71話目 太陽の父神様の神殿跡地

 ミュラは顔がパァっと明るくなり、上半身を起こした。本当に良かったね。


 ミュラの部屋をうかがう彼に気が付き、アルフが捕縛ほばくした時に彼が背中に受けていた怪我のせいで、抵抗も出来るような状態ではない事に気が付いた。多分、追手から逃げる時に受けた怪我なのだろう。ヒールをしようとしてもミュラの安否を確認するまではと拒否したようだ。


 ハイドランを椅子に座らせ、シルバニアにエクストラヒールをかけさせた。



 彼から聞いた所、ミュラは本名をミュラゼルダ・イリス・メル・ローゼンサンダールと言って、ローゼンサンダール帝国の皇帝の第三夫人の長女なのだという。帝国では皇帝の子息子女の中でも、魔力が高い者が後継となる。彼女は帝国で太陽の父神から祝福を受けた帝国最高の魔力がある。皇帝から正統なる後継者として唯一認められた皇女である為、それを妬む者達から生まれてから幾度となく命を狙われてきたらしい。多分、別腹の兄弟達からの手であるらしい。


 彼女の住む青の城は後継者だけが住むことの許された城らしくて、彼女と第三夫人のベラトリス、彼女等に仕える侍女達と執事達、護衛騎士が合わせて100人程で暮らしていたらしい。


 爆破された時は夜中でミュラを抱えた彼女の母である第三夫人が怪我をした為、ハイドランにミュラを預けて逃げるように指示をしたらしい。熱りが冷めた頃、仲間達と合流する手筈だったが執拗に追われた為、仕方なく船の中に隠れていたらしい。


 気が付いた時は船が動いていたらしくて、ハイドランが受けた背中の怪我のせいで船が止まるまでは大人しくしているしかなかったと言う。そんな中、よく生きてたどり着けたものだわ。ハイドランの歳を聞いた所、まだ13歳だった。しかも、護衛騎士ではなくて、護衛騎士見習いだった。よく頑張ったね。と頭をくしゃくしゃに撫でたら、彼は顔を真っ赤にして顔を歪め、目をウルウルとさせた。突然の事で相当辛かったんだろうな。近くに誰も彼を保護する者はいないし、他国で途方に暮れていたのだろうね。


 あたしとアルフの身分を明かし、ミュラとハイドランを保護する旨を伝え、もう大丈夫だと安心するよう言った。そして国の情勢を見て、ローゼンサンダール帝国に戻す事を約束した。


 ミュラの近くに彼にも部屋をとらせて、ハイドランを休ませた。安心したようで、ミュラと食事した後はすぐに眠ってしまった。


 エグモント医師から怪我の状態はエクストラヒールで完全に治っていると判断してもらったので安心した。



 なので、あたしとアルフは午後から太陽の父神様の神殿跡地に調査に行って見ることにした。



 ローゼンサンダールからの二人をエグモント医師に任せ、アレクサンダーとグレン、起きた時の対応の為、メガエラを始め侍女のピノも付けた。モリーは買い出しに行ってもらっている。あたし達はシルバニアとオーレン、アーミンを引き連れ、アルフと太陽の父神様の神殿跡地へ向かった。


 街を出て人目がつかなくなった所で三輪バギーに其々それぞれ乗り込み、神殿まで飛ばした。砂利のある道も幾分山道になっていたが、バギーの車輪は時々ジャンプしたがバランスを崩す事もなく、何事も無く進んで行った。ほぼ鐘一つの時で太陽の父神様の神殿跡地まで辿り着けた。


 アーミンがちょっと遅れたので、先に着いて魔物がいないか辺りを検索した。特に問題はなかった。流石、アルフに作ってもらったピアスのおかげでホイホイになっていない。


 こちらの跡地にも隣に灯台代わりにされている塔が立っていた。


 太陽の父神様の神殿跡地は建物が残ってはいるものの、建物の半分は瓦礫や土、苔や雑草等の緑に覆われていて、人手で復活するには中々厳しい状態だった。


 やはりここは魔法を使い、一旦、土、緑を取り除く事にした。壊れた物を復活させる為の魔法。



「リバイバル」



 瓦礫の破片が宙を舞い、元々の建物を復活させ、残っている建物と繋げて、姿を取り戻していく。


 何度か見たが色々ある魔法の中でも、いつも不思議で感動する。


 神殿の中央に太陽のシンボルである壁画が浮き上がってきた。やがて、ドーム全体に父神様や取り巻く多くの神々の物語が浮き上がる。その壮大なる壁画の色鮮やかさも戻り、神々の表情、動き出しそうな繊細な美しさや荘厳さが見るものを圧倒させた。遥かなる時代を感じさせない壁画の作者の力量に驚愕した。



「凄すぎて、言葉か出 ないよ。……この壁画は勿体ないから、このまま使いたいわね。」



 あたしは感動し、震える声で言った。



「ん…。この壁画は彼方の世界から誤って時を渡って、此方に来て しまった人が描いたものらしいよ。」



「え!?」


 何それ!?


「誤って来たの?」



「……うん。彼はどうやら時の精霊を怒らせてしまって、嫌がらせのように古い時代へ飛ばされてしまったらしいんだよね。幾つか文献が残っているよ。時の精霊に対する恨みとか後悔とか、そんなものを推し量られる詩とか魔法陣の跡とか、嘆きの絵画とか、かなり数が残っているよ。」



「…それでその人、彼方の世界に帰れたのかしら?」



「…さあ?」



「……。」




 太陽の父神様の神殿は壁画部分を別に組み直し、大幅に修正された。高さが足りなくて圧迫感があるので、天井を高くして窓を大きくとった。


 太陽の父神様のクリスタルの像は腕の部分が欠けていたが、魔法で腕を復活させた。すると右手の中指に金の指輪がはめ込まれていたのに気が付いた。指輪は太陽をイメージしたものだった。


 クリスタル像はやがて旗めくような黄金のマントを纏い、頭には黄金の冠と左手には同じく金の錫が姿を表した。


 建物自体も割と派手めだったので、リメイク後の神殿も華やかなものになりそう。



 …う〜ん。ここからはシルバニアの独壇場だわね。あれよあれよと言う間にシルバニアの造形魔法で出来上がっていく。って言うか、あまりにもシルバニアが真剣過ぎて、作業中にあたし達の口が挟めるような雰囲気はない。本当に夢中になって楽しそうに作っている。


 それにしても流石シルバニアだわ。金を沢山使っていても、けっして下品にはならない。何処かのギラギラ精霊とはエライ違いだわね。クスクス。




 灯台の上部に太陽の神力を集める為の大きな円形クリスタルがはめ込まれていた。集まった太陽の神力をクリスタルに貯め込みその力を利用して、夜に遠くの海へ光を届けている。魔石では魔力を込められる。クリスタルは神力を込める事が出来るのか、不思議さに興味をもった。彼方の世界にあるソーラーパネルみたいなもんかしらね。



 日が紅く染まる頃、シルバニアがやっと満足のいくと思われる神殿や灯台が出来上がった。


 執務室や宿泊施設も幾つか作られたので、職員を住まわすにも問題なさそう。出来れば、灯台は海の監視の仕事も含む為、神殿とは別に雇用しようと思う。




 シルバニアのお城に戻るとミュラ達が元気に出迎えてくれた。


 側にシルバニアのお父上グレーメン公爵の姿もあった。


 グハッ!!あたしの好みど真ん中のイケメン!腰まで垂らしたサラサラストレート銀髪、青と緑のオッドアイ。シルバニアより背が高く細く儚い感じ。微笑みも柔らかで、花開くよう。


 つい、ぼぅっと、うっとりした目で見つめてしまって、アルフにジットリした目で睨まれちゃった。



 チッ

 こういう時は感が鋭いんだから。


 まるで乙女ゲーの攻略対象者みたいな爽やかさ。しかもシルバニアのような、底知れない毒も感じない!


 ……って言うか、あれ?

 シルバニアのお父上って年結構いっているんじゃなかったのぅ?前に年取った父のとか言ったセリフ聞いたような?どう見ても、20代後半。寧ろシルバニアの兄位にしか見えない。


 やはり、妖精の血が濃い〜と年取りにくいんですかねぇ?



「お姉ちゃん!おかえりなさい。」



 ミュラが腰に抱きついてきて、めちゃ可愛い!!


 いやぁ、癒されるわぁ。


 あたしだけではなく、アルフもシルバニアやオーレンでさえ、暖かい気持ちで癒されている。


 今日はメガエラ達とトランプやったり、お絵かきしたりして過ごしていたらしい。いくらヒールで体を治療したとはいえ、呪いや火傷、矢や剣で傷をうけた時に血を失ったりしたので、エグモント医師からは安静に過ごすように言われたらしい。


 何にせよ元気になって良かった。いくら後継者争いとはいえ、こんな子供がしいたげられる状況なんて許せない。二人の安全が確認されるまではブーケットに居たら良い。本人達が望むのなら、そのまま住んでしまっても良いよ。勿論皆で守って、幸せに暮らせるようにずっと支えるよ。


 あたしや高坂だって、彼方の世界から来て、皆に支えてもらっているから、今の幸せな暮らしがあるのだろうしね。突然この国に来たけど、皆、面倒見良いし、二人を虐めるような奴はいない。


 ……ん。嫌な貴族はいるけど、が守るよ!嫌な思いはさせない。

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