第三話 ブラックサンタ覚醒!?
バババババン ドゴーン!!
「うわっ!」
ドンッ メキィ!!
「どうした。噂の守護者とやらはこんな物なのか?」
禍々しき
「ふんっ、最初からこうしておけば良かったな。変にサンタの力を利用しようとしたから上手くいかなかったんだ」
昆虫の節の様でありながら肉食獣の筋肉をも想起させるという、生物として歪な腕をしげしげと眺めながら、自分の力が強すぎる事を確認するかの如く呟く怪物。
その力は既に人を越え、神の領域にまで達している。
「利用…だと? どういう事だ…」
倉庫のコンクリートの壁に叩き付けられ、全身の骨を バッキバキ にされながらも闘志は失っていない凱太郎。
ロイドは両手足を破壊され、ハジメは息はしているようだが意識を失っており、自身も満身創痍な上に奥の手の『
「僕の能力は吸収。サンタから力を奪ってサンタになっただけで、純粋なサンタじゃあない」
そんな凱太郎を尻目に、既に勝利が決まったと確信しているのか、余裕綽々で自身の能力について説明をする元少年の怪物。
「サンタの力も、サンタクロスも、君達守護者が倒してきた敵の武器も、僕が世界を良い子だらけにしたいと言ったらサンタの爺さん達が喜んで差し出してきたんだ。だから、僕はサンタ公認の存在。間違ってなんかいないんだ」
凱太郎に説明すると言うよりも、まるで自分に言い聞かせる様に語る元少年。
戦いの前に取り込んだ様々な武具は守護都市名護屋を襲ってきた歴代の敵が持っていた物と同じ物であり、中には二つと存在しないはずの武器もある。
それを同じ性能で作ってしまうとは……サンタのプレゼントというのはとんでもない代物だ。
しかし、少年が持っていた様々な武具がサンタからの贈り物という事は、この怪物には彼女の力が通用すると言う事でもある!
「成る程。だから私が呼ばれたのね」
「貴様! 生きていたのか!?」
聞こえるはずの無い声に反応して怪物が振り返った先には、地面に拘束されたままのサンタクロスの上に仁王立ちをしているブラックサンタの少女!!
「私はブラックサンタ。サンタと悪い子におしおきをする黒きサンタクロース」
「だからなんだと言うのだ! 僕が理想とする世界にお前なんか必要無い!」
ジジッ ギギギギッ ドゥン!!
怪物はブラックサンタの少女の姿を捉えると、朱い稲妻の走る白い球体を作り出し、彼女の言葉をかき消すかの様に投げつける。
「そいつを喰らっては…ダメだ……」
凱太郎は壁に埋まったまま声を絞り出して少女に警告をする。
この攻撃は別世界の神の力を使って世界法則を無視する『
「もう遅い! 灰燼と化せ!!」
しかし、当の少女は腕を組んで仁王立ちしたままで避ける素振りを全く見せていない。このままでは直撃してサンタクロスごと朱く燃え尽きて灰になるだろう。
「いつまで寝てるのよヴィクセン。さっさと起きて私を守りなさい!」
カツン!
眼前に迫る朱滅の球体をにらみ付けながら、少女が右足のヒールでサンタクロスを踏みつける。
その音は倉庫内に響き渡ると同時に、サンタクロスの赤い部分を黒く変化させた。
『
ヴァイィィイィン!!!
魔力、重力、物理、神通力、祈力、餅力の拘束を引きちぎり、雄々しく立ち上がる
『【
バシュゥゥ
「なんだと!?」
立ち上がった黒いサンタクロス。いや、ブラックサンタクロスが作り出した黒い半透明のフィールドが怪物の放った朱滅の球体とぶつかり、消滅させる。
これはブラックサンタが悪い子を懲らしめる際に子供から受ける攻撃を無効化する能力を増幅したフィールドだ。悪い子からの攻撃ならばどんな物でも防ぐ。
「全く、あんたがあいつをそれとなく裏切っているのは分かっていたけど、【
『申し訳ありませんわお姉様。私はサンタの資格を持つ物には逆らえませんので」
カツカツカツ
少女は仁王立ちのまま、ブラックサンタクロスの上でヒールを何度か打ち付ける。
ミニスカコスプレ少女にヒールで踏まれるとか、とても羨ましい。
「やはりあのロボット…搭乗者の邪魔をしていたのか…」
「素直じゃない少しおバカ人外強気少女×悪徳令嬢型従者AIの百合とかー、つめこみすぎー」
「ロイド! ハジメ!」
死んだかと思われたブラックサンタの少女が現れた事で流れが変わったのか、応急処置の済んだロイドと、致命傷だけは代わり身分身で避けたハジメが立ち上がり、壁に埋まっている凱太郎を助ける。
「なんだ貴様は! どうして攻撃を防げる!!」
自分の攻撃を防がれた事と少女が生きていた事に混乱しているのか、凱太郎達には目もくれずに少女に向かって叫ぶ怪物。
自分の力に絶対の自信があったのだろう。その焦り様は先程までの余裕の姿とは真逆だ。
「言ったでしょ、私はブラックサンタ。サンタが自らの職務を放棄した時と、悪い子が世の中に迷惑をかけた時に現れる存在よ。喰らいなさい、じゃがいも!」
ボボンボンボボン
「う、うわぁ!!?」
ボトボトボトボトボト
怪物の全身の装飾が全てじゃが芋に代わり、少年は神々しくも名状し難い化け物の姿から、赤と白で彩られた禍々しい外見の昆虫人間の様な姿に戻る。
「
シュタッ
驚いている少年を満足気に眺めながらブラックサンタクロスから飛び降り、被っている帽子を左手に持ってから右手を中に入れて ゴソゴソ しだす少女。
「何故だ! 僕は良い子だ! サンタの力も使える僕が悪い子のはずが無い!!」
少年はブラックサンタの少女に怯えているのか、大きな声を出してはいるが若干震えていて、じりじりと後ずさりをしている。
「っはぁー……バカね、あんた」
「な、なんだと!?」
少年の言葉に大きくため息を吐き、少女はやれやれと言った感じで首を振る。
「良い子は絶対に良い事しかしないって思ってる?」
「なっ、そ…それは……」
少年に近付きながら、まるで年下の子供を諭すかの様に話す少女。
そして、少女の問いかけに対して言葉を詰まらせる少年。
「良い事や悪い事の片方しかしない子供なんて居ないわ。子供は良い事もするし、悪い事もする。そうやって色んな事をして成長するの」
ズルリ
少女はサンタ帽から明らかに帽子よりも大きいサイズの麻袋を取り出した。
麻袋の中には灰が詰まっていて、ブラックサンタはこれで悪い子を叩いて周るのだ。
「少し考えたら分かるでしょ? 世の中を良い子だらけにしても、必ず悪い事をしてしまう子も出てくるわ。子供とはそういう物。良い子でも悪い子は居るの」
「く、来るな…来るんじゃない…」
少年は完全に少女に恐怖を感じている。
少年は分かってしまったのだ。『悪い子を懲らしめる』という存在のブラックサンタに、自分が勝てない事を。
「だから、世の中に迷惑をかけたあんたは悪い子! この私、ブラックサンタが決めるわ!!」
スパーン!
「ぐはぁ!」
少女が麻袋で叩いた少年の腕の変身が解け、昆虫人間から子供の腕へと戻る。
「サンタの力も悪用して! 反省しなさい!!」
パパーン!
麻袋で叩かれた背中が、禍々しい外見から華奢な姿へと戻る。
「う、ぐぅ!」
スパーン! パーン! パパパーン!
足が、肩が、胴体が、それぞれ少年の体へと戻っていく。
「や、やめろ…やめてくれ…」
最早頭部しか昆虫人間への変身が残っていない少年。
後は全て少女によって麻袋で叩かれている。
「さあ、これで最後ね」
最早避ける素振りを見せずに諦めて座り込む少年を見下ろし、腰を捻って麻袋を振りかぶる少女。
「せーのっ!」
『ヤメロォォォォ!!!!!!!』
「うわっ!??」
少女の渾身のフルスイングが少年に当たる寸前、少年から半透明の禍々しい生首の集合体が飛び出した。
少年は自分の体から現れた存在に驚き、尻餅を付く。
「あれは、魔王!」
「機械王だと!?」
「先代…」
集合体の生首のいくつかに見覚えのある守護者の三人。
それもそのはずだ。この集合体は守護者に倒された者達の怨霊。少年の体を乗っ取って守護者達に復讐を果たそうとしていたのだ。
「やっと出てきたわね。消えなさい!」
ブォン
『オノレェェェェェェ!!!!!』
バシュン
少女はフルスイングした麻袋を膝を曲げることで振り上げ、少年の頭ではなく怨霊にぶつける。
それは見事なアッパースイング。確実にホームランだ。
「ふー、終わった終わった」
「い、今のは…」
麻袋を何処かへと仕舞い込み、一仕事を終えた後の溜め息を吐く少女。
そして、尻餅を付いたまま目を白黒させる少年。
「あんた、自分で言ってたじゃない。『僕の能力は吸収』って。だったら変身能力はいつ手に入れたの?」
「え、……あっ?」
少女の言葉に再度驚く少年。
そう、吸収能力は相手の力を吸収するだけであり、自らの肉体を変化させることは不可能だ。
「どこかであの悪いのを吸収しちゃっていたんでしょうね。いや、あいつのほうから無理矢理吸収させたのかも」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあ、僕が今までやってきたことは…」
「あいつに思考誘導をされたんでしょうね。いくらなんでも、世界中から武器を無くしたからって悪い子が居なくなると思う? サンタのジジイ達もあんたを守る為に従ってたんだわ」
「そ、そんな…僕は…なんて事を…」
自らが良かれと思って行った事が実は悪者に操られて行っていた事だと知り、頭を抱えてうずくまる少年。
無理も無い。思考は誘導されていたが、本人がやろうと思ってやった事なのだ。その責任は計り知れない。
サッ
「ほんとにバカね、あんたは…」
そんな少年を優しく抱きしめるブラックサンタの少女。
「操られていたとはいえ、あんたがした事は確かに悪い事だったわ。世界中に迷惑を掛けて、あのクソガキどもを痛めつけて、私の事も一度は消滅させた…」
「おい、誰がクソガキだ」
「君の事だろう」
「二人のことかなー」
『あなた方三人の事ですわ。あの叩き付けと拘束は絶対に許しませんことよ』
後ろで四人(三人と一機?)がうるさいが、ここは無視しよう。
「でも、言ったでしょ? 良い事や悪い事の片方しかしない子供なんて居ないわ。子供は良い事もするし、悪い事もする。そうやって色んな事をして成長するの」
「で、でも…僕はとんでもない過ちを…」
ギュッ
泣き出しそうになって震える少年を、更に強く抱きしめる少女。
その姿はまるで聖母の様で有り、正しく聖人の御業だ。
「そういう時は『ごめんなさい』って言えばいいのよ。それで大人はみんな許してくれるわ」
「そんな簡単な…」
「簡単に決まってるじゃない。子供はまだ色んな事を知ろうとしている最中なんだから、過ちを犯すのは当たり前の事よ。どんどん間違えて、どんどん謝りなさい。そうして大人になっていくの」
「ぼ、僕は…僕は…」
ブラックサンタは悪い子を懲らしめる為に存在すると言われているが、それは悪い子に罰を与える為だけに存在しているのではない。
「もしも周りの大人があんたを許さないって言っても、私が許してあげるわ。私は絶対にあんたの過ちを許してあげる。なんたって、私はブラックサンタだもの」
「ひぐっ…うっ……」
悪い子が悪い子のままで居ないように。良い子になれる様に手助けをする存在がブラックサンタなのだ。
「ごめんなさい……」
「ええ、いいわ。許してあげる」
悪い子が来年は良い子になれるように。
良い子が来年に悪い子にならないように。
その為にブラックサンタは悪い子を懲らしめ、良い子へと導く。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「いいわよ、許してあげる。何度でも間違えなさい。そして何度でも謝りなさい。その度に、私が許してあげるから」
少年は何度も謝り、少女はそれを何度も許した。
これがブラックサンタと人類に宣戦布告をしたサンタを巡る物語の集結。
サンタにより窮地に陥った世界だったが、今年も又、人類は救われたのだ。
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