第35話 独りぼっちのアルフと羽化したあたし。



 やや青みがかった、蒼白と虹色の光のまゆが輝き、中の様子は見えない。繭の外側は風が吹き荒れ、森の枯れ木を薙ぎ倒し、誰も近付く事は出来ない。


 アルフは自身の心の不安定さで、体から溢れ出ようとする、魔力を抑えるのに必死だった。春音がこんな時に、僕まで暴走してしまったら、皆を巻き込んでしまう。


 きっと大丈夫だ。

今までだって、ちゃんと帰ってきてくれた。それは信用しているとか、していないじゃなく、解っているから。


 春音はこんな僕を愛してくれた。僕の中の危うさを知りながら、温かく包み込んでくれた。


 初めて会った時から、どうしようもなく惹かれ合った。甘い匂いが僕の心を触る。柔らかくて吸い付くような肌。見ていて飽きる事の無い、くるくる変わる表情。僕をを見て、はにかむように微笑む顔を見ると、心が満たされて温かくなる。すさんだ心が一瞬で癒された。


 ずっと女性を遠ざけてきた僕が、会ったその日に彼女に口付けしてしまうなんて、僕だって考えられなかったんだ。最初は彼女が何者か調べる為に、魅了の魔法を使った。なのに使った僕の方が、そんな事も忘れ彼女を求めた。


 だから、彼女が怪我をして入院した時、本当は病院に行くか迷った。翻弄ほんろうされ、気持ちをコントロール出来ない事に苛立ったし、怖かったから。


 時々僕をチャラいとか言うけど、最初の印象が悪かったな。そんな事したのは春音だけなのに、そこは今だに信じてくれていない。

フッと体から、恐れや不安が消えた。


 今そこに春音が居るのだから。

僕はただ、待って受け入れるだけだ。


「大丈夫じゃよ。安心して待つがよい。そなたはあの娘の伴侶じゃな?見ておれば解るわ。そなたは心強くして、娘を支えてあげれば良いだけじゃ。」


 森の精霊は余裕の笑みで椅子に座り、グァバジュースを飲んでいた。

 …少し癪に触った。


「随分と余裕のご様子ですが、ご自分の森がこのような惨状になっても、何とも思わないのですか?」アルフは春音の繭の周りを暴風が吹き荒び、枯れた木がなぎ倒されていくのを見て言った。


「うむ。この森はわらわの一部に過ぎん。わらわの森はそなたの国のものだけではないからな。この世界全てじゃから、そなたの髪の一部が脱毛したようなものじゃ。オホホホッ」森の精霊が笑って言った。


「そうですか。…脱毛ね。はははは。」アルフは呆れた顔で笑った。


「まぁ、心配なのは解るが、待ってやれ。あの娘はこの世界を救う者達の内の一人じゃ。完全体にならねば、この先の敵とは対抗出来ぬぞ?そなたにとって、失う事の方がよっぽど辛かろうが。」


 確かに。失う事に比べたら…。

 …そうか、完全体か。


 春音に揃えた指輪、ドワーフの首飾りや髪飾り、イヤリング。それ以上に守るものが欲しいとは思っていた。

 あの滝壺での事件以来、防御魔法が効かなかった事の恐怖は、今でも頭をよぎる。防御が強くなるというのなら、それ程の変化があるという事か?今、春音は中でどうなっているのだろうか。


 森の精霊が言うのなら、それは真実だ。精霊は嘘は言わない。

姉さんが亡くなった時、聖なる光の精霊も嘘は言わなかった。

出来ない事は出来ないとしか、言ってくれなかったのだから。


 虹色にポゥッと発光する蝶が、ヒラヒラと飛んでは消える様子を繰り返す。呆けて眺めていたら、森の精霊が揶揄からかうように言った。


「あの娘に羽が生えてきたらどうするのじゃ?触覚もあるかもしれぬぞ?」


……精霊相手に何だが、イラッとした。


「どんな姿であっても、春音は春音である事に、何の変わりもないですよ。」


「ホウ。殊勝な心がけじゃな。うむ。それ位でなければ、あの者の伴侶は務まらんじゃろうの。」


 そう、僕はただ待つだけだ。



 キタギスの森のテントの中で、僕は昼飯の支度をしている。一昨日、昨日と春音の繭には何の変化もなく、何かやっていないと落ち着かなかったからだ。昨日、部下達が狩ってきた、レッドホーンをさばくという、やるべき事がある。皆が捌くというのをえて、残してもらった。まずはシルバニアが昨日捌いた、レッドホーンのロース部分を分厚く切り、たっぷりの粗挽き胡椒こしょうと、ブルライト産の塩、バレンのハーブも、その身に擦り込んだ。


 2隊の春音を除く13人分の食事なので、かなりのロース肉が必要だった。僕はもう1頭のレッドホーンを捌いた。下拵えしたロース肉をバーベキュー網の上にのせ、オルセン杉の香ばしい薪で焼く。幾つかは、腿部分を燻製くんせいにしても良いな。バラ肉は甘だれソースで漬け込んでおこう。


 皆は今日もオルセン高原で狩を楽しんでいるんだろうな。


 ジョージとオーレン、シルバニア、高坂、グレンがオルセン高原に行き、レッドホーンの群れを狩っている。他のメンバーはバイクで、その先のオルセン峠までギーク狩りに行っている。


 今の季節は冬越えの為、たっぷり栄養を摂っているので、脂が乗っていて美味しい。狩をするには丁度良い。



 高坂は新しい魔法を憶えたばかりで、ウズウズしていた。アミダラさんから教わった、風魔法だった。


風と炎を使ったファイヤウィンドウやファイヤカッターも勿論使ってみたいが、魔力消費量が大きくて自分には向かない。むしろ風魔法だけを使う、ウィンドウガンを使ってみたかったのだ。かつて、ウラヌス渓谷でアミダラさんが使った風魔法だ。魔法消費が少ないので、僕には助かる。


 アミダラさんは無詠唱で「バン」というだけで、空気を圧縮した塊を敵に撃てる。アミダラさんが僕達の居た世界の銃を見て、生み出した魔法だ。まるで空気銃のように、手の形も銃のポーズをとる。無詠唱なのはパソコンのショートカットのように、「ウィンドウガン」→「バン」と憶えさせる。

 生み出したのがアミダラさんなのだから、なら最初から、「バン」で憶えれば良かったのでは?と言ったが、開発していく過程で、思いついたらしい。今更、魔法ギルドに行って、魔方陣呼び出して、登録し直すの面倒だしね。ショートカットの「バン」は知っている人にしか教えない。


「だって、その方がカッコイイじゃん!!開発者特権!」


 あ、そういう事。魔法ギルドで憶えた人は「ウィンドウガン」と唱えて、魔法発動!知り合いは短縮なので、無詠唱に見える。プロっぽくて、カッコいい!なのだそうだ。解らなくもないが。

 魔法は勢いなのだとか。じゃんじゃん使わないと、魔力量も上がらないらしい。だからといって、春音や殿下のようなレベルには、到底なれないけどな。


 高坂はレッドホーンが好きな、キリルの実を沢山集めた。少し叩いて、香りを出す。草が多く生えている所にキリルの実をばら撒いた。

 餌のある所を中心に、僕たちは側の岩場の影に、レッドホーンが現れやすい獣道は避けて隠れた。


 ボォッボッ、オッボボッ。とレッドホーンの警戒する鳴き声が聞こえる。大きく立派な角を持った、雄のレッドホーンだった。

 匂いに釣られたが、辺りを警戒しながら、餌に近付く。餌の匂いを嗅いで、モッモッと食べ始めた。

 そして、それを見て他のレッドホーンも集まって来た。どうやら、この雄が群れのリーダーのようだった。


 俺達は一斉に飛びかかった。


「バン」「バン」「バン」

凄い勢いで、当たった箇所は穴を開けた。


 フッ……俺は新たな武器を手に入れちゃったぜ。



「…はぁ。ちゃんとレッドホーンに当たってればな。」



 穴だらけのトリネコの木を見て、ジョージさんが、ため息混じりに呟いた。



 白芋と茸と筍の煮物も作っていた。醤油と味醂で和風に味付けした。筍はシャンタナ産のちょっとお高いものを使った。醤油の香りが辺りに漂った。

 本当は圧力鍋で、じっくり煮込んで、シナシナに筍を煮たかったな。持って来るの忘れたし、向こうに買いに行ったら時間ないよな。そろそろ皆、戻ってくる頃だろうしな。


 アルフは周りをキョロキョロした。ピンクのエプロンのポケットに、春音の靴下が入っている。徐ろに取り出して、匂いを嗅いだ。

 あぁ、春音。ふぅっ。落ち着く。



「ちょっとぉ!アルフ!何を嗅いでいるのかな?」



 目の前で春音が逆さまになって、浮いていた。


 あれ?そういえば、繭からの風音が止んでいた。


「アルフゥ〜〜!!」春音が僕を抱きしめた。でも逆さまだよ。

 僕は浮いてる春音をクルッと回して、抱きしめキスした。お姫様抱っこして、移動しようとしたら、急に体重が復活した。おっと。


 よくよく春音を眺めた。

元々ピンクががった栗色の髪は、虹色の光沢のある、更に明るい栗色になっていた。瞳は前より明るい琥珀色の中に、虹色が混ざる。オパールみたいな瞳。胸までの癖っ毛の髪はフンワリクルクルで、お尻まで伸びている。

 そして、身長が5cm程伸びていた。といっても、やっと165cmになっただけなので、こちらの世界では小さい方。


 一番ドキリッとしたのは……む、胸が大きくなっていた。皆が居ないので、さっそく触ってみた。怒られたけど、止めない。胸を出して乳首も舐めた。柔らかい。お尻も柔らかい。肌触りも良い!美味しそうだ。


……ダメだ!無理だ!我慢出来るか!!こんなに待たせやがって!!

急いで、キャンピング・カーを出して少し皆の野営地から走った。



 邪魔させてなるものか!!



 僕はキャンピングカーのベッドへ春音を寝かせて、胸をさらけ出させた。


 おおおお!!多分、2カップは大きくなっていると思う。CカップからEカップになっていると思われる。これが僕のものに!!春音が昼間なのにと抗議したが、何日待ったと言うのかと、敏感な場所を弄び、僕をゆっくり春音の中に入れ、味わせて黙らせた。春音がどんな風に変わったのか確かめる為、色や形、匂い、味も確認した。感じ方はどうだ?最高だった。そして、春音の体中にキスマークを付けてあげた。僕のものだと言う証。



 待たせてしまったのは、本当にごめん。これで何度目?そうね…。えっと、精霊の時と、滝壺の時、今回で3回かな?え?入院の時はまだ付き合っていないじゃない。待たせたのは同じ?そんなぁ。

 でも、どれもワザとじゃないし、不可抗力だって知ってるじゃん。


 それより、胸とお尻のせいで討伐用の服がどれも着れないんだよ。どうしたら、裸でいろ?外に出れなくて丁度良い!?コラコラ。


「アルフ何とかして!!」


 強い口調でお願いした。

ほらね、アルフは空間倉庫から、何やら色々出して来た。ブラは買わないと無理でも、何これストラップレスブラが何故か出てきた。


「女装用?」


「違う!ドレス着る時に下着が見えないように、用意してたの!背中を出すタイプのドレスだったら、使うかと思ってね。」


 これはフリーサイズなのね。で、洋服は、アルフのシャツとパーカーを借りた。討伐中だけど、スカートに黒のレギンスを履いた。そんでコート着ちゃえば、なんとかなる!


「それで、今日で討伐何日目なの?」


「今日は最終日。だから、皆、狩りに行っていないんだよ。」


 オーマイガー!!

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