第27話 大雨の洞窟とゆかいな仲間達。
バニシルビアの山は薬草が豊富で、結構な数を採取出来た。黒い植物も特に無く、あのケルピーの墨のような植物は、こちらまでは来ていないようだった。あの植物はいったいどこから来たのだろう。
魔物討伐の方はイノシシの眉間に大きなツノがあるような、ちょっと大き目の魔物、ギークが一匹だけしか狩れていない。天候が悪くなったからだ。さっきまで、あんなに天気が良かったのに急に暗くなり、やがて雨が降り出した。直ぐに土砂降りになったので、奥行10mほどの洞窟に入った。ジョージが中に魔物が居ないか確認をした。熊の寝床でもなさそうね。
アルフが「今日はここに泊まるか。」と呟いた。
この先は急な路面が多い。まだ雨は止みそうになかったので、アルフは先程のテントとキッチンセットを再び出した。太陽電池が使えないので、ポータブル蓄電池を使った。どこで充電したのかな?
オーレンはさっき狩ったギークの肉を、部種別に分け解体した。ミトレスは衣を付け油で揚げた。
高坂は大量に採れた、薬草の整理をしている。高坂の空間倉庫は狭いから、整理して入れないと大変らしい。
アルフは地図とにらめっこ。明日も雨なら、滑り安い近道を諦め、迂回ルートを考えなければならない。討伐の日にちが、限られているからね。
明日が大雨だったら移動出来なくなるけど、今日はだいぶ進めたし、魔物もそこそこ狩れたから大丈夫でしょ。
食事の用意が出来たので、アルフ達に声をかけた。
こんな場所でも、水分は風の魔法で乾燥させられるし、除菌の魔法で辺りを清潔に出来るし、魔法とは便利だなとしみじみ思った。
ただ中は暗かった。あたしは金魚鉢を小さくしたような、丸いガラスの花瓶に水を入れ、そこへ光魔法と花を浮かべた。花の香りも漂った。水に光が反射し何箇所か置いたら、辺りを明るく照らした。
そして、アルフは奥の方にキャンピングカーを二台置いた。一台はあたしとアルフ。もう一台は大型で、残りの人数でも一度に泊まれるが、隊員で交代で見張りを立てた。あたしも見張ろうか?と言うと、断られた。一応、王太子婚約者なので、他のメンバーでこなすと言われた。
緊張して眠れないのではないか?と思ったが、大量の魔法消費や慣れない山歩き等の運動で、結構疲れていたらしく、あたしは夢も見ないで朝まで、ぐっすり眠ってしまった。一応、皆居るからHなしですよ!当然。
朝6時頃、もうそろそろ起きなさいね!とアルフに起こされるまで、よく眠れたせいか、体が軽かった。
既に朝食が出来ていた。
昨晩、雨を凌ごうと洞窟に現れたイエローエルクの雄(大きなツノを持った巨大な鹿のような魔物)を、ジョージが一人で仕留めていた。そのイエローエルクのシチューだった。肌寒い朝に体が温まり、ありがたかった。
ジョージはアルフと同い年で、王立学園時代から同じクラスだった。つまり20年来の友人でもある。真面目で努力家。ギルモア伯爵子息嫡男。五人兄弟の長男なのでしっかりしていて、貴族の品がありながら奢る所がない。
元々魔力はあまり高くなかったが、努力で炎の魔法を体や剣、槍にも
そんなジョージが夜中の見張りでイエローエルクを討伐した後、交代時間は過ぎていたが、魔物を解体し空間倉庫に入れてから、見張りを交代したらしい。律儀なお方。
涼しげな水色の瞳。波打つ明るい栗色の髪。細身だが、筋肉質の強靭な身体。マグノリア隊長よりやや低いが、高身長。この人も完璧な美形。
この部隊、何これホストクラブなの?と言われそうな粒揃いだわ。
実は脳内では様々なペア、カップリングが誕生し、素晴らしい腐女子妄想をかきたて、ウハウハが止まりません。
ジョージ&オーレンの友情がいつしか恋心に、、。
「お前が可愛くて仕方ないんだ。好きにならずになんて、いられないだろうが。」
とオーレンを押し倒すジョージ。オーレンの切ない
シルバニア&マグノリアカップリングのハード物とか、、。
「おやめください。私が何をしたというのでしょう?」
「あなたの美し過ぎる存在が、俺を狂わせてしまうのだ。」
そう言うと、いきなり、シルバニアの服を切り裂くマグノリア。マグノリアは舌でシルバニアの乳首をとがらせると……。
ニマニマしながら、つい声に出して呟いていたらしく、ミトレスがそのカップリングって何ですか?何の妄想なんですか?そこの所、詳しく!とか食い付いてきた。あれ?今更まさかの同士?
詳しく話そうとしたあたしの頭を、グリグリとまたゲンコツでアルフにやられたぁ。
「ソレをここで話すのはやめなさいよ!」
この話になると、途端に不機嫌になるんだから。
あ、そか!対象者本人達に聞かれるのは、流石にマズイか。ははは。
この日は一日中、大雨。時々雷も鳴っていて、近くに落ちた音がする。移動が出来そうもないので、あたし達はのんびり、洞窟で過ごしていた。
ジョージにアルフの子供の頃の話を聞いたり、オーレンが持ってきたジェンガーで盛り上がったりした。
あたしはお昼に、昨日の山ナマズがまだ沢山冷凍空間倉庫に残っていたので、山ナマズの唐揚げを大量に作った。
これがかなり好評だった。
塩味、ガーリックの風味、醤油味、バジルとレモン味、カレー味と味を変えて色々作って出したら、アルフが大感激してた。
「流石、僕の婚約者!良い奥様になるね。」
と興奮して、何度も抱きしめられた。しかも、なんか震えて目に涙まで
そういえば、アルフって親にあまり構ってもらえず、乳母が親代わりとか言ってたっけ。
…実はあたしも父も母も家に居ない日が多かったから、自分の事は自分である程度出来るのよね。必然だったから。料理だって、お弁当代を置いていってくれるけど、お弁当なんて、毎日食べたら飽きるし。自分でやりくりして、作るのは楽しかった。まぁ、頼めば、お料理を教えてくれる位の時間は作ってくれた。男爵家のお嬢様ではなく、平民として過ごしていたから…。と思って居たけど、もしかして?
お嬢様学校に入れられたのは、いずれは話す気だったのかな?
そんな風にあたしの事、色々考えてくれたし、相談にものってくれる親だった。でも、アルフはどれだけ孤独な日々を過ごしてきたのだろう。王宮を追い出され、敵だらけの所へ放り込まれ、自分の身を自分で守る日々。
お姉さんに辺境伯城に呼ばれた時は、嬉しかったろうな。
これからも時々、アルフに何か作ってあげよう。王宮に入ってしまったら、中々難しいかもしれないけど、世話を焼いてあげよう。世話焼きのアルフだけど、世話焼かれるのも嬉しいみたいだものね。
あたしはそんなアルフが愛おしくて、心の中がジンワリした。
アルフの腕に
そしてあたしの
そんなラブラブなあたし達をよそに、あたしの唐揚げは他の隊員にも大好評で、取り合いの激しい戦いが起きていた!!
「それ俺が皿に残して、これから食べようとしていたカレー味!!何しているんだよ!?オーレン!貴様!返せ!」
とジョージが言えば、オーレンも
「一番好きな味は、最後に残して食べる派っすか?美味しい食べ物は先に食べるもんなんすよ!」
と言う。
所が、ジョージの皿をオーレンが取り上げ、高く持ちあげた唐揚げをササッと、素早くフォークでぶっ刺し食べちゃったのは、上品で優雅なはずのシルバニアだった。
「中々、クセになる味ですね?春音様は将来、ご立派な王妃になられるでしょうね。今から大変楽しみです。」
モゴモゴ。
王妃の前に、王太子妃があるでしょうが!!ってツッコミ入れたが、そこじゃない!
上品でお綺麗で妖精のような優雅なシルバニアだと思っていたのに!!こんなキャラだったっけ?確か以前……シルバニアは腹の中は……とアルフが言っていた。
確かに、中々強かなお方かも。
オーレンもジョージもそんなシルバニアに何も言えず、ボーゼンとしていた。
「また、作ってあげるからねっ!ねねっ!」
っと二人の背中をポンポンと慰めて、、って言うか、エエ歳の兄ちゃん達、何してるんですか?あたしこの中で一番、年下なんですが!?
でも、オーレンはそんなあたしに
「やった〜!!本当っすか?絶対っすよ?」
と屈託無く、手をあげてガハハハと笑った。本当子供みたい。
オーレンは赤っぽい真っ直ぐな金髪で青グレーの瞳、身長は高坂と同じ位。大体175cm位かな?
いつも明るくて、でも要領が良く、動きも活発。気が付くと消えていて、5分で戻ったと思ったら、どっからか狩ってきた鳥が手に。ちょっと落ち着きがない。時々貧乏揺すりして、アルフに注意されている。
近衛兵隊の一般応募で入隊した。貴族ではなく、平民出身。6人兄弟の末っ子。大家族出身で兄弟に
他に氷も使えるらしいのよね。
マグノリアパパのダンビラスさんが狙ってたらしいけど、あ、ママン達のいる隠密系の組織ね。
マグノリア隊長が絶対手放さない。だって、アルフの近衛兵隊って人数少ないから。優秀な人材がこれ以上減るのは、困るでしょ?
そんなんでマッタリ過ごしていた。あたしは暇なので、護身術を皆に教えてもらった。
ジョージが基本的な護身術。
合気道みたいに、相手の力を利用して倒す方法。
ミトレスやオーレンは剣術。
シルバニアは弓を教えてくれた。
、、色々チートな魔力や腕力があると思っていたけど、弓全然当たらない。
そもそも、矢が1m先でボトッと落ちる。これは相当練習しないと無理だわ。若しくは才能ないから、諦めるか。ん〜やるだけはやらないと、気が済まないな。
この矢が指にうまく抑えられない。ふむ。矢をつけるのをやめてみた。そこに魔力を溜めて、放つ。おお出来た!氷魔法だと、、ダメね。矢と同じで、物質だと失敗する。そうだ。シルバニアが矢に雷纏わせていたっけ。
雷の矢のイメージで、洞窟の外の大木目掛けて、魔力を溜めて放つ!!
雷の矢のような物が大木に当たり大木は焼かれて、折れてしまった。
んじゃ、次は炎!と思ったが、洞窟の外は大雨だしな。火が消えちゃうかもと悩んでいた所、アルフが入口塞がないでね。とニッコリ微笑んで、あたしの手を止めた。
そんなに退屈ならと、空間倉庫から、何やら本を出してきた。王宮に関するマナーやしきたり、王太子妃としての
ああ、あぁ、大人しくしていれば良かったぁ。夕飯まで、アルフの厳しいお勉強時間は続いた。トホホ。
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