無条件降伏するくらいの美貌。

 北欧のオーロラの輝きを結晶化したかのような存在。北欧の宝石であり、北欧の妖精のような存在だった。

 当然、北欧幼女紀行の表紙&グラビアであることは、決定事項だろう。


 ふわりと優雅な舞の初動のように、エロリィの右手が動いた。俺の左手を掴んだ。

 細く柔らかい指が絡みつくように俺の手を握っていた。


「アイン…… もう限界なのよぉぉ、切ないのよぉぉ。出るの、出ちゃうのぉぉ、魔素が溢れてきちゃうのよぉ」


 はぁはぁという切ない呼気の中、やっと言葉を紡ぎだすエロリィ。

 碧い瞳には、長いまつ毛による影ができてる。


「どうすればいいんだ?」

「チュウなのよぉ、チュウで思い切り吸って欲しいのよぉ」

「チュウか! チュウすればいいのか?」

 

 俺はピンクの艶々した可愛らしい唇。チロリとピンクの舌が見える。

 俺は自分口を重ねようとした。


「待つのよぉぉ、イジェクトボタンを同時に押すのよ。体内の魔素を強制排出するには、イジェクトボタンを押さないとダメなのよぉ~」


 すかさず、サラームがエロリィの首の後ろに飛んで行った。覗きこむように首の後ろを見ている。なにか確認しているようだ。


『無いわね……』


 いや、オマエが思っている物とは多分、違うから。


「イジェクトボタンってなんだ?」

「ここなのよぉぉ」

 

 エロリィの左手が俺の右手を掴む。俺は両手を掴まれた状態になった。

 お姫様抱っこをしていたが、無重力なので手を離しても問題はなかった。

 エロリィは俺の手をイジェクトボタンにまで誘導してきた。

 二次性徴前のイジェクトボタンは、小さく可愛らしいぽちっとしたふくらみを見せている。

 人差し指で軽くなでてあげる。


「あああん、チュウしながら、イジェクトボタンをクリクリするのよぉぉ、回転させるようにクリクリするのぉぉ」


 俺の両手を自分のイジェクトボタンに誘導したエロリィは、俺の首に細い腕をまきつける。金色の光を拡散させるツインテールが揺れる。

 その細く小さい体からは想像できない強い力で俺の頭を引っ張った。そして強引に俺の口に自分の唇を合わせてくる。

 貪るように俺の口の中を動き回るエロリィの舌。まるで意思をもった軟体動物のようだ。


 チュポン――


 エロリィが口を離した。


「だめなのよぉ、吸ってよぉぉ、力強く、アインが天才の私の口を吸ってくれないとダメなのぉぉ、吸ってよぉぉ。クリクリもするのよぉぉ」

「分かった、吸いながら、クリクリだな」

「そうなのよぉ」


 俺はエロリィの体内にたまった魔素を排出する処置を行った。

 まずは、ピンク色の口に吸い付き強引に吸う。甘い香りが肺の中に満ちてくるような気がした。

 更にだ――

 両手の人差し指で、可愛らしいピンクのイジェクトボタンをクリクリしてあげるのだった。


 エロリィは碧い瞳に涙を浮かべながら、ビクンビクンと若鮎のように跳ねる。

 それでも俺は吸うのを止めない。そしてクリクリもだ。

 

(エロリィ、今助けてやる)


 ギュッとエロリィの体が硬直した。そして、細かく痙攣しだした。


 おぇぇぇぇ――


 俺の口の中に生臭い物が一気に流れ込んできた。絶対に口にしたくないような臭いを伴った何かだ。

 

 おぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇええええええええええげげげぇぇぇっぇ


 エロリィは俺の頭を押さえつけ、逃がさない。俺の口の中に、得体のしれない液体が流れ込んでくる。


 チュポン――

 エロリィが手を離した。俺は口を離した。 


「ぐおぉぉぉ!! なんだこれはぁぁぁ!!」


 俺は口を拭った。とてつもなく異様な味のする物をエロリィが吐きだし、それを俺は飲んでしまった。

 ぬぐった手を見た。まるで練乳を思わせる白いどろりとした液体がついていた。

 練乳とは似ても似つかぬ味と臭いである。

 

「さすが、アイン様です。エロリィ様の体内に注ぎ込まれた魔素を一気飲みですか。さすがでございます」


 棒読みより感情のこもらないセリフを吐く中年侍従。

 なんだよ、この魔素って? なにこの味。いや、臭いは……

 くそ、吐き気してきた。マジで……


 俺は宇宙空間にゲロ袋がないかどうか探した。ありそうになかった。

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