79話目 王都帰還は又もや波乱が!

 ロータス侯爵令嬢や侍従、護衛へ気を使っていた午前中のアルフのあの別行動は何だったのか、もうそこは開き直るしかない。やらかしてしまった事は済んでしまった事だし今更どうこう言ってもしょうがない。


 魔素溜まりから離れ、魔力酔いからシラフに戻ったあたしやアルフはそれでも気持ちを持ち直して、大量の素材剥ぎ取りで其々の分配やお肉で女子会はバーベキューやろうかなとか考えてたんだけど、シルバニアはそうはいかなかったのよね。


 なんせ、ブーケットの王宮のプライドが歩いているような人だし、あたしに駄目出しする位、普段から行儀作法にうるさい人。それなのに、シルバニアの今までの人生をくつがえすような自身が崩壊ほうかいしたドSな姿を外部の人間であるフローディア達に(部下には時々、さらすらしいから。注:アルフ談)さらしてしまった事に、開き直るなんて到底無理だったらしかった。それはそれはかなりの落ち込みようで、その落ち込む姿を見てしまうのさえ大丈夫なのか心配になる程だった。


 お酒飲んでも全然変わらない人だったしね。しかもいつも何かと態度や口調でのお小言対象の確率が側近の中では一番高いオーレンにも見られ、尚且つ魔素溜まりから離れつつ、魔力酔いが覚めるまで皆に待ってもらうという、有り得ない状況にシルバニアのプライドはズタボロになってしまったらしい。


 そんな面倒くさ……大変な状況のシルバニアを見るのもちょっと楽しいあたし達だったけど、言葉には出さないでおいた。


 武士の情けさね。


 でもそんなに気にする事かなぁ。マグノリアさんなんて深酔いした醜態を何度見た事あるやらなのに。オーレンだって酔い潰れてジョージに運ばれているの何度も見た事あるし、そんな事で一々……大変だわね。一番年上だとか、アルフの教育係だったからとか、王族だとかシガラミなるものがシルバニアの性格を縛っているらしかった。今回の場合、身内だけなら大した事無かったんだけど、身内以外に見られた事が汚点となるらしいよ。



 やっぱり言っちゃおう!面倒臭っ!!



 そんなこんなでブツブツ煩いシルバニアは放って置いて、あたし達は再び馬車に乗り込み、ミュラ達を迎えにロータス侯爵城へ向かった。


 ロータス侯爵の領地でも、女王のお土産をいっぱい買えたし、喜んでくれると良いなぁ。


 ミュラやハイドランは見た目にも特別に可愛いから、ロータス侯爵令嬢の兄上達に沢山遊んでもらってかなりご機嫌な様子だった。ミハイルが言うには大量のドレスを買ってもらったり、ロータス侯爵令嬢の子供の頃の服を沢山貰えたらしくて、嬉しそうだった。ハイドランも兄上達のお下がりを貰えたらしい。お下がりといっても流石に上級貴族の服だし、綺麗だし質も良い。それよりもハイドランは2番目の兄上から銀の短剣を貰って、かなり興奮していた。



「2人がすっかりお世話になったようで、ありがとうございました。王都にお越しの際は是非、王宮にも顔をお出しください。皆さんを歓迎致します。」



 アルフがロータス侯爵やご子息達にお礼を申し上げている最中も2人はあたしに其々のプレゼントを嬉しそうに代わる代わる見せては報告するのだった。それこそ、ピョンピョン飛び跳ねながら。



 くぅっ…たまらなく可愛い。



「フローディア!またお会いしましょう。多分、見知った顔ばかりだとは思うけど、次回の女子会の案内状をお送りするから、それまで待っていてくださいね。その時、皆にフローディアの事を紹介するから宜しく。」


「はい。ハルネ様。またお会い出来るのを楽しみにお待ちしていますわ。王都まで、道中、お気をつけてお帰りくださいませ。」




 うん。では王都へ向かって帰還しますか!!





 時刻は15時を過ぎてティータイムのはずだけど、すっかり疲れて馬車の中は死屍累々ししるいるい


空間魔法の利点を活かした作りのこの王宮馬車は実は中は10畳程のリビングをそのまま入れたような大きさになっている。外から見ると普通の馬車サイズなのに、中は広々と全員乗せても問題なく余る程大きい。この辺り空間魔法って凄いよね。キッチンもトイレもシャワールームもリビングとは別に備えてある。これはアルフやあたしが作ったんじゃなくて、ちゃんと王宮の職人が作った物なのよ。空間魔法を使える職人は重宝されるので、王室御用達としてちゃんと丁重に扱われている人みたい。


 サイドテーブルや衣装タンスや食器ダンスも広々ソフアーもいくつか置かれている。王宮職人だけあって、豪華で丁寧な作り。彼方の世界で言うと、ベルサイユ宮殿にあるような白い天板に金の植物が立体的に掘って設えてある家具っていったら判りやすいかしら。馬車自体もやはり白地に金のゴテゴテし……そりゃ〜もう、ミュラやハイドランなんか興奮して喜んでいたわよ。今は備え付けのベッドで2人とも眠っているけど。


 転移で帰るのも味気ないしね。

せっかく馬を用意してもらっていたので、のんびり帰還に向け、馬車を走らせている。


 ピノ等の侍女達は後ろに別の普通の馬車で付いて来ている。



 アレキサンダーは気疲れしたのか大きな口開けて、涎垂らしながら白目向いてるし、オーレンなんかソフアのヘリに頭乗せてグラグラしながら器用に寝ている。とか言うあたしもアルフの胸に寄りかかっていたら、欠伸が止まらない状態。これはもう王都までちょいと寝かせてもらおう。


 いつもの自分に戻る為なのか、シルバニアは小難しい顔して紅茶に口をつけ、ほうっとため息を吐いた。


 護衛はミハイルとグレン。馬車に並走し馬を走らせている。御者の隣はメガエラが座り、辺りの様子を伺っている。侍女達の馬車の後ろに実は騎士団から迎えに来た、騎士が護衛してくれている。1人はハルトナイト・バス・トルアス騎士副隊長とティアルミア・ミント・ワルツ隊員の2人。


 ハルトナイトは騎士そのものの真面目で2m50cmの高身長で目付きも鋭く、黒髪濃紺の瞳のクールで無駄な脂肪は一切無さそうな細マッチョイケメン。


 ティアルミアも女性の割に185cmの高身長でロングの銀髪をポニーテールにした金目の狐の獣人の美女。獣人族なので勿論身体能力が高く、同じく鋭い眼光で残念ながら、せっかくのモフモフ銀毛の尻尾も迂闊に触れない。触ったら、説教されそう。



 ……あぁ、モフりたい。



 騎士団の人間はお堅い人が多いから、ちょい近寄り難いのよね。


 盗賊や魔物対策なんだろうけど、別に防御魔法だけで大丈夫なのにな。まぁ、お陰で安心して昼寝が出来そうだわ。


 …って事でちょっとお休みさせていただきます。


 …ふわぁ。





 ……所が、眠れたのはほんの30分程だった。あまりの異様な殺気に起こされてしまった。


 周りを取り囲むような殺気の集団。馬車は否応なく止められていた。仕方ないな。


 アルフもシルバニアもも警戒した厳しい表情だった。


 アレキサンダーは既に外に出ていて、ミハイル、グレン、騎士やオーレンと戦闘に備えている。



「あたしとアルフでミュラとハイドランを一旦、王宮に転移させない?」


 危ないし、あまり戦闘の様子を子供達に見せたくない。シルバニアは王宮でミュラ達の側にいてもらいたいと言ったけど、その役はミハイルに任せたいそう。


 そうね。シルバニアがアルフを放って置くわけないか。



 仕方ない。ミュラを抱いて、一旦王宮へ転移した。アルフはハイドランを抱いて同じく転移した。




「ごめん。春音はこのまま戻らないで、ここで待っていて欲しい。勿論、春音が強いのも役に立つのも解っているよ。だからこれは僕の我儘なんだ。」




 アルフに抱きしめられ諭される。




「春音はもう、唯の婚約者の時とは違うんだ。既にブーケットの王太子妃であり、僕や国民皆の希望。」




 そんなのズルい!

 アルフだって、王太子じゃない。それこそあたしより大事な立場じゃない。


 あたしだって、アルフの役に立ちたいのに!


 って言おうとしたら、人差し指で止められた。




「……解っているよ。だから僕の我儘だって、ごめんね。でもね。今回は魔物が相手では無い。人間が相手だ。だから時には非情な判断を下さなくてはならない時がある。春音が戦いの場に居たら、僕の気が逸れてしまうんだ。解って欲しい。」




 頭を何かに叩きつけられたみたいにグワンッてショックを受けた。


 ………そんな事言われたら、何も言えない。



 あたしはただ、下を向いて頷くしか出来なかった。アルフの顔を見る事が出来なかった。




 アルフはごめんって小さい声でもう一度言うと、シュンッて転移して行ってしまった。




 直ぐにミハイルやグレン、アレキサンダーがピノ達を連れて転移してきた。また、直ぐに現場に転移して又侍女達を連れてくる。


 メガエラも転移してきた。あたしの側に居るために、来ちゃったけど、本当は戻って戦いたいんじゃないの?と言ったら



「はぁ??春音様を王宮にお残して?まさか!わたくしは春音様の筆頭女官ですのよ。そこいらの侍女とは違いましてよ。そんなわたくしが春音様のお世話を他人に任せるわけが無いじゃないですか。それに王宮の中で春音様のお側に居て、護衛するのもわたくしのお仕事ですわよ?まったく何当たり前の事を今更聞いているんですの?戦闘狂な皆様と同じだと思われるのは大変な心外ですわ。」



 とか言われたや。あはは。さいですか。それはそれは失礼いたしました。




 ……戦闘狂って。


 違うと否定出来ない自分が悲しい。いつの間にこんな性格になったんだっけ?


 そういえば、前にアルフにも言われた事あったよね。


『前は怖がっていたのに』


 ……って、確かに。魔法を使うようになってからかな。


 アルフにも言われちゃった。


 そうか、魔物の時とは違うんだ。

 確かに、人間相手って事は人を殺さなくちゃいけないって事なのね。


 いつものアルフとは違っていた。

 王太子のアルフだった。


 あたしは王太子妃として、直ぐに判断出来るのかって言われたら、確かに無理だったかもしれない。

 平気で人を殺せるのか?


 例え盗賊とはいえ、人に対して攻撃魔法をかけられるとは思えなかった。あの襲撃があった時、魔族相手の時でさえ、あたしの魔法で殺してしまったのかと動揺していたの、アルフは見抜いていたのかもね。


 あたしの事はあたしより良く知っているから。



 メガエラは暫く、その場で立ったままでいたあたしの手を引いた。



「旅の汚れを取り、お着替えいたしますよ。春音様。女王様に帰還の報せを出しますわ。それに王太子殿下がお戻りの際、綺麗なお姿でお迎えいたしましょう。」




 うん。そうだったね。



 シャキッと背筋を伸ばし、あたしは自分の部屋へ向かった。



 そうだね。アルフが戻って来たら、ゆっくり休めるように色々用意しよう。

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