第13話 甘くて、トロける魔法の訓練!

 朝ごはんを食べに下に降りて行くと、ミトレスとアルフが食べずに待っていてくれた。


 高坂は昨日、グ……マグノリアさんとお酒を飲みに行って、そのまま、マグノリアさんの宿舎に泊まったらしい。思いの外、二人の気が合ったらしくて、煩い二人を残してミトレスはさっさと引き上げたとか。こちらの世界では17歳で成人なんだそうな。


「アルフは行かなかったの?」


 と聞いたら、


「春音をを残して、行けるはずがない。せっかく可愛い顔で眠っていたのに、眺めず堪能しないなんて、そんな勿体ない事するわけないでしょう?」


 と悪びれずに笑って言った。


 ナヌ?!昨日はしっかり鍵をかけて寝たはず。


 最初に習う魔法は、ミトレスに習おう。結界魔法とか、解けにくい鍵の魔法とか……。



「駄目だよ。僕を締め出す魔法なんて、教えないよ。いざと言う時に守れなかったらどうするんだい?微熱だってあったんだから。寧ろ、同じベッドで眠らなかったのを褒めて欲しい位だ。そこは我慢したんだよ?」



 コラコラ!それ絶対オカンモードじゃないでしょ。



 耳まで真っ赤なあたしの顔を覗き込み、うつむくあたしの顔を上に向かせ、舌を入れて濃厚なキスをした。そして、満足気な顔をした後、体を離した。



 はぁ〜っ……。


 何故私一人、このような苦行を受けねばならないのか。


 ここに私は何故いるのだろう。

 いる必要があるのだろうか。

 やはり気が利かないと言うことなのだろうか。



 ミトレスは頬を染め、横を向いてぶつぶつ呟いている。


 二人きりになったら、二人とも歯止めが利かなくなるから、ミトレスには居てもらわないと。



「ホラ、春音。これ美味しいよ。」



 いきなり、ハムのようなものに、まろやかなソースがかかっている食べ物をアルフはあたしの口の中に入れた。

 チーズにバジルみたいな香草が入ったソース。確かに美味しい。そして、あたしの口の端についたソースを親指でぬぐって、ペロっと舐めた。

 うひゃ〜。オカンモード?ラブラブモードどっち?


 アルフとイチャイチャするの、楽しくなってきつつあるから、だからってこのまま流されて、もてあそばれるわけにはいかない。アルフは飽きたら、他に気持ちが向いちゃうのかもしれないけど、あたしはそんなにコロコロと気持ちを切り替えられない。


 でも、アルフが他の人に目が行くと想像するだけで、胸が苦しくなった。


 嫌だ。



 うわぁ。これはマズイ。



「春音って、此方こちらの世界の住人だからか、東洋っぽい顔なのに、目がクリクリ大きいよね。ちょっと色素が薄いし、ヘーゼルアイだね。髪も光の加減でピンクっぽいし、くせっ毛だし。」



 と指先であたしの髪をクルクルっと弄っている。



「春音っぽくて、可愛いなぁ。」



 ムッ!あたしの事からかって、楽しんでいるんでしょ!それなら!



「アルフの真っ青な瞳も、すごい綺麗だよ。いつまででも、見ていられるもん。太陽があたると、もっと綺麗なんだよ。サファイアみたいにキラキラしてね。」



 負けじと褒め称えた!



 そんな惚気のろけボケかましている二人の前に、マグノリアさんと高坂がヨロヨロと登場した。



「ダァ〜〜〜!!遅いではないか!」



 ミトレスはギンと高坂やマグノリアさんを睨みつけるた。



「ミ、ミトレスさん。もうちょい声のボリューム落としてくださいませんか?兄弟揃って、声が通るんだよなぁ。アタタタ。」



 高坂ほ頭を抱えて、後退あとずさった。


 確かに。二人とも、通る声よね。

 声優バリに。


 二日酔いの二人の調子なんか気遣うそぶりも見せずに、テーブルをバンッと叩いて叫んだ。



「もう少しで、体が溶けてしまうかと思ったぞ!!」



 オイオイ。そいつはスミマセンデシタ。



「んな、大袈裟な。しかし昨日は楽しかったなぁ。つい楽しくて、飲み過ぎちまった。」



 マグノリアさんもこめかみを抑えて、デカイ体を縮こませて、椅子に座った。


 すかさず、アルフが二人に鎮痛剤と水を渡した。…出た!オカン!



「高坂までお酒なんて飲んで、大丈夫なの?」



 こっちでは成人でも、あちらでは未成年ですからね。当然、飲み慣れていないはず。


 すると愉快そうに話した。



「マグノリアさんに、あちらの世界の昆虫と、こちらの世界の昆虫の違いを聞いたらさ。色々説明してくれて、マグノリアさんも甲虫とか好きらしくてね。向こうには黄金のクワガタが居るんだよとか、話してたら盛り上がっちゃって、お店で買えるんだよって話したら、あちらの世界に行った時に是非、購入したいって。それなら繁殖して、貴族をそそのかして一儲けしようって話になってさ。」



 まだ酔っ払っているのかしら。

 ま〜。虫なんかの事で、語る語る。


 するとアルフまで、へんな事を言い出した。



「ほぅ。黄金の虫があちらにもいるのか。こちらにも黄金の蝶が居てな。

 まだ肌寒い初夏にしか姿を見せないんだが、昔、子供の頃、捕まえてきては部屋にはなしてたら、カーテンに沢山の卵を産んでしまってたんだ。

 乳母に偉く叱られたな。

 ホラ、かえってしまったから。

 ウネウネと、、。」



 ウギャ〜〜〜〜〜!!!



「もう!!アルフ、ヤメテよぅ!」



 誰か、止めてくれよぅ!!



「殿下……それ以上はどうか、ヤメテくださいませ。」



 ミトレスも勘弁してほしいみたい。



 はぁ……。食事前でなくて、本当に良かった!男子はこれだからもう!



 で、まぁ、午後はあたしと高坂の魔法や、剣の使い方の訓練をする事になった。


 訓練の準備をしながら、そういえば、今更の事をアルフに聞いてみた。


「マグノリアさんも、日本語話せるのね。ここの住人って、多いの?日本語話せる人。」



 アルフは少し目をパチクリさせた後、合点がいったという顔をした。



「あ、そうか、教えてなかったね。それは、精霊の力だ。精霊に認められたものは、こちらの世界でも困らぬように、精霊が力を貸してくれるんだよ。春音みたいに、向こうの世界にいる時から手を貸してもらえるものは、そんなに居ないけどね。いわゆる依怙贔屓えこひいきってやつだから、本人が望んでも精霊に好かれなければ認められないよ。」



 そうなんだ。

 あれ?じゃあ、高坂は?



「もしかして、高坂が同行するのを認めたのって、精霊に認められたから?普通に会話しているよね?」



 アルフはニッコリ笑って、うなずいた。


「春音がこちらの世界に来た時に春音の守り人として、認められたって事だろうね。精霊が認めたのなら、こちらとしても邪険には出来ないし、後々のちのち力になるのなら、手を貸す方が良い。赤いオーラをまとっている事が、何よりの証拠さ。」


 へ〜。つまり、の精霊が高坂を認めたって事?


「それでも、僕はちょっと焼けちゃうけどね。あんな風に、向こうの世界を捨ててでも、一途に春音を追いかける姿にね。なんせ、春音の一番の守り人は、僕だと思っているから。」



 かぁ〜!!ほんのり頰を赤くして、そんなセリフ言うなんて、イケメン王子ズルいわ!






 ◆本日の訓練方法


 あたしは虹色のオーラなので、一通り教わる事になった。オールマイティとはいえ、得意、不得意は人によってあるらしい。先生は同じ虹色オーラ持ちのアルフ。炎だけはマグノリアさんが講義してくれるらしい。


 高坂は受身の取り方や剣の扱い方。炎の魔法の使い方。先生はミトレスとマグノリアさん。炎の使い手が必要なので、真赤な髪のマグノリアさん。オーラも真っ赤!しかも、英雄級の炎の使い手なんだって。


 よく、騎士が竜騎士や聖騎士になるように、魔法使いが大魔導士にレベルアップするように、魔法そのものも変化するんだって。ロウソクに火を灯す所から街を炎で焼き尽くす所まで、レベルによって強さが変わるらしい。

 マグノリアさんが本気になったら、この鉱山村は灰さえ残らず、焼かれてしまうらしい。それは、マグノリアさんを怒らせないようにしないとね。


 高坂は魔力が少ないから、少なくても使える魔法を教わるらしい。


 まずはマグノリアさんから二人まとめて炎を習う事になった。


 魔法が失敗した時の為、町に影響が出たら危ないので、鉱山村の奥の鉱山から、いらない石を積み上げられた場所で、比較的平らな所を選んだ。


 魔法は魔力を消費し、使うもの。出し方は体の奥の鳩尾あたりに、熱があるのを感じる。その熱を少しづつ、鳩尾から指先に移動させる。炎の魔法はなるべく今まで見てきたものを想像して、魔力を体から出して発火させる。



「炎は魔法の中で、一番解りやすいかもしれないな。魔力のエネルギーを燃やす炎って、向こうで言えばガスや液体燃料を燃やすみたいだろ?」



 ホラ、こんな風に。

 マグノリアさんの手のひら1センチくらいの所で炎が揺らめく。


 高坂はクリスマスケーキに飾られたロウソクに灯す炎を想像した。そして、体から魔力を出し、指先から、炎を灯した。



 おお!出来てるじゃない!

 すごい!

 よし、あたしも頑張ろう。



 その時ふと、あたしは昔、両親とキャンプに行き、河原でバーベキューをやった時を思い出した。炎が強すぎて、お肉が焦げちゃったっけね。その後、パパンが手のひらから薪に火をつけ、キャンプファイヤーをやった?


 パパンの火は強ずぎるから、バーベキューには向かないってママンが言ってたよね。確か手から火が?やっぱり普通じゃなかったかも。うちの両親。



「春音はもうちょい魔力の出す量を減らそうか。」



 マグノリアさんは焦ったように言った。



 気がついたら手の平から、ゴウゴウと音を立て、遥か上空10m程の火柱が立っていた。


 パパンに似たかな。思わず笑ってしまった。



「そこ!笑う所じゃないよ。春音の前髪がチリチリにならないように、気を引き締めてくれ!」



 アルフが突っ込んだ。



 そこからは高坂はマグノリアさんとミトレス双方から指南をうけ、剣術の特訓だ。剣を持つとミトレスさんに弾き飛ばされ、剣を落とし、満足に握る事も出来ない。



「オラ!どうした!剣を持たないと、剣術は学べないぞ」



 マグノリアさんがハッパをかける。



 と、また拾い構えるが、途端に一撃で弾かれた。速い。動く素振りも見せてない内に、気がつくと剣を落とされた後だった。



 クッソ〜!手がジンジン痺れる。

 これまで生きてきて、こんな屈辱感を覚えた事はない。大手電機メーカーの父や政財界の大物の娘である母。今まで叶わない事なんて何もなかった。

 俺の周りにいるのは、皆俺に媚びたり、俺より後ろ盾を欲するもの達ばかりだった。だから、俺はそれを利用してやった。鞄も持たせてやったし、宿題もやらせた。家来のようなもんだと思っていた。そんな傲慢な俺に初めて



「嫌よ!」



 と言ったのが春音だった。

 俺は春音の事が、気になりはじめた。何に興味があるのか、何が好きなのか。どんな事を考えているのか、口調はお嬢様言葉を使ってはいるが、猫を被っているのはすぐに気がついた。


 無理があり過ぎだよな。実は結構ガサツだし、掃除はサボるし、体育の授業中ランニング途中で、近道してバレて怒られているし、そんな初めて見るタイプの春音の事が好きだった。


 俺の事、全然好きじゃないのは知っていた。それでも媚びない春音といると気楽だったし、楽しくて気がついたら笑っていたんだ。


 それなのに!横からいきなり出てきたアイツの前では、顔を真っ赤にしたり、俺には一度も見せた事ない、女の顔をするんだよな。


 二人が抱き合って、キスしているのを見た時は、煮えたぎるような気持ちを覚えた。今だって、ちょこちょこコッソリやってやがる。


 何だよ!!俺が先に見つけたのに!春音が可愛い事は、俺の方が先に知っていたのに!俺は、俺はこのまま何も出来ないで、ただ二人を見ているだけかよ。


 俺は剣を拾った直後に、ミトレスに切り込んだ!



 まぁ、やっぱり惨敗なんだけどな。



 あたしはアルフと魔力を制御する方法を学んだ。水玉や雪玉を作って、キャッチボールをした。雪玉は簡単に作れたし、楽しかった。水玉は形を保ったまま、相手に投げるのが難しかった。


 次に雷魔法を大きめの石にあてたら、粉々で黒焦げになっちゃった。

 イメージだと真っ二つに割れる所を意識したんだけどなぁ。土魔法で大地を揺らしのヤツは止められた。鉱山の洞窟が潰れてしまうと諭された。


 なので、石で何か作ってみろと言われたので、石と水で池を作った。あの庭とかにある、鯉とか泳がせておく池。でも、これは池というより、プール?


 あたしに必要なのはコントロールらしい。コップに水を注いで、溢れさせないように。細く少しづつ出す。魔力を微力にしてみたら、ミストが作れた。これ、温めたら、ミストサウナが出来そう。


 お?!これは!!さっきの池プールと合わせて、露天風呂が出来るかも!!

 ホイホイホイと!石で椅子も作ったり、石の中の金属を取り出し繋げて、鏡も作ってみた。超豪華な露天風呂が完成!後で入りたい。


 満足気なあたしにアルフは良くやったな!後で入ろうか、勿論一緒に!と嬉しそうに言った。



 いやいや、何の為に、男湯と女湯に別けて作ったのかと?



 風魔法はほとんど苦労しなかった。

 さっき水魔法で作った水玉に白のワンピースを入れ、中で回転させる。少し、洗剤を入れて、魔法洗濯機の完成。その後、濯いで、絞って、風魔法で乾かした。温風ですぐ乾いた。


 その後、風魔法のイタズラで、アルフの耳をくすぐってみた。


 アルフは笑って、お返しに耳にキスをした。そんでコッソリ、耳の後ろをクンカクンカした。コラ!!やめい!



 あ!そうだ!



「回復魔法は?これって一番肝心じゃない?」


「う〜ん。残念だけど、確かに僕はオールマイティなんだけど、回復魔法は苦手でね。明日だったら、討伐隊が帰ってくるから。回復魔法使いを紹介するよ。」



 へ〜。何でも出来るアルフにも、苦手な事ってあるんだ。



「もし、回復魔法を使えてたら、春音をあんな痛い思い!ずっとさせないで済んだのにな。ごめん。苦手だからと、克服するのを怠って。」



 そういうと、アルフはフンワリと包み込むように、肩を抱いた。



「うん。あれは本当に痛かった。

 全身、毒がまわったみたいに痙攣したし、でも、アルフが責任感じる事なんて、ないんだよ?むしろ、連れて行かれないよう、救ってくれたじゃない?もし、助けてくれなかったら、どんな怖い目に遭わされていたか。」



 想像したら、ゾッとした。



 過保護なんだから、アルフも高坂も、あの頃は自分が狙われるだけの存在だなんて知らなかったとはいえ、外国来た日本人としても、安全に過ごす行動は必要だった。


 一人で行動していなければ、あんな目には合わなかったろうし、でもそうしたら、アルフにも出会わなかったかもしれない。アルフの胸に顔を預け、フフフッと笑っていたら、フンワリじゃなく、ギュッとされた。


 その後は光の魔法を教わった。

 魔族やアンデット系にも効くらしくて、光をライトみたいに岩にあてたら岩が溶けた。


 アレ?


 回復魔法も光魔法の種類らしくて、聖なる光をあてる事で、回復するらしい。アルフの聖なる光は本当にショボかった。あたしの治りかけの傷にかけたら、ちょっとだけ治りが早くなる位らしくて、見た目わかんない。それっておまじないですか?ってレベルだった。


 なので、聖なる光の出し方はよく分からなかった。討伐隊の癒し人と呼ばれる、聖なる光魔法使いさんが戻るまで、回復魔法は待とう。もうすぐ、もしくは今日の夜までには戻るらしいので、楽しみだ。


 高坂が魔力切れで、倒れ込んでいたので、水魔法と風魔法を使って、髪をワイルドなツンツン頭にして遊んでみた。


 ドライヤーみたいに、熱風を出す魔法も披露したら、ミトレスが「羨ましい!それすごい便利ですよね。」と呟いた。ミトレスは氷や水などの他に風魔法も使えるが、炎とは相性が悪く、熱風のはずが冷風になってしまう。

 あちらの世界で、ホテルに泊まった時にそんな温風を出せる機械を使った事があって、便利で持って行きたかったんですが、こちらの世界には電気が普及してないんですよね。魔道具として、開発出来ないかしら。魔石を使ってと何やら、ブツブツ言いながら高坂のツンツン髪を弄っていた。


 そうなのよ。ミトレスもあたしもクセっ毛だから、髪を整えるの大変なのよね。だから、髪を伸ばして髪の重さで誤魔化すしかなくて、今まで短い髪型なんて、した事なかったもの。アルフもクセはあるみたいだけど、軽く手櫛で流せば、整えられるそうな、羨ましい!



 取り敢えず、今日の訓練はこれにて、終了。



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