第30話分断工作

「断りましょう」

「だが与一郎、それでは上杉と北条に、好き勝手にさせることになるぞ」

「それでよいではありませんか」

「それは、徳川の方が危険だと言っているのか」

「はい。上杉と北条など、後で幾らでも成敗できますが、徳川殿はそう簡単に斃せる相手だと思えません」

「う~む」

「宜しいですか」

「官兵衛殿は儂の軍師じゃ。遠慮なく思うところを言ってくれ」

「では遠慮せずに申し上げますが、徳川殿にどう対応するかは、修理進殿と三七郎様次第ではないでしょうか」

「その通りだ。一番の難敵は徳川殿であろうが、今は領地を接している訳ではない」

「ですが三介様や三七郎様と組まれたら、厄介ではありませんか」

「与一郎の言う通りだ。官兵衛殿はどう思う」

「ですから徳川殿には、甲斐と信濃の切り取りを認め、織田家に介入させないようにしましょう」

「あの徳川殿の事だから、甲斐と信濃を取れるとなれば、織田家の跡目争いには加わらないと考えるのだな」

「しかしそれでは、滝川殿や森殿が行く場をなくしてしまいます」

「なるほど、与一郎は彼らを味方につけろと言うのだな」

「はい。修理進殿には越後切り取り勝手を約束し、三介様と三七郎様には、信濃甲斐を回復した後で、関東東国切り取り勝手を約束します」

「うむ。徳川殿には相模と伊豆に攻め込んでもらうのだな」

「はい」

「だが皆が素直に認めてくれるかだ」

「与一郎殿は、徳川殿に力を付けさせるくらいなら、修理進殿と三七郎様が力を付けてもよいと言われるのか」

「いえ違います。官兵衛殿」

「ではどう言う御考えなのかな」

「衰えたとは言え、上杉は難敵です。背後の殿を気にしながら、容易く攻め滅ぼせる相手ではありません」

「そうでしょうな」

「北条も関東の雄です。武田の遺臣も、川尻殿を討ち取るほどの者達です。三介様と三七郎様が容易く勝てる相手ではありません」

「その通りですな」

「その間に四国を平定すれば、殿の力は増し、織田家の方々の心も掴めるでしょう」

「修理進殿と三七郎様が言う通りにすると見せかけて、殿に襲い掛かってきたらどうされるのですか」

「望む所です。修理進殿と三七郎様を討ち取る大義名分を得られます」

「小一郎はどう思っているのだ」

「与一郎と同じ考えです」

「官兵衛殿、どうかな。儂には良い考えだと思うのだが」

「恐らく修理進殿と三七郎様は殿に襲い掛かるでしょう。阿吽の呼吸を間違えたら、殿が負けることになりますぞ」

「なぁに、それはまた小一郎と与一郎が上手くやってくれるさ」

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