第12話 鉱山村でアルフを観察!

 こんなに早く走れる人を、今まで見た事ない。一般道はなだらか過ぎて、すぐに追いつかれてしまうから、森の中で木々をスイスイ抜けていく。


町にデアウルフの群れを近づけるわけにいかないので、今は町の東にある鉱山村に向かっている。あたし達がいなければ余裕で倒せたらしいんだけど。数が多いから、二人を守りながらの戦いは、危険と判断したらしい。


 鉱山村の入口に魔法で作られた、強力な結界があるらしくて、そこに入ってしまえば、デアウルフも諦めて、縄張りの巣穴へ戻っていくらしい。

一旦そこの宿屋で今夜は泊まる予定だって。


 それにしても、こんなに走ってたら、余裕なくて担いだあたしと普通に会話なんて、全然出来ないわよね。担がれているあたしも頭逆さまになっているのに、そんなに苦しくないし。魔法の力って便利よね。だってそれ程、筋肉隆々な風には見えないし。


 まあ、引き締まった筋肉はあるみたいね。肩に担がれているついでに背中とか、腰あたりの筋肉をピタピタ触ってみる。おお!動いてる動いてる。オリンピックに出たら、確実にメダルとれそうよね。


 ああ、それにしても相変わらず良い匂い。少し汗ばむ背中の匂いにうっとりしてしまう。



「春音……今は駄目だよ。走るのに集中しないと、後で嫌という程触らせてあげるから、ちょっと待ってね。」



 ふ〜ん。嫌という程?それって、くすぐったりもアリって事?叩いても、効果なかったもんなぁ。


 後ろの方では、高坂がまだ叫んでいる。ヤバいなぁ。ミトレスがブチ切れないと良いけど。アイツ空気読めないからな。時々チラッと見えるミトレスの顔は無表情だけど。確実にイラッと来ているよね。


 森が開けた所が鉱山村の入口だった。入口手前で、スルンと降ろされた。アルフは息も切れていない。汗はかいているけど、ちょっと軽く運動してきたって感じ。そして、何やら呟くとあたしの手を取って歩きだした。

ちょっとチリッと電気が通った感じがして、透明な幕のようなものを抜けて入った。


 中に入るとあたしの方へ向き直し、またササッと手櫛で髪を整えてくれた。うん。ずっと逆さまになって、担がれてたからね。凄い事になってたでしょうね。


 もう、自分でやりますからとか言うのも諦めた。もう、勝手にして。ちょっと色々あり過ぎて、気持ち的に疲れてしまったみたい。そんな顔をしていたのかもしれない。アルフは包み込むように抱いた後、頭をヨシヨシと撫でてくれた。



「もう、怖い事は終わり。今日は宿屋でゆっくり休もうね。」



 ニッコリ微笑むと素早くキスした。最近、覚えつつある、素早く済ませば抵抗されないと思って、実際は抵抗しようとした時には、終わってるっていう技。高坂やミトレスが他を見ている隙にとか、ちょいちょいズルいんだから。


 鉱山村に入ると、外からはよく見えなかったが、結構人が多くいた。そして、広いしデカい!建物も三階建とか、五階建とかあるし、どうみても、村という規模ではないよね。雑貨屋さんみたいな店や武器屋さんみたいな店も、コンクリートのような石を積み上げたようなしっかりした作りだし、ただ、どの人も服装も肌も薄汚れてて、そんな事にも特に気にしてる風には見えなかった。


 アルフに手を引かれ、煉瓦が敷かれた広場に来ると、そこは賑やかな市場だった。タイルが貼られた、比較的綺麗な噴水の縁に座らされ、ここで少し待つように言われた。



「おやぁ?随分、可愛いお嬢ちゃんが座っているじゃないか!こんな辺鄙へんぴな所に一人で来たのかい?この辺りじゃあ、見た事ない顔立ちだね。」



 お!良いお声のお兄さん。

 声優さんみたい。



 見上げると想像とは違って、2メートルはありそうな筋骨隆々な、お兄さんが立っていた。


真っ赤な腰まである髪を無造作に三つ編みに1つにまとめ、肌は浅黒く兵士の様な鉄の胸当や、横幅が20cmはありそうな大きな剣をぶら下げていた。エメラルドのような緑色の目をキラキラさせて、ニカッと笑うと興味津々な目で見下ろされた。


昔ハマっていた格闘ゲームとか、アクションRPGのキャラクターみたいな圧倒的な存在感に、瞬きも忘れただ、ただ圧倒され、固まってしまった。(違う!違う!その声は乙女ゲームのキャラクターのお声でしょぉ!お約束破っちゃイヤァァ!!)



「怯えさせるな!マグノリア!」



 プルプルと生まれたての子鹿みたいに震えるあたしの前に、スッとアルフが庇ってくれた。



「デアウルフの群れの時は、もっと余裕があったのに。」冷たい飲み物を差し出し、アルフはクスッと笑った。


「だって、あの時はアルフが一緒だったし。一人でさんに対応は無理です。」



マンゴードリンクみたいな飲み物を受け取り、こたえた。



 ハッとして、巨体の熊さんは膝をついた。大きいのに動きが機敏。



「失礼いたしました。殿下!ご無事でお戻り誠に喜ばしい事に存じます。」



「うんうん。お前も変わりなく、元気そうだな。この町も活気があって何よりだ。」



やっぱり町なんだ。ややこしいのう。


 そこに、ボロボロのヘビメタボーカルみたいに、髪の毛を逆立てた高坂とミトレスがやってきた。



「兄さん!?迎えに来てくれたんですか?」


「お〜!ミトレス。元気にしていたか?お?随分変わった彼氏連れて、最近、趣味が変わったのかい?」



え?兄弟?って、お兄さん……それ今触れない方が……。



 案の定、うがーーー!!と高坂に懇々と説教が始まった。


何故走っている時に叫んだり、暴れたりするのか、それだけ元気なら、お前も一緒に走って逃げろとか、大体そんな体たらくで、何が春音様をお守りする気だったんだ!とか、気構えがなっとらん!とか!ストレス発散させるまでは、収まりそうになかった。


 結果、放っといて、先に宿屋に向かった。ミトレスの代わりに、グマじゃない、マグノリアさんも護衛に付いてくれた。


 宿屋の部屋に入ると、アルフが次々と空間から、スーツケースとか、手提げバッグとか、フランスで買ったお土産とか取り出してくれた。それ見たら、安心しちゃったみたいで、やっと体から緊張がほぐれた。そのまま椅子に座る前に、床にペタンとお尻をついた。



「掃除はしているだろうけど、床に直に座るのはさすがに、やめた方が良いよ。」



「それが、安心したら、腰が抜けちゃったみたいで。」



 おやおや、と言ってお姫様抱っこであたしを持ち上げると、そのままベッドまで運んでくれた。


 そして、チャッチャと濃紺のジャケットを脱がせ、備え付けのタンスにかけ、ワンピースも脱がされた。

ちょっと!と言った時には、パジャマを被せられていた。



「少し、微熱があるかもしれないから、今日はこれ食べたら、休みなさい。」



 と空間から、お盆にお皿を出して、市場で購入したであろう、串焼きとか甘いパンみたいなの出してきた。それとコップにペットボトルの明らかに向こうの飲み物を入れていく。触ったら、冷えていた。どんだけ便利なの?



 そして、あたしの額に手をあて、


「ん〜。熱が上がらないと良いけどね。退院したてだしね。頭が痛くなったら、これ飲みなさいね。」



おお!鎮痛剤とは用意が良いね。


ベッドの側で、たったまま考え込むアルフ。


 あたしは有り難く、食事をさせてもらった。それにしても、アルフって第一王太子という身分なのに、そうは思えないよね。旅慣れているのもそうだけど、意外と面倒見が良いし、ちょっとオカン入っているけどね。高坂の時もそうだけど、身分の割に偉そうじゃないし、ミトレスが言うように、皆に尊敬され、慕われるのも今なら、分かる気がする。


 時々、あ〜やって考え込んでいる時あるけど、頭の中どうなっているんだろね。先々の事、色々想定して行動しているのはわかった。ここの宿屋に行く前に、市場で食事やあたし用の旅道具を購入しているし、小さな剣まで用意してた。大事にしてくれているのが解って、嬉しい。


 でも、すぐ触ってきたり、キスしてきたり、あたしの匂いがそうさせているって言ってたけど、アルフはあたしの事どう思っているのかなぁ。



 ……あたしの匂いがなくても、構ってくれるの?

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