50話目 まさかの婚姻の儀で、神様復活!

 明日の婚姻の儀に控え、今朝から、アルフは落ち着かなかった。


 そんな事は侍女や執事さんに任せておけば良いのに、自分で全部確認しないと気が済まないらしい。


 あたしの婚礼の衣装から、靴から身に付ける物、全てをチェックしていた。


 万が一の不祥事があってはならない。呪いや麻痺や毒、眠りや記憶操作等が仕掛けられていないか、布の隙間、糸の中、ボタンや彩色素材一つ一つに、ここまで細かい様々な魔力感知は流石に、虹色持ちしか出来ない。


 それはそうなんだけど、魔術式とか隠して入れ込むにも相当時間が必要だし、検索魔法の最上位版で解るんだけど、今それ言っちゃいけない雰囲気よね。


 明日はいよいよ婚姻の儀という、アルフとあたしが夫婦となる日。それは敵が狙いやすい日でもある。


 あたし達が結婚すると、ブーケット国に精霊の祝福が贈られるので、そうなると魔族的に落とし難くなるので、阻止しようと今まで色々されて来ていた。討伐隊で東西南北に仕掛けを作ったり、魔物に王都を襲わせようとしたり、全部阻止してしまったので、焦って何を仕掛けてくるか判らない。


 シルバニアがケルピーの湖で、人間の遺体を3体見つけていた。

これは闇の精霊クロがブーケットの未来や魔族の動向を視ていた時、見えてしまったものだった。


 遺体は貴族院の者達だったらしい。だが家族の者には、魔族との関わりを敢えて教えていなかったようだ。


 ミハイルは嘘を見抜く能力持ちなので、家族の検分にもシルバニアと一緒に立ち会っていた。どの家族も嘘のきざしはなかった。


 ザンティス伯爵とマルチナ子爵と召使いのクエナという男の3体の遺体をそれぞれ家族に渡していた時、サンディス伯爵の召使いだったクエナの家族から、よく一緒にもう1人居たらしい貴族の名前を聞いた。


 それはクランクワイン・マンデリン侯爵だった。


 やっぱりという感想しかない。

明日の婚姻の儀の後、お祝いの晩餐会がある。実は今回、マンデリン侯爵へは招待状を送っていなかった。あたしに対する嘘や中傷の主犯のマリーヌに対した処罰として、マンデリン家、自体に招待状を出していなかったからだった。


 勿論、抗議の書面や王宮に面会を求めに来たが、誰もそれには応じなかった。王立議会に申し立てをしたが、そちらでもマリーヌの話が通っており、議会にかけるのなら、お前の娘の処遇もしなければならない。そうなると、以前起こしたお前の兄の問題と合わせて、マンデリン家自体の存続問題にも発展すると思うが、良いのか?と伝えたそうだ。


 クランクワイン侯爵が大人しくなってくれたら良し。問題を起こすのなら、追放になるかそれ以上の処置が必要になるかもしれない。それ位はクランクワイン侯爵でも理解出来るはずだ。



 夕方からアルフに何やら良い匂いのする泡のお風呂に、入れさせられた。肌に良く、リラックスさせるハーブの入ったお風呂らしい。

 髪も念入りにマッサージされた。肩や首のマッサージ最中、気がつくと眠ってしまったみたい。


 眼が覚めると、何かのカプセルに入っていた。フカフカのロープを着て、頭には蒸しタオルが巻かれていた。また、彼方で購入して来た美容マシーンだろうか。


「濃酸素マシーンだよ。身体の隅々に酸素を取り入れて、細胞を活性化させる機械でね。春音の世界ではお金払って、使われているらしいね。…じゃあ、もう一度お風呂に行こうか。」


 あ〜。まだ終わってなかったのね。結婚式となったらとことんやるだろうな、とは思っていたけど、ちょっとやり過ぎじゃない?


 あたしの思惑おもわくや希望は却下され、全身ピッカピカにされていくのであった。そして、そんなあたしを見た女王が、夕食の時にアルフに美容について色々質問していた。


 その結果、食後に女王の所にも美容マシーンやら、グッズを沢山持って行くよう命じた。空間倉庫からドカドカと出してきて、それを慌てて運ぶ、王宮メイドの人達。

 女王はそらもう、大変ご満悦だった。



 そして、当日が来てしまった。

あ〜。何事もなく、無事に終われば良いなぁ。


 昨日の夜、到着していた両親と、朝食を一緒にした。


 でも、流石に緊張しちゃって、朝ご飯はフルーツだけしか、入らなかった。想定内のアルフはあたしに栄養ドリンクを飲ませた。


 あたしのママンは青い顔のあたしにオロオロするだけなのに、こういう時はオカンなアルフが有難いわ。


 メガエラに手伝ってもらい、ウエディングドレスを着た。

 純白のドレスだが、小さなダイヤモンドが幾万と縫い付けてあった。ママンが持って来てくれた、ダナン家に代々伝わるドレス。何人ものドワーフが関わったと言われる物だった。


そして、あたしの髪は複雑に編まれ、結われた。銀と純白のベールを被せられた。胸元にも昨日ドワーフから届いた透明なデカいダイヤモンドが中央に上にいくに従って小さくなったネックレスを飾った。靴も絹地に小さなダイヤモンドが散らばっている。

 手には白い花のブーケ。ブーケット国の国花で、名前もブーケットというらしい。


 アルフは同じく純白の絹のタキシードに銀の刺繍が全身に施されていた。胸元にはあたしと同じく、大きなドワーフから届いたダイヤモンドで出来た、ブーケット国のシンボルマークのブローチが付いていた。


 どの衣装、装具にもこれでもかって位、防御魔法や魔術を施した。しかも、あたしの背中にはファンデーションで防御魔方陣が書かれているという、念の入れよう。準備は万端整った!!



 婚姻の儀式は王宮の中央にある、初めて入った銀色のドームみたいな大きなホールで行われた。


 トランペットよりも低い音程の音楽が鳴り響き、ホールに沢山の人々が座っていた。

 あたしとアルフは手を繋いで、彼方の世界とは違って、一緒に入場した。それと共に人々は一斉に立ち上がって敬礼をした。


 眩しくて最初は良く見えなかったけど、慣れてきたら見覚えのある人達が立っていた。


 中央の玉座には女王の姿があり、その隣にはシルバニア、ダンビラスさん。反対側に宰相のトッテンベールさん。その隣は白いロープを着た、魔術のお師匠様のキンバレスさん。威厳のある年配の男性達。あたしの両親。

 そして横の左右の沢山の席には、貴族院のお偉いさん方や対面に魔導師議会のお偉いさん方、マグノリアさん、ジョージさんやオーレン、高坂とミトレス、アミダラさん、グレン、ニーナ、ジェーン、マチルダ、アナスタシア、リリーアン、ソフィアさん、ミハイル、アレキサンダー、パメラ、グリスト。

 他にもシャリーヌさんも見えた。


 警戒しているから、見た事ある人達は識別出来る。問題は見た事ない、貴族院や魔導師会の人達。


 アルフやシルバニア、ミハイルは全員識別出来るから、その辺りは任せておこう。


 何かあればとホールの外壁、内壁両方に近衛兵隊を配列した。王宮付近は騎士団が、王都の出入り口全てに騎士団や騎兵隊が配置された。厳重警戒態勢になり、いざという時に備えた。



 そんな中、アルフとあたしは女王にひざまずき敬礼する。そのままアルフは言った。



「この度、わたくしアルフォンス・ベル・ドール・ブーケットは婚約者のハルネ・フジシマ・ダナンと婚姻の儀式を執り行います。つきましては女王の許可を願います。」



 女王は玉座から立ち上がり、微笑みながら


「アルフォンスよ、此度は美しく強く聡い魔導士との婚姻、我は大変嬉しく思うぞ。勿論、許可を与えよう。未来の王と王妃に祝福を!」



 途端にザワザワと人々から声が上がった。あたしを魔導士と呼んだからだと思う。これはワザとこういう言い方にしたんだった。


 貴族としては男爵の娘だし、あたし自身は子爵を賜っているので、問題はないけど、上位の爵位ではない。未来の王妃として、貴族院からの選出と認められるのは厳しい。


 魔族対策で、魔導士会の人達が協力をしてくれ、呪文や魔術、魔方陣等を習った。


 そして、その過程で魔導士会の長である、キンバレスさんが認めてくれた。精霊の予言も伝えた所、協力もするし、あたしの魔力が強いので、教えがいがある。喜んでお師匠様になってくれるという事だった。つまり、あたしは正式に魔導士会の人間になった。


 女王の亡くなった両夫、毒殺された方も、アルフのお父上も貴族院の出身だから、今回は魔導士会からの選出で、丁度良くなるという訳。



 そして、女王を中央に右にダンビラスさん。左にキンバレスさんが立ち、あたしとアルフに朗々と歌を歌う。日本で言えば高砂や〜というやつか?



 時雨立って精霊の神を戻す時来たり


 花薫匂いに誘われ女神が現わる


 女神に誘われ男神が現わる


 精霊の祝福ここに来たり



 歌が終わり、婚姻の儀を始める為に、あたしとアルフは立ち上がった。



 するとホールの遥か上空から、何かとてつもない力が近付いて来る気配がした。


 魔族か?


 魔力がある程度高いものは、身体中が総毛立った。近衛兵隊達が構える。


 強い圧力がかかり、立っているのも辛い程のオーラが降り注ぐ。


 そして、虹色の光と共に眩しくて見え難い何か人の形のような、巨大なものが天井をすり抜け、降りてきた。


 だいたい、体長4m位かなぁ。

天井高いから良いけど、低かったら外に頭出ちゃうよね。


 眼が特に輝いていた。全身から虹色に輝くオーラを纏い、更にその上から白いオーラを放った。そして、背中に白い光る羽を付けていた。


 王都中の教会の鐘が激しく鳴り響き、このホールにも届いた。

 そして沢山の光の精霊達が入ってきた。彼らは同じく、虹色のオーラを放っていた。


 そして、頭の中に鳴り響く声がこだまする。このホールにいる者達、全員の頭に響いた。その眩しい者が言った。



『……愛しく麗しいトーサ・デ・ダナンの娘よ。…そなたが望み、この世界の人間をもう一度求めるのなら、我らも妖精の落とし子の息子を認めようぞ。』



 甘く優しいが、強い声だった。

 眩しい人はアルフを指刺した。



『…ではダナンの娘よ。この者を汝の運命の半身、婚姻すべき者だと、命の許す限り誓うか?』



「はい。」



 あたしは迷う事なく、キッパリと言った。



『…では、妖精の落とし子の息子よ。汝もこのダナンの娘を運命の半身、婚姻すべき者だと、命の許す限り誓うか?』



「はい。」



 穏やかだけど、キッパリした声でアルフが誓った。



『……ならば、今この時から、この2人を我、愛と豊穣の恵みの神、ディーンが夫婦となった事を認め、祝福を授けよう。


 この世界に留まり、再び愛と豊穣を与えよう。


 2人を裂くものは、神の裁きがあると思え!!


 夫婦に祝福を!!』



 女王が慌てて


「夫婦として、この2人を承認し、祝福致します。」


 と言うと、それに習って、ダンビラスさんとキンバレスさんも


「私も承認し、祝福致します。」



『……では、約束が守られるかどうか、最後まで、そなた等を見守るとしよう。約束を違えば、我らは再びこの地を去るだろう。』



 そう言うと、愛と豊穣の恵みの神ディーンは空気に溶けるように、消えた。


 そして、姿は消えたが気配はまだあり、アルフの頰にチュッと音が出る程、口付けし、あたしの額と両頰と唇に口付けして行った。特に唇にはしつこかった。口を開かそうとしたから、ギュッと閉じたままにした。オイオイ!デカい舌を入れようとするの、止めてください。


 やがて、笑ったような雰囲気の後、気配も消えた。

兎に角、何とか無事婚姻の儀は終わった。やった〜!これでやっと、アルフと夫婦になれたよ。



 あ、そうだ!本来の2人の夫婦の承認役のビスタランさんは腰を抜かし、椅子に座ったまま小声で


「認めます。祝います。」


 と言っていたらしい。

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