第6話敗戦

「義伯父上、大丈夫でしょうか」

「小一郎殿は戦上手です。相手が豪勇の淡河と言えど、小一郎殿が後れを取られることはないでしょう」

「それならばいいのですが」

「それに万が一の事を考え、小一郎殿は五百騎の手勢を半数に分け、与一郎殿に預けられたのです」

「そうですね。私がしっかりしなければならないのですね」

「そうです。与一郎殿の名をあげる絶好の機会です」

「痛」

「うわ、痛い」

「痛、何だ、これは」

「どうしたのだ」

「殿」

「楓。何故このような場所におる」

「殿、淡河は菱の実を巻いて備えております」

「何だと」

「このままだと、御味方は足を痛めて満足に戦えなくなります」

「一旦引くか」

「はい。十分な足拵えを整えてから、再度攻めかかるべきだと思います」

「義伯父上、父上に御知らせしてください」

「敵が討って出ました」

「何。間に合わなかったか。者共迎え討て」

「「「「「おう」」」」」

「うわ」

「与一郎殿」

「殿」

「楓、儂はどうしたのだ」

「馬から落とされたのです」

「何たる不覚」

「いえ、殿の所為ではありません」

「何。どう言う事だ」

「恐らく雌馬を放ったのです。それで牡馬が暴れたのです」

「姑息な。いや、よくぞ考えたな」

「とにかく今は御逃げ下さい。このままでは討ち取られてしまいます」

「うむ。痛」

「どうなさいました」

「足を挫いたようだ。儂を置いて逃げろ。このままでは楓まで討ち取られてしまう」

「嫌です」

「楓を無駄死にさせるわけにはいかん」

「殿は子供を父無し子にする御心算ですか」

「何。子が出来たのか」

「はい」

「ならば、それこそ楓を死なせるわけにはいかん。生き延びて儂の子を産んでくれ」

「嫌でございます。死ぬも生きるも一緒でございます」

「楓」

「殿」

「御邪魔して申し訳ありませんが、ここは私が防ぎますので、与一郎殿と楓殿はこの馬に乗って御逃げ下さい」

「義伯父上。それでは義伯父上が討ち取られてしまいます」

「もしここで与一郎殿を見捨てて生き延びたとしても、藤吉郎に殺されてしまいますよ」

「義伯父上」

「与一郎殿を見殺しにしたとなれば、仲の義母上が口添えしてくれても、許してはもらえませんよ」

「分かりました。何としても生き延びて見せますから、義伯父上も死なないでください」

「分かっています。私もまだ死にたくはないですから」

「殿急いでください」

「分かった。楓は馬にも乗れるかの」

「はい。任せて下さい」

「いや、だか、馬になど乗って腹の子は大丈夫なのか」

「馬鹿」

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