第二話 ブラックサンタ死す!?

『先日国連で行われた総会によりますと、今月1日に各国の軍施設で破壊活動を行った、サンタを名乗る正体不明の存在を国際テロリストとして…』

「はあ? なんでサンタがテロリストなのよ! どういう事よ!!」


バンバンッ


「おじょうちゃん、テレビだだくさにしたらあかんでぇなもぉ? おたんちんなってまぁう」

「あ、ごめんなさい…」


 商店街の隅にある駄菓子屋のTVに噛り付いてサンタ関連のニュースを見ていた少女は、世界がサンタをテロリストに認定した事に怒りを感じていた。

 ニュースによると、どうやら12月1日に世界中の軍施設が突如として攻撃を受けて多数の兵器が破壊されるという事件があったらしく、同日の夜にその首謀者と思わしき人物から国連宛てに


『君達が良い子にしないからこうなるんだ』


 という手紙と、破壊される兵器の動画が届いたのだという。

 そして、その手紙の差出人の名前が『サンタクロース』となっていて、実際に国連の上空をサンタと思わしき謎の未確認飛行物体Unidentified Flying Objectが飛んでいたのだとニュースキャスターがフリップを交えながら言っていた。


「おじょうちゃんでらええ服着てらっさるけどぉ、えりゃあさんかえ?」

「私? 私はブラックサンタよ」

「部落さん? 山からきよったんか? ほなのに素足なんてさみゅぅてかんわ」


 駄菓子屋の店内を見渡せる様に、上がりかまちに腰かけていたお婆さんが スッ と立ち上がり、杖を突きながら少女に近寄って生足の太ももを ペタペタ と叩く。


「そう? 私は寒さを感じないのだけれど」

「寒ぅに素足なあらすか。見とるだけで寒イボがでりゃあすわ。これ穿きぃん」


 そう言いながらお婆さんはエプロンのポケットからタイツを取り出し、少女に穿くように勧める。

 タイツは高級仏具に使う黒壇の様なデニールの高い濃い黒タイツだ。この婆さん、出来る!!


「仕方ないわね、折角だし穿いてあげるわ」


 少女は素直じゃない感じを出しつつも興味津々な表情でそう言い、黒タイツを受け取ると ウキウキ で立ったまま片脚を上げて モゾモゾ と黒タイツを穿く。

 少女の格好は胸元から膝上までのワンピースなので、正面から見たらとてもあられも無い姿だ。


「中々良いじゃない! 黒ってのも気に入ったわ」

「ええがねええがね。よぅ似合っとる」


 少女が黒タイツを穿き終えると、お婆さんはまたも太ももを触り ペタペタ と叩く。

 黒タイツの太ももを触るなんてとても羨まけしからん。


「そうだ! この靴下を貰ったお礼に良い物をあげるわ。生ものを容れてもいい器ってあるかしら?」

「こんタッパでええ?」

「大丈夫よ。……行くわね、臓物!」


ポポンポンポポン


「ひやぁ! 」


 少女が手をかざして叫ぶと、突如としてお婆さんが持っていた空のタッパにツヤツヤと輝く内蔵が現れる。しかも処理していない塊が数本だ。


「どう? 新鮮なシマチョウよ? トマトで煮込むと美味しいんだから。まずは片栗粉で…」

「あわわわわ…」


 お婆さんが手元に現れた臓物に驚く中、少女は先程は断られたホルモンを出せた事に満足しているのか、自慢気にシマチョウの下処理の仕方からトマト煮込みの作り方を説明する。

 だが悲しいかな、この国ではトマトは生で食べるのが一般的で、加熱したトマトを好んで食べる人は少ないのだ。


「そろそろ私は行くわね。私が産まれた理由わけが大体分かったし」

「ほうかほうか。最近の若っかぁ子も自分探しするんやな。ホルモンありがとぉな」


 その後、少女は一通り内蔵料理の案内をしながら追加でレバー、ハツ、センマイと鉄分が豊富な部位をお婆さんに渡し、 ウッキウキ の上機嫌で駄菓子屋を出て行った。






ヴィヨンッ


「なんとも不思議な能力ですねぇ」


 少女が駄菓子屋を出てから暫く後、駄菓子屋の店内の鏡の中にニヤニヤとした細目の青年が現れる。

 彼は【鏡面跋扈シュピーゲル】。直接の戦闘能力は無いが、情報収集や伝令役として活躍している守護者の一人だ。

 【】付きの二つ名持ちという事は、数居る守護者の中でも上位階という事である。


ベリッ


「ええ、無から食料を産み出すなんて。世の理を無視しているわ」


 顔に付けた特殊メイクを剥がし、お婆さんの変装を外したのは久納くのういち。ハジメのひいお祖母ちゃんであり師匠でもあり、ハジメに変わった性癖を植え付けた元凶だ。


「いやいや…貴女、素の姿がお婆さんですよね? なんで下に変装してるんですか」

「忍は年齢不詳かつ外見不詳。常識よ? それにこの姿のほうが旦那が喜ぶの」

「そうですか…」



 市子は今年で92歳。

 守護者は引退したが、街の情報収集役としての【百面のお市】はまだまだ現役だ。






★ ★ ★






 場所は戻り、先程のお祭り用具保管倉庫。

 ブラックサンタの少女も若い守護者の三人も居なくなった後、新しい存在が現れようとしていた。


パシュゥゥ パリン


「ようやく現地に来れたか。反応を拾ってから2時間もかかっちゃったじゃないか」

『北極圏から巡航速度で来るよりは早いですわ。我慢なさいませ』


 空間を割って転移してきたのは、全高6m程のトナカイを模した赤色と白色のツートンカラーのロボット。

 サンタが世界中を飛び回る為に使っているトナカイのソリであり、対サンタ狩り用防衛兵器でもある強化外骨格のサンタクロスだ。


「2時間も経ってるんじゃどこへ行ったか分かったもんじゃない。とりあえず残滓を拾ってどっちに行ったかだけでも調べるんだ」

『かしこまりましたわ。でも、まあ、どうせ無駄でしょうけれど』


 サンタクロスから聞こえるのは声変わりをしていない少年の声と、流暢に話す合成の機械音声。

 二人(一人と一機?)は先程現れたブラックサンタの反応を拾ってこの場に現れたのであり、そのブラックサンタを探している。


「無駄とはなんだ無駄とは。お前はサンタである僕に従っていればいいんだ」

『きちんと従っていますわよ。兵器の破壊も反対しなかったではないですか。操縦は散々でしたけれど』

「そういう所が嫌なんだよ! 余計な事をしゃべるな!」

『ビーピロリロリー プポー』

「そういう事じゃない!! 全く、これだからオリジナルは…」


 しゃべるなと言われたので電子音で反応するサンタクロスのトナカイオペレーティングシステムと、トナカイオペレーティングシステムにキレる自称サンタの少年。

 量産型サンタクロスのトナカイオペレーティングシステムは無機質なAIだが、オリジナルの8機だけは特別なAIを積んでいて、この様に中々ファジーな受け答えをしてくれる。

 このオリジナルサンタクロスにはヴィクセンが積まれている。名前の通り、【メスのキツネ、口やかましい女】という性格だ。


「それで、残滓は見つかったのか?」

『ピロリロリロー』

「喋っていいから人間に分かる言葉で言え!!」


 完全にヴィクセンにおちょくられているサンタの少年。

 本来はサンタに服従しているはずのトナカイオペレーティングシステムだが、こうまでもサンタをおちょくるとは……。何か不備があったのか、それとも単に元からヴィクセンがこうなだけなのか。


『この倉庫内外がブラックサンタの残滓だらけでどっちに行ったのかは特定出来ませんわね。何かと争ったのではないかと思われますわ』

「争っただと? まさか消滅なんかしてないだろうな」

『それは大丈夫かと。何せ、どっちに行ったのかは分かりませんが…』


バァン!!!


「なんだ!!」


 ヴィクセンの説明の途中で勢いよく倉庫のドアが開かれ、反応するサンタの少年。

 ドアを開けた先に居たのは…


「現れたわねサンタクロー……サンタクロス付き!!???」

『こちらに向かって来ている反応がありましたので』


 お目当てのブラックサンタの少女だ。


「ちょっとちょっと! サンタクロスはクリスマスの夜しか使っちゃいけないはずでしょ? なんで今使ってんのよ!!」


 そしてサンタクロスを見るや否や抗議を挙げる少女。

 少女もサンタの転移反応を感じて倉庫まで駆け付けたのだが、サンタクロスの反応までは分からなかった様だ。


「ふんっ、こっちから探す手間が省けたな」

『探すのは私ですけれどね』

「……少し黙っていてくれ」

『ピープー』

「音も出すな!」


 探していた相手から現れてくれた事に驚いたが、直ぐに落ち着きを取り戻してサンタクロスの体を少女へと向ける少年。

 ヴィクセンは喋らせると色々とこじれそうなので黙っていてもらう。


「その声、あんたもしかして子供!? ジジイ達はどうしたのよ!!」


 少女はサンタクロスがこの場で動いている事に驚いていたが、何故か入りっぱなしになっている外部スピーカーから聞こえる声を聴き、パイロットが子供だという事に再度驚く。


「子供だからなんだっていうんだ。僕がサンタになる事に爺さん達は反対しなかったし、サンタクロスもこうして動いている。僕がサンタだ!」


 少年は子供だと言われた事に反応し、声を荒げながらめっちゃ早口で自分はサンタだと主張する。

 サンタクロスはサンタの資格がないと起動が出来ないので、少年がサンタな事は間違いない。それはサンタクロスが証明してくれている。


「そして僕は決めたんだ! この世界から悪い子を無くして良い子だけの世界にするって! 良い子にプレゼントを配るだけじゃ世界から戦争は無くならないって!」


 少年はまた同じ様にめっちゃ早口で決意を語りながらゆっくりとサンタクロスの右腕を動かし、その拳を少女へと向ける。


「だから、サンタの紛い物のブラックサンタなんてのは真っ先に始末するんだ。悪い子に嫌がらせをするだけの無能なブラックサンタなんていらない。サンタは僕だけ居ればいい!!」

「何言ってるの…あんた……」


 少女は少年の言っていることの理解が追い付いていないのか、茫然としながら扉を開けた体制のままサンタクロスの動きを見ている。

 少年が次に何をするのかを理解してはいるが、その理解に体が追いついていない。

 まさか、だからだ。


「喰らえ! 【プレゼントを運ぶ右腕デリバリー・マグナム】!!」


ゴッ シュバァァァ!!!


 掌にプレゼントを載せて差し出す形のまま、雪の結晶や星を撒き散らしながら飛び出すサンタクロスの右腕。

 腕を小さなソリと捉える事で遠隔でプレゼントを配る【プレゼントを運ぶ右腕デリバリー・マグナム】だ。その速度は十分な距離さえあれば音速を超え、近距離でも直撃すれば無事では済まない。

 そんな【プレゼントを運ぶ右腕デリバリー・マグナム】が、茫然と立ち尽くす少女に迫る!!


「危ないっ!」


ガギン


「なんだと!?」


 少女に当たる寸前で【プレゼントを運ぶ右腕デリバリー・マグナム】が叩き落とされ、驚きの声を挙げる少年。


「この星にまだ未見の技術があるなんてな。相転移ミサイル発射!」


チュドン ドドドン


「ぐわっ、不意打ちか!? おい、なんで警告が無かった!」

『音も出すなと言われましたので』


 背後から撃たれたミサイルの衝撃でサンタクロスが大きく揺れ、ヴィクセンに文句を言う少年。

 ヴィクセンはこの程度ではサンタクロスが壊される事は無いと分かっているのか、少年と違って焦った様子はない。


シュバババ


「今の内にこちらへ」

「えっ、えっ?」


 サンタクロスにミサイルが着弾すると同時に、何者かが少女を抱き抱えて倉庫の外へと飛び出す。

 サンタクロスの装甲はミサイルの着弾では傷付いていないが、パイロットの注意が背中に向いた事で離脱は簡単だった。


「で、とりあえず助けたけど、これからどうする?」

「データの照合が済んだ。あのロボットは軍施設を襲った国際テロリストの物と95%が酷似している」

「おおー」


ポヨンポヨンポヨンポヨン


 少女を助けたのは先程の三人。


 【プレゼントを運ぶ右腕デリバリー・マグナム】を剣でパリィしたのが、伊勢いせ凱太郎かいたろう

 背後に回り込んでサンタクロスにミサイルを撃ち込んだのが、安藤あんどう露異土ろいど

 抱き抱えた体勢のまま、後ろから少女の胸に手を当ててポヨンポヨンしているのが、久納くのうはじめ


 三人は少女を見失ってからそれぞれの拠点に戻ってじゃがいもと化した物をどうするか途方に暮れていたのだが、ハジメにひいお祖母ちゃんから『貴女がやられた良い脚をした少女に香り付きタイツを穿かせておいたわ』と連絡が入ったので、他の守護者がやってくる前にリベンジを果たそうと集まったのだ。


「あんた達、いい所に来たわね! あいつを止めるのに力を貸しなさい!」


 しかし、等の少女は自分が助けられた側であるのにも関わらず、上から目線で三人にサンタクロスを倒す為の協力を要請する。

 緊急時にはお互いの立場や過去は関係無い。立っている者は親でも使えの精神だ。


「サンタなら仲間なんじゃねえの? 仲間割れか?」

「私はあいつを止める為にやってきたの。同陣営でもそういうのはあるでしょ?」

「なるほど、監察官の様な立場か」

「これはこれはなかなかの物をおもちでー」


モミモミモミモミモミ


 ハジメに思いっきり胸を揉まれながら会話をする少女。

 凱太郎とロイドは揉みくちゃにされて形を変えたり胸元から溢れそうになる少女の大きなおっぱいを凝視するのは悪いかと思い、視線は倉庫へと向けている。


「とりあえず助かったからお礼は言うけれど、あなたはいい加減胸から手を放してくれない? そろそろ痛いわ」

「そんなー」


ポヨン


 これ以上は怒られると判断し、名残惜しそうに最後に大きく一揺らししてから手を離すハジメ。

 いくら女の子同士でもやり過ぎだ。ちょっと替われ。


「力を貸せと言ったよな? どうしたらいい? 半端な攻撃じゃ効かなさそうだぞ?」

「ああ。相転移ミサイルの効果が無かったという事は、単純な物理攻撃では傷を付けられない」


 相転移ミサイルは小型ながらも地球上の物質では防ぐことがほぼ不可能な凶悪兵器なのだが、それが通用しないとなると通常の武装ではなく概念兵装や亜属性武器が必要になってくる。

 鎧太郎もロイドも奥の手として似た様な物は持ち合わせてはいるが、どちらも使用には女神の認証や行政の許可が必要なのでおいそれとは使えない。


「サンタクロス…あのロボットの背中に排気口があったでしょう?」

「あったか?」

「あった。そこを狙ったんだが無傷だったな」

「あそこから入って、中に居る奴にプレゼントを届けるわ」

「「「?」」」


 少女の言葉に三人は何を言ってるんだこいつという感じで頭に疑問符を浮かべる。

 だが、少女は大真面目だ。伊達にブラックサンタを名乗っていない。


「あのロボットを建物、排気口を煙突に見たてる事で、サンタの能力を中に入る事が出来るのよ」


 そう、サンタは煙突がある家ならどんな家でも侵入可能だ。

 中に人が居る且つ、煙を出す筒があるのならば、ロボットであっても煙突が付いた家と認識が可能であり、認識したならば必ず侵入出来るのがサンタなのだ。


「そういえば精霊は自分ルールの魔法使ってたな」

「この星にはまだ観測していない事象が沢山ある様だ…」

「まー、サンタさんなら当たり前だよねー」


 少女の言っている事は微塵も理解出来ないが、少女が出来ると言うのなら出来るのだろう。三人はそれぞれ三人也に納得して判断する。


フヨフヨ キラーン!!


「やばいっ! 見つかったわ!」


 少女達が倉庫の外でまごまごしていると、倉庫から星型のドローンが飛び出してきて少女達を捉えた。

 ドローンはサンタがプレゼント配達先の建物の中を調べたり、家庭の会話を盗み聞きするのに使う【お手伝い妖精スターフェアリー】だ。


「いい? あいつもサンタだから建物を壊す行動は出来ないはずよ。転移される前に動きを止めなさい! ブラックサンタ団!! アッセンブル!!!」


スゥゥ


「あ、おい! くそ、また消えやがった。なんだよブラックサンタ団って、本当にあいつを倒しに来たんだろうな?」


ブンッ


「抗議は後でするしか無い。少なくともあのロボットが国際テロリストの物という事と、彼女と敵対している事は確かな様だ」


ガシャンガション


「拙者らではあの機械には攻撃が通らぬ上、ここで逃がすわけにもいかぬ。どちらにせよ他の守護役が来るまでの時間稼ぎは必要でござろう。でーもー、あのかけ声はいろいろまずいー」


チャキ


 姿を消しながら三人を勝手にブラックサンタ団員とし、版権ギリギリの掛け声を挙げる少女。意味としては『集まれ』みたいな感じなので使い方を間違えているが、そこはご愛嬌。

 そして掛け声を皮切りにそれぞれ戦闘の準備する三人の守護者。

 勝手に団員にされた事はさておき、少女が自分達を騙そうとしていたとしても国際テロリストに認定されたサンタを見逃す事は出来ないので、結局は三人がやる事はそう変わらないのだ。


「ブラックサンタの姿と反応が消えたぞ! 消滅したのか!?」

『サンタ道四十八手の一つの隠れ身ですわ。暫く何者からも認識されなくなるのですが、お爺様方から聞いてらっしゃらないので?』

「うるさい! たまたま知らなかっただけだ! それより逃げられたらただじゃおかないからな!」


 少女の姿が消えたのを【お手伝い妖精スターフェアリー】からの中継映像で見て焦る少年だが、ヴィクセンの説明を聞いて気持ちを取り直す。

 なんだかんだでヴィクセンはサンタのサポートをする為のAIなので、口は悪くともサンタが直接不利になる事はしないのだ。


『それに、姿は見えずとも干渉は可能なので、範囲攻撃をすれば当たりますわ』

「だったらここら一帯を…」

『建物に被害が出るので不可能ですわね』

「じゃあ言うな!」


 これはからかっているだけなのでセーフ。


「棒立ちだなんて余裕だな。俺達じゃ相手にならないってか?」


ズリズリ


 少年がヴィクセンにおちょくられていると、正面の入り口から凱太郎が自分の身長と同じぐらいのサイズの長さの巨大グラディウス(厚くて幅広の両刃剣)を引きずりながらやってくる。

 装甲は堅くても衝撃は通ると判断して、亜空間BOXから取り出した、凱太郎の所持品の中での最大の物理剣だ。


「ふんっ、お前達の様な子供の相手なんて…」

「超振動弾発射!!」


ガガガガガ


『足下のコンクリートが粉砕されていますわね。このままだと埋まりますわ』


 正面から現れた凱太郎に注意が向いている隙に、ロイドがサンタクロスの足下のコンクリートを振動弾で粉砕する。

 先程の不意打ちは無警告だったヴィクセンだが、流石に身動きが出来なくなるのは危険と判断したのか今回は警告を発した。


「ちぃっ、向こうは建物を破壊してもいいのか!?」

『サンタでは無いですし』


ガッ ボボボッ


 ヴィクセンからの警告を受け、サンタクロスの足が粉砕されたコンクリートに埋まらない様にブースターを機動させてジャンプをする少年。だが、それはとんでもない悪手である。


「分かりやすい動きでござるな」


ジャラン ジャラン ガギィン


『鎖ガマなどと言う前時代的な代物が足に絡みついていますわね。ご丁寧に反対側が倉庫の柱を巻き込んでいますわ』

「くそっ、厄介なっ!」


 足下が危険なら上へと逃げる。

 こんな事は誰でも予測可能な動きであり、戦いの最中で予測されやすい動きをするというのは相手にイニシアチブを譲ると同義である。

 ハジメはその動きを予測し、サンタクロスの足と、それほど丈夫では無い倉庫の柱を繋ぐように鎖ガマを巻き付けた。

 鎖は柱が折れれば倉庫諸とも崩れる様に巧妙に巻き付けてあり、少女が言った『サンタは建物を壊せない』という言葉が嘘だったとしても、瓦礫で埋もれさせることが出来るという上手いやり方だ。


「転移で抜け出せないのか?」

『座標を固定していない状態ではセーフティがかかりますので。それよりも正面の防御をオススメしますわ』

「正面? ……うわっ!?」


 少年がヴィクセンに言われて正面モニターを見ると、そこには巨大グラディウスを振り上げた状態でサンタクロスに向かって跳躍している凱太郎の姿が…


「どっせい!!」


ガヅン!!!


「うわぁ!!?」

『あ、まずっ…』


ズゥゥンン!!!


 空中で凱太郎の力任せの一撃を喰らい、そのまま粉砕されたコンクリートの中へ叩き落とされるサンタクロス。

 瓦礫と化したコンクリートはサンタクロスの体を半分以上埋め、抜け出すには強引に飛び上がるしか無いだろう。


「『拘束バインド』!」

「重力フィールド設置」

「鎖分銅、鍵縄、封魔帯、反転布、ついでにとりもち」


ヴィンジュオンガシャンガギンバババギュオンペチャッペチャッ


 そして、動きの止まったサンタクロス相手にそれぞれ行動を封じる為の妨害を行う三人。攻撃が通用しなくとも戦い方はいくらでもあるのだ。


「くそっ! 抜け出せないのか!!?」

『かなり厳しいですわね…地味に転移も封じられていますわ…』


 魔力、重力、物理、神通力、祈力、餅力と複数の力で拘束されたのでは、いくらサンタクロスでも周囲に被害を及ぼさずに抜け出すことは不可能である。

 これが何も無い荒野ならばまだ方法があるのだが、お祭り用具保管倉庫に転移してしまったのがそもそもの失敗だった。


「あんた達、やるじゃない!」


 サンタクロスが完全に動けなくなったのを確認したからか、ブラックサンタの少女が姿を現して三人を讃える。

 少女の場所は倉庫の入り口辺り。そこから勢い良くサンタクロスへ向けて走る。


「い~く~わ~よ~」

『詰みましたわね。窮屈になるので覚悟なさいませ』

「どうなるんだ? おい、おい!?」

「煙突どすん!」


ガッ キュポッ


 走る勢いのままサンタクロスに跳び蹴りをかます格好で足から突っ込んだ少女が、サンタクロスの背中の排気口へ吸い込まれる様に入っていった。


「うわ、マジであそこから入ったのかよ…」

「精霊の生態はとても興味深いな…」

「入ったはいいけどー、あれってコックピットに繋がってるのかな-」


 後に残された守護者の三人は、何か反応があれば直ぐに対処出来る様にサンタクロスを三方から囲む形で見守る。


ガタガタガタ パーンッ!! ゴロゴロゴロ


 暫くするとサンタクロスの頭部辺りにあるハッチが揺れ始め、中から勢いよく紅白の何かが飛び出してきた。

 赤地に白いモコモコの付いた服を着た、自称サンタクロースの少年だ。


ガッ


「ふう、これであんたはもう戦う力を失ったわ。世界を良い子だらけにするとか、私を始末するとか、物騒なことはもう止めなさい」


 サンタクロスのコックピットハッチに片足をかけ、地面に転がった少年を見下ろす形で説得(のつもり)をするブラックサンタの少女。

 その顔は何故か煤で汚れており、髪の毛も一部が チリチリ だ。


「本当にやりやがったなあの女」

「ああ、後はあのサンタクロースを拘束するだけだ」

「むむ、角度が悪くてスカートの中がみえないー」


 少女が本当にサンタを止めたことを驚きつつも、これで今回の事件が終わる事に安堵する三人。

 だが、獲物に止めを刺していない状態で気を抜く等、守護者がやっていい事ではない。同じ過ちを繰り返すのは人間のSAGAなのか。


「あんた達もよくやったわね。後でお礼を…」


ズキュゥゥゥン!!!


 少年から目を離した少女の胸元に、向こう側を除けるほどの大きな銃創が空く。


「え…?」


パタリ


「僕の力がサンタクロスだけだと、誰が言ったんだ」


 サンタクロスのコックピットから投げ出された少年の手に握られているのは、サンタには不釣り合いなゴツイ外見のレーザー砲。


「馬鹿な! あれは機械帝国のオメガブラスター。僕が破壊したはずだ!!」


 少年が持っているレーザー砲はロイドが昨年に戦っていた敵のボスが使用していた武器であり、機械帝国の崩壊と共に消滅した物だ。


「サンタクロスはサンタの活動をするのに便利だから使っていただけだ。僕はまだ戦える…」


ビュオッ


 膝を突いたままの少年の姿が、赤と白で彩られた禍々しい外見の昆虫人間の様な姿へと変わる。


「星薙ぎの太刀だと!? どうしてあいつが…」

「万華戦袍…封印されているはず…」


 姿の変わった少年の手はいつの間にか暗黒に輝く刀を掴んでおり、首には光を吸収する漆黒の布がはためいている。


「ブラックサンタだけじゃない。お前達も悪い子として始末してやろう」


シュイン シュイン シュイン シュイン


 少年は他にも複数の武具を周囲に浮かび上がらせながら三人を見据える。

 どれも圧倒的な力を持っている神具や宝具の類いであり、一つだけでも世界を消滅させるには十分な代物だ。


「さあ、第二ラウンドといこうか」


シュゥゥゥゥゥゥ ガシーン!!!


 そしてその全てが少年の体へと取り込まれ、少年の姿は神々しくも名状し難い、二足歩行の化け物へと変化した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る