第31話謀略

「どうする、修理進」

「ここは筑前の言う通りにいたしましょう」

「また剥げ鼠の思うままにすると言うのか」

「しかし今更領地の配分をやり直すことなど出来ません」

「それは分かっておる」

「五郎左も勝三郎も、筑前と心を一つにしております」

「恩知らず共が」

「彼らも織田家を割るのを防ぎたいのでしょう」

「だからと言って、成り上がりの剥げ鼠の好きにさせるわけにはいかん」

「しかし三介様が乗り気ですから、我々が幾ら反対しても無駄です。下手をすれば、三介様が関東東国を切り取ってしまいますぞ」

「あの馬鹿にそんな力はない」

「生き残った上様の旗本衆の半分は、三介様の下におります。一度は北条に敗れたとは言え、入庵もなかなかの戦上手です。そこに勝三と毛利河内が加われば、侮れませんぞ」

「う~む」

「それにここで筑前の提案を蹴ってしまうと、入庵達に恨まれるだけでなく、他の家臣達の心も離れてしまいますぞ」

「おのれ剥げ鼠。何時も、何時も、忌々しい奴じゃ」

「三七郎様」

「いっそ討ってしまうか」

「そのような事をすれば、三介様が敵に回ってしまいます」

「あの馬鹿など敵に回っても何の恐れもない。それに既にあの馬鹿は敵だ」

「三七郎様」

「そうじゃ。剥げ鼠の策に乗ったと見せかけて、四国に向かった奴の背後を叩くのだ」

「ですからそんな事をすれば、筑前は三介様と手を結んで、尾張から美濃に攻め込ませますぞ」

「ふん。三介は信濃甲斐に攻め込ませ、密かに殺してしまえばいい」

「三七郎様、兄弟殺し合うのはお止めください」

「修理進、今さら何を言っている。一度は父上に槍先を向けて、殺そうとしたではないか」

「三七郎様」

「三介も剥げ鼠も、あいつらに組する者も、全て織田家の敵じゃ。攻め滅ぼすしかないのじゃ」

「分かりました。腹を決めましょう」

 柴田勝家と織田信孝は、羽柴秀吉の策に乗った振りをして、羽柴秀吉を攻め殺す決断をした。

 だが織田家の譜代衆や与力衆の心を繋ぎ止める為に、上野・甲斐・信濃を失った、滝川一益・森長可・毛利秀頼に援軍を出すことにした。

 討ち死にした河尻秀隆の甲斐二十二万石と信濃諏訪郡二万八千石は、援軍の褒美に分け与えることになった。

 そして罠に嵌める織田信雄と先陣争いをするように見せかけて、信雄の功名心を煽り、信雄軍を信濃に先行させた。

 この時、徳川家康も自立の意志を固めており、織田家の言いなりになる心算はなかった。

 甲斐信濃を手に入れる為なら、再び旧武田家臣団を唆し、織田家家臣団を攻め殺す決意をしていた。

 一方柴田勝家は、上杉家を攻めると見せかけて、密かに上杉家と通じ、織田信雄を殺すと同時に、背後を固めて羽柴秀吉を討つ準備を整えていた。

 織田信孝は、織田信雄を謀殺した後で、尾張を攻め取る準備をしていた。

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