第2話
部室に着くと、わりと人がいた。だが、昼練に来る顔ぶれが固定化されつつある。そういうの、なんか嫌だ。怖い。中学のときも自由参加の昼練があった。でも、来ない人に対して来る人たちはなんとなく怒っていたというか、見下していたというか。吹きながら吹奏楽関係の情報交換していたり、吹き始めずにおしゃべりしていたり。自由参加の昼練だからか、のんびりしている雰囲気がある。昼は、顧問の先生もいないからかもしれない。こういうのは嫌いじゃない。でも、僕は吹奏楽の何かの知識はほとんど持っていない。だから、周りに話しかけることはせずに一人、自分の楽器の方へ行く。
楽器を取り出す。僕の担当のチューバは、吹奏楽の楽器の中では最も大きい部類に入る。重たいので、取り出すのも一苦労だ。楽器がへこまないように、そっと床に置く。
「ふう...」
この重さに慣れないのはかっこ悪いだろう。女子から「力ないね〜」と言われるし、部員からは、「中学からやってるのに、どうしてそんなに重そうに持つの?」などと言われる。そんなことを言われても、重いものは重い。高校入学を機に、新しい楽器に挑戦してみても良かったかもしれない。だが、気力が無かった。ふと思い出したくない記憶が蘇ってきた。
(続けるでしょ?)
(楽しいよね?)
(本当にそれで良いの?)
やめてくれ。蓋をしたままにしたい。最後のは特に。
「ねえ、鎌ちゃん。合わせよう!」
ふと現実に戻る。古田が声をかけてきたのだ。
「あっ、うん。音出しするから待ってて。」
のんびりした冬休みの雰囲気なら、基礎練習しなくてもすぐに合わせることが許される気がする。でも、やっぱり基礎練習しなければと思う。きちんとやらなきゃ。なぜかびっしょり手汗をかいていた。
昼練が終わり、部室を出る。古田は他の部員と授業開始ギリギリまで話すようだ。僕は授業に遅れたくないので、先に出ることにした。彼は部活が大好きらしい。教室にいるときよりもずっと生き生きしている。うん、すばらしい。
「......古田のことが羨ましい、のかな。」
自分に問う。答えが出せるわけないのに。
ふと足が止まる。止まってしまう。階段を降りる途中ですれ違った女生徒。黒髪ストレートが印象的だ。
「村中、さん...?」
思わず言ってしまった。だが、彼女は振り返らない。無視なのか、単に忘れられただけなのか。けれど、僕は忘れられない。
彼女を見ると、いつも自分の選択を後悔する。
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