第14話 アルフがオカンになった訳。
「ウォレット殿下が心配ですか?」
ミトレスはアルフに聞いた。
「…む、うむ。まだ成人の義も済んでいない年での初陣だしな。その…。」
「そういう殿下の方が、もっとずっと早い歳から、戦いに出されていますのに。」
ミトレスが呆れて口を挟む。
コーヒーみたいな味のお茶を飲みながら、あたしは聞いてみた。
「ウォレット殿下って?アルフの身内?」
弟かな?成人していないなら、年下だしね。
「あ、いや、ウォレットは僕の息子みたいな存在かな?一応。」
えええ!!!?
「!!!既婚者ぁぁぁぁぁぁ!?」
ぬあにぃ〜〜!あんだけイチャコラしておきながら、実は奥さんも子供もいる妻帯者だとぉう!!??
驚愕の表情のあたしと高坂に対して、アルフは静かに応えた。
「いや、僕は独身だ。」
降参のポーズをしながら言う。
結婚もしないで、息子を授かっただとぅ!?それって、やる事だけやって、結婚せずってやつかぁ!?
最初はチャラ男だと思っていたけど、最近は信じてきた所だったのにぃぃ!!やっぱり見た目通りかい!!
……あ、これ口に出ちゃってたや。
高坂も声には出していないが、キサマ!コロス!と口元だけ言っている。
「おいおい!二人とも、そんな顔しないで、落ち着いて聞いてくれ。チャラ男って、そんな風に思ってたの?春音。」
アワワしているあたしの目を真っ直ぐに見てアルフはこたえた。
「……ウォレットは正式には俺の甥なんだ。」そう言うとアルフは目を閉じた。
身を乗り出して、期待の表情で次の言葉を待つあたし達に、ミトレスはちゃんと座るように
…目を伏せたアルフは、苦悶の表情を見せた。
あ、これはあたし達が聞いてしまって良いのだろうかと、緊張した。
目を開けて、あたしを見ると、柔らかく微笑んでくれた。良いんだよというように。頷いて。
「とにかく、初めから話そう。でも、かなり長くなるし、色々ごちゃごちゃしているが、本当に良いかい?」
こんな中途半端で止められたら、気になって眠れない。
「うん。大丈夫。全て知りたい。アルフの事を。そうする事が必要だと思っているよ。でも、話すのはアルフ自身が良いと思う所までで良いからね。」
話したくない話はしなくてもいい。
「……そうか、うん。分かった。
…僕には3人の姉がいたが、ウォレスは一番上の姉の子供だった。姉は魔力が強く、僕が生まれるまでは次期女王になるのでは、と期待された存在だった。…だが、僕が生まれた事でそんな話は消えてしまった。姉はそんな事、気にせず僕を可愛がってくれた。優しく、強く温かい人だった。」
少し遠い目をして、アルフは言った。
「母は先王の唯一の娘だった。
病弱な弟は成人出来ずに亡くなり、母を支えるのは政略結婚させられた夫と彼の派閥だけだった。
二人の間に生まれたのが3人の娘だった。だが、夫はマナーや外見を気にしたり、母のプライド高い態度が苦手だった。その為、他に女を作り、可愛がった。彼は安らかな家庭を持ちたがっていたらしい。そして、国の仕事を手伝うのを、極力拒んだ。
彼の派閥は彼の勝手な行動や王子が生まれなかった事で、彼の存在自体が疎ましくなってきた。そして、その結果。彼と妾は派閥の手によって、毒殺されたんだ。
一時、母が毒殺に絡んだのではと噂される事もあったが、プライド高い母がそんな低俗な事を考えるはずがない。」
あたし達はただ静かに、アルフの話を聞いていた。
「その後、また別の派閥から、政略結婚の話が出た。母はその話に乗った。邪魔になったからといって、毒殺したと言われている者達の事を、どうしても許せなかったせいもある。無骨だが温かみのあるドーン公爵の心根にも惹かれ、快く受け入れた。そう、私の父だ。暫くは幸せそうな二人の声が王宮で聞こえたそうだ。母は私を身籠り、国は安泰したかに見えた。
だが、そんな時、魔族の来襲があった。今の派閥の威力を削ぐ為、元の派閥が魔族と繋がり、何の前触れもなく、街を王宮を魔族が襲った。城の騎士達は騙され、魔物が出たからと討伐に半数以上が出かけていた。僕の父は魔族と戦い、母達を逃がす為、亡くなった。
二番目、三番目の姉も魔族に捕らえられ、母の目の前で殺された。唯一生き残った姉が、身重の母を支え気遣い、地下の倉庫で惨劇が終わるまで隠れていた。
騎士達が戻り魔族は後退し、最後は見事国を守る事が出来た。
だが、街も人も疲れきっていた。
母はまた夫を亡くした。
母には姉が唯一信用出来る存在で、守るべき
姉が笑えば母も笑う。
次期女王との噂も嬉しくて、誇らしかったんだ。
僕が生まれた時は勿論、喜んでくれたさ。家族が増えたからね。愛する夫との間に生まれたのだから。
だが、今の派閥が元派閥が起こした事件の話を蒸し返し、姉は元派閥側の人間なのに、何が女王か!
アルフ殿下の側に居させてはいけないと、姉を遠くの元夫の親戚の家に嫁がせてしまったんだ。
実はここ、鉱山村を含めた一帯の領主が、姉の夫なんだ。」
ええ〜!ここが?
「母はそれからは変わってしまったらしい。まず、笑う事はなくなり、全ての政治を自分で確認し、決断するようになった。派閥も消えた。誰の耳も信じなく貸さない。噂を流すものがいたら、どこから流れた噂なのか、徹底的に追求した。
そんな母は氷の女王と呼ばれた。
僕には特に厳しかったよ。
温かい言葉なんて、かけてもらった記憶はないな。ほぼ、乳母に育てられたようなものだったからね。
ただ、教訓とかはあったかな。
人の表面と裏の顔が違うのは当たり前だとか、食べ物や飲み物は誰かに少し与えてから食せとか、臭い匂いがする奴は側に置くなとか言われた。
今思えば、それ位かなぁ?僕の為の言葉って。後はほぼ上司との会話だからね。報告とかに対してとか、どこどこへ行けとかの命令とか。僕も母を女王としてというより、母として守りたかったんだけど。側には居させてはくれなかったな。多分、弱みを周りに見せたくなかったんじゃないかな。僕の存在は弱みではないと周りに思わせる為になのか、笑いかけるなんて、ありえなかったよ。それ所か、元派閥達の
その頃から、心根が悪い奴の匂いを感じるようになった。おべっかを使う大臣達は皆、すごい悪臭を感じた。
年頃の娘を俺の寝室に放り込む奴とか、娘自身も臭くて吐きそうだった。
直ぐに叩き出したが、娘が妊娠したから責任を持って王太子妃にしろ!とか言ってきたから、そんな臭い娘など誰が抱くものか!だって、まだ13歳にもなっていなかった時だよ?だから、王都から追い出したり、色々あった。
姉がそんなやさぐれた僕に息子が生まれたので、見に来て欲しいとここに呼んでくれたんだ。
姉は幸せそうだった。子供も可愛くて、見ているだけで、嬉しかった。
忙しくて姉に会えない母に姉の近況を報告する時だけ、母は優しい顔を見せてくれていたな。
なのに、この領地で流行病で、あっけなく姉は亡くなってしまった。
回復魔法も効かない、本当に短時間で体力をどんどん減らし、命を落としてしまったんだ。
領主である姉の夫、ジャンセン辺境伯もここの所ずっと寝たきりで、その為、僕はここ何年も王都とあちらの世界とここを行ったり来たりしているんだ。
ジャンセン辺境伯は余命、幾ばくもなく、いつ命を落としてしまうかわからない状況だ。彼に頼まれて、ウォレットが辺境伯として継げるよう、誰かに狙われぬよう、後ろ盾になって欲しいと言われ、一応、父代りとして、後継人となった。」
あたしの目をまっすぐ見て、何も後ろめたい事はないんだというように言った。
「もう、身内が亡くなるのは嫌なんだ。今回の討伐だって、まだ早いと反対したんだけど、そちらの世界に行っている間に、決めちゃったらしくて、、、最近、反抗期なんだ。僕の世話を嫌がるようになってきたし。」
なるほど、確かにオトンだわ。
アルフが妙にオカンだったのは、こんな背景があったからなのね。
アルフが甥っ子さんを楽しそうに世話焼きしている姿が、眼に浮かぶようだわ。
「だから、初めて春音に会った時、あんまり良い匂いなんで、びっくりしたんだ。
魔力が強いせいっていうのも、勿論あるが、この匂いは誰にも汚されていない、心が綺麗な証拠だからね。時々は良い匂いがする人もいるけど、これ程の人間には会った事がない。だから、興味も湧いた。任務に関係なく、引き寄せられた。
一緒にいると、気がつくと笑っている自分に気がついたんだ。それに春音だけなんだ。僕に側に居たいと思わせた女性は。」
やっと暗い目から、輝く目に変わった。それは良いんだけどさぁ。
ええと、ここで、匂いの話がくる?!そんな、あたしなんてアニオタで腐女子で声優追っかけなのに…。
それに女の子らしくないし、図太いし、服よりイベントでオタ本にお金かけてるし。
むしろ、アルフを妄想でヤラレ役にしてたりするのに。何この告白は!?
気がつくと、グスッグスッと高坂が泣いていた。
「…わ、解るよ!その気持ち。俺も子供の頃から、打算ばかりの世界に居たから、信用出来る友達なんて一人も居なかった。近づくものは皆、背後にあるものを狙っていただけだし。春音って、そんな事に、全然興味示さないし、真っ直ぐだから、居心地良いんだよな。」
しかも、同志よとか友達だとか、一人納得している。オイ!空気読めっつてんだろがぁ。とミトレスの目が語っている。
あたしは?
アルフの重い告白に、応えられる自信があるの?
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