65話目 シルバニア執務室

 アルフが寝ている間にシルバニアに相談に行った。


 なにせまだ夕方だし、クロの調べ物も神殿作りも今日じゃなくとも良くなったので、明日の為にも出来る事をやっておかないとね。


 シルバニアはアルフの親戚で、同じく妖精の血が入っている。アルフが急にあたしの所に来たから気になっているだろうし、相談がてら色々聞いてみたい事もある。


 シルバニアの執務室は近衛兵隊寮の近く、東棟の温室隣に建てられている。自宅は別に王都にあるがあまり帰らず、殆どこちらで寝泊まりしているらしい。確かにここは広くて落ち着く。何故自宅に帰らないのかというと、あまりの心配性でいざという時にアルフや女王を守れるように、それと直ぐに命令に動けるように、との事で帰らないらしい。


 王宮にシルバニア付きの女性側付はいない。執事が何人か居るがそれだけで良いそうな。女性がシルバニアに付くとやはり心穏やかに仕事に励めなくなるし、側付同士でバトルが始まってしまうのだとか、この容貌では仕方ないわよね。しかも、男性だけの方がシルバニア自身も心穏やかに過ごせるのだとか。


 今日は既に近衛兵服を着替えてラフな服装でいるせいか、何とも言えぬ色気がダダ漏れ状態である。あたしには美の化身のようなアルフがいつも側にいるし、大討伐の時には暫く衣食を共にしたせいか免疫力が出来たみたいでシルバニアの色香にやられるような事はないんだけどね。


 免疫のない女子には大変かも。そら執事さん達だけの方が、被害が出なくて仕事も捗るし平和かもしれない。


 そんな執事さんがとっても良い香りの高そうなアールグレイの紅茶を入れてくれた。


 シルバニアの執務室は王族の親族だけあって、テーブルも椅子も執務室には必要ないんじゃ?と思うような調度品の数々が置かれていた。めっちゃ豪華でいて、品もセンスも一流だった。シルバニアが自ら選んだのだろうと思わせるような、どこのメーカーなのかまでは判らないけど特別に選んだような物ばかりだった。それにあまり自宅に帰らないみたいだし、日々を充実させるには必要よね。



「…春音様、何があったのですか?殿下は大丈夫なのでしょうか。」



 ソワソワと落ち着かないシルバニア。アルフの事になると、いつものクールな顔が崩れるのよね。

 フフフフ。



「アルフは今、眠っているのよ。色々疲れやストレスが溜まっていたんだろうね。たまにはゆっくり寝かせてあげようと思って。だからあなたを呼ばずに、ちょっと相談もあったので、こちらから来ちゃったの。寝室の外にメガエラを付けているから大丈夫よ。」



 メガエラは元剣士だし、魔力も強い。それにアルフ製の腕輪を付けさせている。


それになるべく離れていないと、アルフはあたしの気配で起きちゃうからね。



「……はい。彼女なら…大丈夫ですね。僕の元部下ですから。……その、隠密部の方のですね。」



 あ〜。なるほどね。…それだけで何か色々解ってしまう。




「実は神殿のプロジェクトの件で東地区の跡地を復活させたんだけど、作りも古いし手を色々入れないと実際にはあまり使えそうもなさそうなのよ。シルバニアの意見やアイデアも聞きたくて、実務的でいて人々に厳かな敬意を与えつつ、もっと斬新なデザインの建物にしたいと思っているの。」



 チョコクッキーを頬張りながら、まずは1個目のお願いで軽くジャブ。



ほらほら、シルバニアったら目が輝いてきているよ。普段クールなくせに。


「色々な建物の本もチェックしたんだけど、これといって参考になるような物が載っていなかったのよね。あなたならこの部屋を見ても解る通り調度品選びや、部屋全体の雰囲気に合わせるセンスも本当に良いものね。意見があったら参考にしてみたいのだけど、制作部の方も見てもらえないかしら?とても忙しそうだとは解っているんだけど、どうかしら?」



 自身のセンスにはシルバニアも自信があるようだし、明らかにホッとして微笑んだ。何か面倒くさい事をまたやらされるじゃないかと思っていたんでしょ?いつもいつも構え過ぎよ。

まったく失礼じゃない?



「勿論です。私でよければ何なりとお申し付けください。」



 で、働く人材の方も聞いてみたんだけど応募人数に対して、集まった人数が多すぎて中々面談までは進めていないらしい。


 前回作った公衆浴場で雇われた人達から、給料や福祉厚生等の話を聞いた人々が期待を持って集まってしまったからなんだって。


 う〜ん。でも神殿だしこればっかりは適正がある人しか働けないのよね。

誰でも働ける公衆浴場とは違って、神殿は適正がないと働ける資格がないの。


 適正がある人=聖なる光か光魔法が使える人のみの募集なのよね。


 なので、実際に試験があって合格した人のみ面談に進めるのだけれど、解っていなかったのか適正全然ない人まで集まって来ちゃったから大変なんだとか。


 ちゃんと応募資格に書いてあるのに。あ、そうそう勿論読み書きが出来るのも条件の一つではある。



「それと、クロから王都の防御魔法について古代魔法を調べるように言われててね。シールス魔導士隊の人にも声かけたいんで、キンバレスさんに会えるようにしてもらいたいんだけど良いかしら?」



 シルバニアは微笑んだまま頷いた。



「それは私も考えておりました。魔法に関する事では彼等の協力が必要ですし、立場的にも彼等を春音様が使必要がありますからね。」



 あ〜。そうでした。

 つまり、貴族院側ではなく、魔導士会側の人間であるあたしが彼等にする事で、貴族院側の力を削ぐ事と同時に魔導士会の力を手に入れられるという事ですね。


 女王の最初のご主人暗殺に関した事も身内の裏切りによって起きた魔族襲撃事件も、貴族院の力が大きくなり過ぎてしまった事が原因と考えられるらしい。それに対して魔導士会は貴族院によってかなり縮小され、不満がたかぶり暴走しかねない事態にまでなっていた。女王を排除しようという噂が流れたのもそんな時だった。


 アルフとの婚姻の儀の際、キンバレスさんに協力を求めた事で、あたしは魔導士会側の人間と認められた。


 女王もアルフもあたしを大事にする事で、魔導士会の女王排除の動きはひとまず無くなったが、完全に不満が無くなったわけではない。


 今回、あたしが魔導士会の人間を使う事で、魔導士会にくすぶる不満の声を取り除くだけではなく、彼等に希望を持たせる事も出来る。あなたの味方だよって言葉だけではなく、行動でも示せって事よね。



 それからやっとの本題。



「シルバニアとアルフは親族よね。という事はシルバニアも妖精の血が流れているって事よね。」



 キョトンとするシルバニア。

 うん。話見えないよね?



「……実は神殿の復活の作業中にね、アルフとシルバニア達のご先祖さんが見に来てたのよ。……そ、それでね、アルフと言い合いになっちゃってねぇ。


 姿形はアルフとそっくりなんで、本当に驚いちゃってね。ほほほほ。」




「………何ですって?」



 うん。固まるよねワカルワカル。




 あたしはジェイムスに言われた、アルフやシルバニアの祖先の妖精だと言われた事や神に対する彼の見方とか掻い摘んで、シルバニアに伝えた。


 シルバニアは暫く考え込んでいたけど、女王やダンビラスさん、トッテンベールさんにも話を伝えた方が良いと言われた。


 情報は共有した方が今後の対策が取れやすいからだとか。会社での報・連・相と同じよね。




「…今回はアルフと言い合いになって話途中で中断してしまったけど、あたしは彼ともっと話がしたかった。彼ならもっと沢山の情報を持っているはずでしょ?長い年月生きてきた訳だし。なので今後はアルフが暴走しそうになったら、一緒に止めて欲しいのよ。」



「……解りました。私も情報は取れるだけ取りたいですからね。是非、とも協力させて頂きたいと思います。」



 ……流石、近衛兵隊隠密部長。良かった。シルバニアが味方になるのなら、安心だわ。


……なんだか、シルバニアの目がギラギラしているように見えるけど、気のせいかしら。


 長い年月生きてきたのなら、きっと多くの様々な事を知っているわよね。魔族の事、魔法の事、ここの世界の事。あたしの先祖の事も。


 ……もっと話してみたい。

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