第二三話:封じられし魔王と守護者
「どりゃぁぁぁ! 死にくされ! クソが! 殺してやる! 死ね! 死ね!」
ダンジョンに絶叫がこだまする。
唸りを上げる釘バット。
空間に緋色の髪の毛が舞う。赤いトルネードだった。
衝撃波でダンジョンの壁、天井、床がボロボロになっていく。
ブンブンと振り回された釘バット。
空気に焦げ臭い匂いを残し、空間そのものを切り裂いているように見えた。
かすっただけでモンスターが粉砕される。釘バットのスイングが起こす衝撃波に巻き込まれたのだ。
もはやそれは、空間そのものを破砕する兵器となっていた。
長い緋色の髪の美少女。ライサだった。
「あはッ!! 殺す! 殺す! 死ね! 命を奪うのが楽しい! 気持ちいいぃぃぃ! 死ね! 殺してやる!」
戦いではなくジェノサイドだった。一方的な虐殺がそこで展開されていた。
直立したトカゲのモンスター。いわゆる、リザードマンという奴だろう。
ダンジョン探索中の俺たちの前に、ワラワラと出現。俺たちに襲い掛かってきた。
見る見るうちに、バラバラの死体が積み上がっていく。ほとんどが、肉塊というか、ミンチになってる。
このような、圧倒的な戦力差があるにもかかわらず、リザードマンは、突撃を繰り返す。
珍しく、原型を止めた頭がコロコロと俺の足もとに転がってきた。
俺の隣にいた、エルフの美少女がそれに手を伸ばした。
「これ、食えるのかな?」
そのエルフの美少女は千切れた頭を持ち上げ、じっと観察する。
両方の目玉が飛び出て、視神経につながってブラブラ垂れ下がっている。
「マグロの目玉は頭にいいらしいな。トカゲはしらんが」
「うーん、戦記物を読むと、トカゲとネズミはご馳走らしいが」
エルフの美少女が言った。
このエルフは元男子高校生の千葉君だ。同じクラスの出席番号18番。
ダンジョンの宝箱を開けたら、なんかの罠にかかってエルフになってしまったのだ。
しかも、飛び切りの美少女だ。
キラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳。
同系色の光を集めたような、髪の毛をもったエルフだ。
トカゲの生首を持ち上げて、小首をかしげている。
「捨てとけよ、今回は食料調達が目的じゃねーし」
「いや、もったいないだろ? 旨いかもしれんぞ」
そういうとエルフの美少女は、トカゲの首を自分の緑の長い髪の毛に縛りつけた。
器用な奴だ。
そして、トカゲの生首をぶら下げたエルフの美少女が完成した。
俺ですらドン引きだよ。
拠点を19階層上に移した俺たちは、ダンジョンの出口を探索している。
俺と一緒にいるのは、俺の婚約者たちだ。それに、池内真央先生だった。
俺の婚約者は、シャラート、ライサ、エロリィ。
そして、新たに、元男子高校生のエルフである千葉次郎(仮称)が加わった。
なぜ、婚約者全員が付いてきているのか?
今まで、俺は千葉と一緒に探索や食料となるモンスターを狩りに出ることが多かった。しかし、千葉がエルフの千葉次郎(仮称)となったため、ペアが組めなくなった。
エルフとなった千葉と一緒に行くのは、シャラート、ライサ、エロリィが許さなかったのだ。
そしてだ。
女子だけをダンジョンに連れて歩くのを池内先生が危険だと判断した。自分の存在の方がよほど危険な感じがするが、本人には自覚がない。
要するに、彼女もいっしょに行くと言い出したのだ。
「ああん、ダメよ天成君、女の子だけを連れて、行っちゃうなんて、危ないわ。なにか間違いがが起きたら…… 教師としてそれはダメなの。分かって、天成君(ああ、ダメ、そんな目で私を見ないで、私は教師なの、アナタは生徒だわ。私と間違いを起こしたいの? ううん、分かってるわ。天成君に婚約者がいるのは……。でも、私の女の部分が天成君を…… ああ、でも、年上の女の人が好きなんでしょう? 天成君、ダメなの? 私じゃダメなの?)」
結果、俺はこんなメンバーでダンジョン内を探索している。
池内先生は引率のつもりなのだろう。多分。この人は、内面描写がダダ漏れなのだが、それでも何を考えているのかさっぱり分からない。
池内真央先生は俺たちの担任の英語教師だ。
ダンジョンに転移したときに、魔族と混じってしまった。断じて俺のせいではない。
クネクネと悩ましくダンジョン内を歩く池内先生。
ウェイブのかかったショートの金髪。
髪をかき分けるようにして角が2本生えている。ヤギがヒツジを思わせる螺旋を描く角だ。
着ている服はボンテージだ。ほとんど最小限の部分しか隠れていない。背中には小さな羽があって常にパタパタ動いている。
そして、強烈なのがおっぱいだ。人間時代から人外だったが、魔族と合体してさらに迫力を増している。
シャラートもでかい。でかくて形がいい。抜群のおっぱいと言える。一度だけ、触ったが弾力、柔らかさともに、超一級品だと思う。
池内先生は、そのシャラート以上にでかい。
ほとんど大きなスイカを2付けている様なものだった。
洋物ポルノどころじゃない。歩く18禁というか、歩く発禁処分だった。
俺たちは、25階層まで上がった。俺たちはウロウロとこのフロアを歩き回った。
なかなか、階段が見つからない。
しかも、今までよりもモンスター遭遇率が上がっていた。ちょっと歩くと、モンスターに出くわし戦闘になった。
それでも、ライサが生き生きと殺戮を繰り返してしているので、他のメンバーは暇だった。
シャラートが暗殺者とすれば、このライサは完全なシリアルキラーだった。
確かに、シャラートも戦いを好むが、ライサは好むというより中毒だった。
「ははは!! 殺せる! 殺せる! ああ、命の消える瞬間、この温かい血が、生きている実感を私にくれる! あはッ!」
メリケンサックのハマった拳をトカゲに撃ちこんだ。
胴体に突き刺さった拳は背中までぶち抜けた。
グボっと拳を引き抜くと同時に、腹と背中から大量の血が噴き出した。
その、トカゲ人間の返り血を浴びながら歓喜の絶叫だった。
生き物の命を奪ってないと、禁断症状が出るんじゃないかというレベルだった。
俺の許嫁だ。
戦闘が終了した。戦闘というより虐殺。皆殺しの作業だったけど。
そして、俺たちはダンジョンを進む。
俺たちは一通り、このフロアを歩いた。マッピングをしていたのはシャラートだ。
彼女は、俺が5歳のときに一緒にダンジョンに放置されたことがある。
そのときも、見事にマッピングしていた。
「階段がありませんね」
「ないの?」
5歳の時の嫌な記憶がよみがえる。あのときもそうだ。階段が無かったのだ。
「いえ、正確には……」
「ねえ、この扉の先しかないんじゃないのぉ?」
マップを覗きこんでいたエロリィが言った。
金髪ツインテールの絶世の美貌をもった少女というかむしろ幼女。
碧い神秘的ともいえる光を湛えた瞳の持ち主だった。
神聖ロリコーン王国の「禁呪使い」である。
「確かに、ここしかないということになります」
シャラートがマップの一部を指さした。
そこは、部屋だ。扉があった部屋だ。ここは、中に入るのを後回しにして、他のところを探索した。
もう、探してないのはここしかない。要するにこが階段の場所だ。
なんとなくだが、もう出口は近いのではないかと思った。
「なあ、エロリィ」
「なによ?」
「このダンジョンを出れば、すぐにパンゲア王国に移動できるのかな?」
エロリィは、「禁呪」によって、時空間を操り一瞬で、別世界への転移ができる。
異世界と日本すら行き来できるのだ。
「それはできるのよ。星の運行次第なのね。まあ、最長でも1週間以内でできるのよ」
「星の運行?」
「私の禁呪は星の運行に左右されるのよ。でも、パンゲア王国なら、どんな星の並びでも、使えない状態が一週間続くことはないのよ」
「ほう」
俺が感心したような顔をすると、エロリィはフフンと胸を張った。
ペッタンコの胸だった。
エルフになる前の千葉が絶賛の声を惜しまなかったボディだった。確かに、凄く可愛い。
「でさ、日本に戻ることはできるのか?」
俺は声をひそめて言った。
池内先生とエルフとなった千葉にはできることなら、聞かせたくなかったからだ。
彼らの故郷は日本だ。まあ、千葉は帰る気は無さそうだが。
「うーん、どうかしらね……」
難しい顔をして、エロリィは言った。
「できないのか?」
「アホウなの! 私ができないとか、あり得ないのよ!」
「できるのか?」
「そうね……50年か…… 100年後くらいには星の並びが整うと思うのよ」
「は?」
「それまでは、あっちには飛べないのよ。無理よ。あ、私の力の問題じゃないのよ。禁呪で異世界にとぶのは難しいのよ。こんなのできるのは、私くらいなのよ」
俺は、エロリィの言葉を黙って聞いた。
ああ、つまり、クラスの奴らはここを出ても帰れないということか……
帰れても50年後か……
クラスの連中は、全体に疲労の色が濃くなっていた。
毎日、クソまずいモンスターの肉をバケツで煮込んだものを食って、固い床に寝ているのだ。
太陽を見ることも無い。普通の高校生では消耗して当たり前だった。
エルフとなった千葉は、弱っているクラスメイトに「凡俗に対する問題の最終的解決」という言葉をちらつかせていた。
エルフの姿となっても、中身は千葉君でした。揺るがなかった。
「さぁ! 行いこう! この扉を開けて!」
エルフの千葉(仮称)が言った。
首から下げたトカゲの頭がいつの間にか2つになっていた。
俺はもう、上に行く階段さえ見つかればどうでもいいと思った。
俺たちは扉の前に立った。
でかい扉だった。重そうだ。
俺が押しても引いてもビクともしなかった。
「あはッ! どいて、アイン、ぶっ壊すから」
ライサが言った。
俺が扉の前を離れた瞬間、弾丸のように飛んだ。
「死ねぇぇぇ!! 殺す! ぶっ殺す!」
弾丸のように空間を貫き、ライサがが突っ込んだ。
緋色の長い髪が流れる。
弓を引くように構えた右拳が発射された。
メリケンサックが装着された拳だ。
ガッガーーン!!
巨大な金属製と思われる扉が吹っ飛んだ。
金属的な摩擦音を立てながら、床の上を滑って行く。
俺たちは部屋に入った。
通路よりも薄暗い部屋だった。
「また、扉が……」
俺は言った。
部屋の奥に、壁から飛び出た小部屋があった。
そこに扉がついていた。
「あそこですね」
シャラートが言った。
そして、扉に向かって一歩を踏み出した。
瞬間だった。
鮮烈といっていい、オレンジの光が床から立ち上った。一瞬、炎が噴き出したのかと思ったくらいだ。
予備動作を見せつることなく、そのまま後方に飛ぶシャラート。
着地と同時にチャクラムを構えている。
「な…… なんだこれ?」
強烈な光が束ねられたように1本の光の柱となった。
そして、その光が割れた。
ヌルっという感じで、その亀裂から、なにかが出てきた。
巨大な腕。
ゴツゴツとした腕だ。真っ赤に溶けた鉄を塊ごと、ベタベタ腕に貼りつけたような感じだ。
そして、空間の亀裂をこじ開け、そいつは全身を露わにした。
鬼だ――
異形の鬼だった。
基本は人の形をしていたが、腕の数が違った。背中からも腕が生え、6本の腕を持っていた。
巨体。おそらくは3メートル以上ある。
ドーム状の眼球が2つ、その顔にあった。鼻はなかった。ただ、岩石の割れ目のような口がそこにあった。
額からは1本の巨大な角が生えていた。ウネウネと螺旋を描き、歪な形をした角だった。
角の周囲にはなぜか白い布のような物が巻かれている。
岩石で作られた巨大で異形の鬼という感じだった。
重い音が響く。ぐぁぁああとその鬼は口を開けた。
「かはぁぁあ――」
部屋の温度が一気に上昇するような熱い呼気を吐いた。
ドーム状の目玉がギュルと動いた。眼球の中の瞳孔がすっと縦に細くなる。
爬虫類にような瞳だった。
「ラダログスの魔王を倒しに来た者か?」
空気が焦げるような声。
その声がビリビリと空気を振動させ、温度を上げる。
「我は魔王の眷属にして、守護者―― 鉄壁のガルガリオスだ」
その異形の鬼は名乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます