72話目 ブルーライト港町で再開!?

 今日は朝早くからブルーライト港町の朝市に来ている。ミュラが一緒に行きたいと希望していたし、エグモント医師にミュラやハイドランの体調を診てもらったが、特に問題は無いと言われた為だ。


 子供の回復力はすごいね。身の危険という心配事が無くなったせいかハイドランが側にいる為か、ミュラはすっかり元気になった。


 寧ろ、ハイドランの方が精神的には大変そうだ。まだ13歳という年齢に比べて、ミュラというローゼンサンダールにとっては重要な皇族であり、彼の国で太陽の父神に唯一認められた者の庇護者であり、お守りであるから。


 あたしも色々あったし、神に認められるという事がどれだけ大変な事かは分かる。でも、こんな子供が虐げられてまで背負うべきものではない。太陽の父神様が唯一認めたっていうのなら、ちゃんと加護してあげなさいよ!怖い思いさせて、中途半端じゃない?



「…ハイドラン。ミュラの事は私達に任せてもらえないかな?勿論、あなたの意見も沿うようにするし、その都度ローゼンサンダールの情報は伝えるから、安心してもらって良いのよ!?」


「………でも私は第三皇妃にミュラゼルダ皇女様の事を命がけで守るように頼まれた者です。全てをゆだねる事は致しかねます。」


「全てを委ねる必要はないわよ?ミュラの為に一緒に考えいこうと思っているだけなのよ。それに太陽の父神様が守護しているのなら、いざとなったら力になれるかもしれないしね。ふふふ。」



 まだ納得出来ないような、でも信用したいような複雑な気持ちを抱えたまま、かといってどうする事も出来ない不甲斐ない自分が情けなくて、ハイドランはただ俯くしかなかった。



「……でも、逃れて来た国がブーケット王国で本当に良かった。」



 ハイドランは自分しか聞こえないような小さい声で呟いた。



 ブルーライト港町の朝市では王都ブーケッティアとは違って、下町のような活気があった。売っている物も港町のせいか、外国でしか手に入らないような見た事無い物も多かった。海の近くのせいか、屋台の食べ物も海の幸が多く、辺りを良い匂いが漂う。朝ご飯の代わりに焼貝の串刺や焼うどんみたいな太麺を皆で食べた。醤油に似た香ばしくて甘みのあるタレが絶品だった。



 アルフが髪飾りを買ってくれるというので、眺めていた所、店の主人の息子が子供を抱えてやってきた。



「おお!サチェも一緒に来たのかい?ほら、お爺ちゃんも抱っこしてあげような。」



 ……ん?

 何処かで聞いた事あるような、名前だな。と店主の孫さんと目があった。



 …………。



『「「あああああああ!!」」』



 あたしとアルフと店主の孫らしき人物が同時に叫んだ。



「あんた!こんな所で何やってんのよ!」



 思わず、指差して叫んだ!




 ……そう、そこに居たのはかつて大討伐の際に、あたしが繭の中で羽化する時に緑の精霊によって、エルフの村へ連れ戻した筈の、幼児の見た目に反して本当は30超えのシルバニアと年が大して変わらないオッさんのエルフのサチェであった。


(……ひ、酷い。わたくしを引き合いに出すだなんて。オッさんじゃないもん。)←シルバニアの心の中。



「……でぇ?村に戻っている筈のあんたが何故こんな所で、人間を騙して可愛い孫のフリしてハブバブ言ってるんだっつ〜〜の?」



 サチェの腕を無理矢理掴みながら裏の広場に連れて行くと、腕を組んだあたしとアルフとシルバニアとオーレンは仁王立ちして、上からサチェを見下ろし、威嚇しながら取り囲んだ。




「……ち、ちょっと、人をだ、騙すだなんて、そんな!ち、違うから!」



 と、アウアウ言っているしらばっくれた態度のサチェに更に【威嚇】の圧力を加える。



 そこへ店主の息子がサチェを庇うように、走って来てあたし達の間に割って入ってきた。



「止めてください!!ち、違うんです!この子は悪くないんです!!お、俺がこの子に俺の息子のフリをして欲しいと頼んだんです!」



「「「「は?」」」」





 彼はアクセサリー雑貨の息子のサルザリエと名乗った。


 彼には先祖にエルフの血を持つ嫁がいる。結婚して 6年も経つがいまだに子供が授からない。元々人間とエルフ族との間に子供は出来にくい。特に人間側に魔力が少ない場合は特に難しいらしい。同じ人間同士でも魔力量に差があり過ぎると子供が授かりにくいと言われている。アルフが暫く独身でいた理由もそこの所にあるらしい。エルフの血を持つ嫁は特に先祖返りなのかエルフ並みに魔力があるらしく、これから授かる見込みも少なく、元々一緒になる事に反対していた父である店主に日頃から色々言われていたらしい。


 その為、ずっと父に会いに行けず、その日も本当は孫は諦めてくれと父に言いに来た息子が店に訪れていた。たまたま店に買物に来ていたサチェを息子の孫と勘違いした店主が今までには無かった、穏やかな声で嬉しそうに迎えてくれた姿に「違う」とは言えず、サチェの口を塞ぎ、息子だと店主に言ってしまったのだとか。


 後でサチェに頼み込み、フリをしてもらっているのだという事らしい。


 サチェが村から出た理由もサチェ以外に若い者がいない。長生のエルフの村の者でさえ、既に子が授かるような年齢の者はサチェ以外にいない。サチェの嫁になる娘を探す為に村から出たのだとか。サチェと釣り合うような魔力が在るものを探すのも結構難しく、魔力があっても長生き出来ない人間の娘は難しい。人里から隠されて生きて行くしかない村はこのままでは滅びていくしか未来の無い村である。


ブルーライトの近くの森にピクシーの森という所がある。その近くにはエルフやダークエルフが多く住み着いていると聞いて、訪れていたらしい。そういえば、大討伐の時にそんな話を聞いた事があるような。


 そんな時に未来の嫁候補の為に森に入る前に腕輪を買おうと、店を訪れた所だったらしい。



 皆に取り囲まれて、涙目になっていたサチェにトトトトッと近付いたミュラがサチェの頭を撫でた。



「…可愛そう。イジメは駄目なの。」



「…うっ!」



 そこにはサチェを庇う、癒しの光景が辺りを襲った。誰がコレに逆らう事が出来るというのか。



 ……ず、ズルイ。

 サチェめ!



 まぁ、頼まれたというのなら、あたし達が何か野暮を言うような必要はない。仕方ない。

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