53話目 王太子妃の務めと不穏な動き。

「婚姻の儀の際に、神が降りてきたって噂は本当ですの?」


 シンシナ国のリアナ王女が興味津々に聞いてきた。


 結構ストレートに聞いてくる人だなぁというのが、最初の印象。

遠回しに聞く人が多い中、彼女の裏の無い言い方には悪意は無さそうだった。



「はい。愛と豊穣の神です。」



「……そうですか。で?どんな姿だったのですか?やはり大きいのですか?お顔は?お美しいのですか?お声は?歌いました?」



 頰を赤く高揚させ、キラキラの金色の目で、あたしの掌を握りながら、迫られた。あたしはなるべく落ち着いて、その時の話をした。



「…はい。とても大きな神様でした。大きさもですが、圧倒的な存在で、自然に跪いてしまう程でした。やはり神々しく、大変お美しい方でした。お声は頭に直接語りかけて頂いた感じで、美しいお声でした。いえ、お歌は歌っておりませんでした。」



「一度去ったはずの神様の降臨でしょう?我が国でもその噂で、大変な騒ぎでしてよ?父にも話を聞いてくるように言われましたの。」


 他の国の人からも、神の復活は一番関心のある事らしく、その神に加護を受けたあたしに対する接し方は尋常じゃなかった。


 新婚旅行は是非我が国へと、いつでも来ていただきたいとお誘いを受けたり、いつ頃来れますかな等と強引なお誘いもあった。


 しまいには口喧嘩に発展し合う国もあった。やんわり間に入って仲裁をするものの、誰が早く約束をもらうかで、牽制しあっていた。


 段々と悪臭がしてきたので、討伐大会の話題で逸らした。



「……その時、漆黒の闇魔法には、聖なる光の魔法が有効でした。皆様のお国では漆黒の闇魔法の影響はありませんか?」



 と話題を振ると、やはり食らいついてくる国が多かった。


 村ごと漆黒の闇魔法で覆われたり、魔族の襲撃にあったり、どの国でも、不穏な魔族の気配がしているようだった。


 聖なる光の魔法使いが少なく、虹色持ちさえ、持たない国もあった。


 特に南西の島国では魔族襲撃状況は深刻で、何か良い知恵がないかと尋ねられた。ブーケットは大国なので、襲撃されても対抗する兵士の数が多い。だが、彼の国は兵士の数が少ない為、かなり厳しいという事だった。



「……近隣の国々に協力を求める事は出来ませんか?例えば連合国軍を作ったりするとか、他の国も魔族には困っているのであれば、お互いに協力し合う事で、緊急時に対処出来るのでは?」



 意見を言ってみたら、近隣の国同士で顔を見せ合った。丁度我が国に集まっているので、良い機会だから話し合えば良いよね。



 ……それにしても………今日は…ちょっと……いやかなり、疲れた。


 笑顔が張り付いて、固まってしまった。アルフにお風呂でガチガチになった肩のマッサージをしてもらい、なんとか息を吐いた。



 翌日、成婚パレードは3日目に行われた。屋根のない馬車に乗りながら、笑顔を浮かべて手を振った。


 あたしとアルフは揃いの青い絹の衣装に身を包んでいた。国のシンボルである、国花のブーケ蘭が青く、それに合わせて作ったのだ。馬車にも沢山の国花が飾られていた。


 溢れ返るような沢山の人々が沿道に立ち、手を振ったり拍手や歓声を上げている。





 マリーヌは綺麗な黒や紫の絹やレースやフリルがふんだんに使われている、高級そうなドレスに着替えさせられていた。


 そして今、厳しい顔のメイドに同じく黒や紫のリボンで、髪を美しく編み込まれている。


 部屋も牢屋から、暖かい暖炉が付いた豪華な家具が設えた部屋に、移されていた。やっと落ち着いてきた。


 どうやら、この城の主人は私に危害を加えるつもりはないらしい。


 それなら、何か私に交渉の余地があるかもしれない。これだけ贅沢なドレスや家具を揃えられる人物なら、味方になるのも悪くない。


 そしてメイドに食堂に連れて行かれた。そこにも暖炉が赤々と燃えて暖かかった。豪華なシャンデリア。備え付けられた調度品やダイニングテーブルも何処かで取り寄せた高級そうな物だった。


 椅子を引かれ座るよう促された。



「ご主人様がお越しになるまで、お待ち下さいませ。お嬢様。」



 メイドはそう言うと壁側に立って、主人を待った。


 ふうん。案外悪くないかもしれない。これだけの城を維持するのは相当な金がかかる。それだけ、力のある方なのかもしれない。父上から〝あの方〟に気に入られるよう、努力するように言われた。お前にはもうそれしか道はないと。



 やがて、物々しい程の執事や召使いを従え、この城の主人がようやく姿を現した。


 美しい長い黒髪を腰まで垂らし、黒と紫の絹とビロードの生地に銀糸が織り込まれた衣装に身を包んだ、隣国のダーラシュファン・ソンヌ・リゼルバーグ王太子だった。


 紫の瞳は黒く長い睫毛に縁取られ、鼻筋が通った鼻、やや薄めの整った口元、あまりの圧倒的な美しさにマリーヌはポゥッと見惚れて、暫く見つめ合った。


 やがてハッと意識を戻し、立ち上がって、お辞儀をした。



「ご機嫌麗しゅう、殿下。私はブーケット国、マンドリン侯爵家次女マリーヌ・マンドリンでございます。」



 ダーラシュファン王太子は椅子に座り不遜な態度でマリーヌに話しかけた。



「……ほぉっ、お前がマンドリンの娘か。中々良い面構えだな。纏うオーラも俺好みだ。だが、お前がどれだけの者かはじっくり吟味させて貰うからな。」



 そう言うと、指をならし執事に合図をした。沢山の侍女達が料理を次々に運んで来た。



「……まずは、食事だ。」

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