52話目 成婚パーティー2日目

 アルフォンス王太子殿下、ハルネ王太子妃のご成婚パーティーは3日間に渡り、行われている。本日は2日目。


 今夜は各国の要人が集まり、盛大に行われる予定。最終日はパレードも行われるらしい。


 春音は昼食を食べながら、本日のスケジュールを確認していた。

 3時頃から、各国の要人が到着予定で、女王の謁見が始まる。あたしとアルフも女王の隣で、祝いの言葉を賜らなければならない。


「はぁっ。スィーテニアの国って、こんなに沢山あったのね。」


 春音はスケジュールを見ながら、ため息を吐いた。友好国や中立国の約123国の名前が書かれていた。


「東の方に小さな島国が沢山あるし、西のズーラル海の向こうは別の大陸があるから、そこにも沢山の国があるよ。我がブーケットはスィーテニアで最大の国だから、国をあげての祝いの場合、各国の要人が集まるのは必然だろうね。」


 アルフは生まれた時から、そういった環境にいたし、気持ち的にも余裕がある。


 あたしが作ったスパゲティを美味しそうに食べながら、幸せそうな顔で答えた。


 あたしは今夜倒れないよう、栄養を摂らなといけないと、備え付けのキッチンで、スパゲティカルボナーラを作ったんだけど、スケジュールを確認していく内に、食欲が減退してきた。


「う〜ん。……晩餐会も誰かしらに話しかけられるだろうから、余り食べる時間はないよ。食べられる時に入れておかないと、貧血起こして倒れちゃうよ。そんなに緊張するなら、リラックスをさせてあげようか?」


 あたしの手を握ってアルフは言った。


「リラックス?マッサージでもしてくれるの?」


「うん。何でもしてあげるよ。僕はいつでも側にいるから、怖い事はない。安心して任せてくれれば良いんだよ。」


 そう言うと、アルフはトロけるような微笑みを向けた。婚姻の儀を終えてから、アルフは本当に幸せそうで、今日もキラッキラです。お肌も艶々で、幸せ虹色オーラが溢れ出て眩しい位。


 王宮のメイドさん達もまともに見ちゃうと、クラクラ倒れそうになるから、アルフが通ると目を逸らすようにしている。下を向いて挨拶していれば見なくて済むと、メガエラから聞いた。なる程、迷惑かけるねぇと言えば、幸せ虹色オーラは周りも幸せにするから、良いんですよと言われた。



 そんなアルフの嬉しくて仕方ないっていう、幸せそうな笑顔を見ていたら、あたしも嬉しくなってしまって、心が段々と落ち着いてきた。



 国民の多くの者も、精霊の祝福にあやかりたいと、二人を模した人形や、二人の絵が描かれたグッズ等を作った。それらは飛ぶように売れているらしい。


「殿下とハルネ様の物語。〝愛の奇跡〟初版本、本日発売だよ。」


 なんて話をあたしをリラックスさせる為に連れてきた、ミトレスから聞いた。流石、皆、商魂逞しいわ。


「作家の構想では三部作らしいですよ。春音様は異世界に魔族の手によって誘拐された、スィーテニアの〝光の勇者様〟という設定になっているらしいですよ。まぁ、確かに勇者様クラスですもんね。春音様の魔力は。」


 と顔パックしながら、ミトレスが言うと、何故か一緒について来た高坂が、ミトレスの足にペディキュアを塗りながら、


「魔力は勇者様なんかより、魔王クラスだと思うけどな。」


 とか言っている。


 するとアルフまで、


「そんな春音だからこそ、僕は彼方で離れ難くなったんだから、結果的には良いんだよ。」


 とあたしの肩をマッサージしながら、言っている。


 まるでエステサロンのように、リラックス効果のある、良い香りのアロマキャンドルをきながら、アルフはあたしにフェイシャルマッサージを始めた。手つきがプロ並みになっている。アルフの拘りと、研究熱心さは凄いよね。

 お店開けちゃうかも。




 灰色と白い縞の花崗岩に囲まれ、厳重な鉄格子の扉に太い鍵が付いた、牢屋のような部屋に入れられた。解除魔法も効かない扉鍵。やっと手が届く、高い位置に窓があった。顔が入る程度の小さな窓は空だけが見えた。

 ベッドは硬く、クッションも薄い。それに寒くて仕方ないので、臭くとも我慢して毛布を被った。


 自分がどこに連れてこられたか、目隠しされていたから解らなかった。


 これから、私はどうなるのだろう。明らかに黒いオーラを纏う者たちに連れてこられた、マリーヌは絶望感に打ちひしがれていた。


 お父様は彼等が来る前に言っていた。


「お前の所為で、一族は路頭に迷うかもしれない。これしかもう手段はないのだと、お前があの方に気に入られれば、何とかなるかもしれないのだ。今度こそ失敗しくじるなよ。」


 あの方って誰なの?私は何をされるというの?時々遠くから、悲鳴のような声が聴こえる。恐怖で身体が硬直し、震え上った。


 ここで諦めたら、全て終わってしまう。どんな奴にだって、私をいいようになんて、させやしない。私はマンドリン家の娘よ。私が今まで叶わない事は無かった。絶対に這い上がってやる。


 絶望感と恐怖に押し潰されそうになる中、マリーヌは新たに己の誇りにかけて、誓うのだった。

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