第10話 異世界スィーテニアに来ちゃったよ!

 病院を出ると、病院の裏手にある駐車場に連れてこられた。


 車でホテルまで、送ってくれるんだろか。意識がなかったので、先生に会ったのは入院する前だし、元気になったって姿見せて、安心させなくちゃね。



「はい。じゃあ春音はこっちね。ミトレスは一人で大丈夫だろ?」



 あたしを当たり前のように抱きしめながら、何か指示を出している。あたしの荷物を、全く何も無い空間に、向かってポイポイッと放り投げる。


 ほえ?放り投げたトランクが空間で消える。ちょっちょっ!どこに送ったの?慌てて、聞いてみたら


「うん?……あぁ、僕は異次元空間倉庫持っているからさ、入れとけば倉庫内に勝手に収まっていくんだ。パソコンのファイルみたいに、春音の荷物はそっくりそのまま春音ボックスとして入れたから大丈夫だよ。その内、君にも作るか、魔道具で代用するかしようね。」


とか、当たり前みたいに応えてるけど、アルフの当たり前に慣れる日が来るのだろうか。兎に角、何があっても冷静で居られるように、色々諦めなくちゃいけないな。


「では、行くよ?心の準備は良い?」


 ん?

 ホテルまで、なんかの魔法使うの?


「こちらの世界で魔法使って、大丈夫なの?」抱きしめられたまま、アルフの顔を見た。


フワッて、トロけるような笑顔を見せた。


ああ、やっぱりこの笑顔には勝てないなぁ。チェッ。


「これくらいなら、大丈夫だよ。

慣れない内はちょっとクラクラするかもしれないから、目を閉じて僕にしっかり掴まっててね。」


「……はい。」



「良し!!では、スィーテニアに出発!!」



 うえ〜〜〜〜〜っ!!!


 な…なっ何ぃ〜〜!!


 ちょっ、まっ!!


 ホテルじゃないの〜ぅ!!


 こんの〜ぅ!!

 騙したわねぇ〜!!


 嘘・つ・き・の・ストーカー!!

 エロエロ王子ぃぃぃぃ〜!!!



 迂闊にも目を開けてしまった。



 グニャグニャな色んな色が混じった、マーブルな空間の中、あたし達はどこかに向かって飛んでいた。

それに、すっっっごく寒い!!


 ヒィッッ!



 その光景に怖くなってしまって、慌てて目を閉じて、命綱のアルフをしっかり抱きしめた。それなのに、アルフは余裕で何がそんなに可笑しいのか、ずっと思いっきり笑うのを我慢するように、グフッ!って時々笑い声が漏れている。そんな様子を見て、負けた気がして悔しくなった。


もう、嘘つき!嘘つき!嘘つきぃ!!

考えてみたら、最初から騙されてきた気がするぅ!!簡単に信じちゃうなんて、あたしのバカバカバカ!!

あたしは屈辱感で、いっぱいになって、泣いてしまいそうになった。

さらに、怖さと悔しさで、あたしはブルブル震えてしまった。


 アルフはあたしの背中を摩りながら



「エロエロ王子?」



ブフッ!フックッククク……。と、もう我慢しきれないって感じで笑っている。



ムキ〜〜!!勝手に笑っていなさいよ!



 どれ位経ったのだろうか、体感的には30分位だと思う。やがて暖かくて、眩しい光に包まれた。



 なんだろう……。



 サラサラで湿気はないんだけど、何か蜂蜜の中にいるような、何かがまとわりつくような濃密な空気感。


 これが空気に含まれる魔力ってやつなのかな?確かに向こうの世界とは、全然違うかも。


 足元に何かあたり、段々重量を感じてきた。アルフが抱きしめた体を解いて、手を繋いだ。



 あたしはそうっと目を開けた。



 そこは教会とか、オペラホールのような天井が高く、窓から沢山の光がさし込む建物の中だった。クリスタルのような窓のガラスは煌めきながら、陽の光を中に取り入れている。円形の植物なのか、花の紋様のような金色に縁取られた敷物の中央にあたし達は立っていた。静かだけど、外の鳥のさえずりが僅かに聞こえてくる。


 誰もいない。



「ミトレスを待つから、もう少しこのままでいて。」



 へいへい。もう来ちゃった以上は、従いますよ。今のあたしには選択肢は無いんでしょうよ。ふ〜んだ。


 でも、覚えておいてよ!!

魔法もこの世界の事も沢山勉強して!

ガシガシ強くなって!!やるんだから!!


 密かに心の中で復讐を誓っているあたしに、楽しそうな顔でアルフが言った。



「何か面白い事たくらんでいるの?良いねぇ。その顔。それはそうと、遅いねぇ。ミトレス。何かあったんだろうか?」



 そういえば、確かに。え?奴らがきたとかじゃないわよね?……まさか、襲撃に遭ったとか?良からぬ想像、妄想で青くなってきた。その思考を遮断するように言った。



「まあ、僕の魔力は強いし、転移速度も違うから、仕方ないか。フッ。もう少し待ってみよう。」



 何の恥ずかしげもなく、シャアシャアとのたまうアルフにホッとした。

ソ〜デスカ。ヘイヘイ。


「ほら、そんなムクれてないで、せっかくの可愛い顔が台無しだよ。」


 再びぎゅっと抱きしめたと思ったら、耳の後ろをクンカクンカしている。


 コラコラ!それ失礼だから!

マジでやめて欲しい。……あたし冷や汗とか出てたし、本当に臭かったら恥ずかしいじゃん。でも、なんかこの人……段々様子が違ってきている?ただ抱きしめていただけの手が、背中をまさぐっている。


 もしや…や、ヤバいモード?耳から頬に口元を這わてきた。アルフの息も早いよ。ハァハァって息が……。



「ちょっと!」



 抵抗しようと腕で胸を押そうとしても、全然動きやしない。口を塞がれ舌を絡ませて、深く貪るようなキス。

 心臓がドクドク早い。頬も首も耳まで真っ赤に染まる。あぁ、ダメ〜。こんなのズルい。異世界転移より、クラクラしちゃう。



その時バシュン。ドカン。バラバタン。と音がした。



 アルフはその途端、あたしを後ろに隠した。あたしは気分もフラフラで、アルフの腰辺りを掴んだ。な、ナニゴトデスカ?



「なんだミトレス!そいつは!」



 へ?ソイツ?ソロソロっとアルフに隠れながら、何があったのかと顔だけ出して見た。


 鬼のように怖い般若顔で、仁王立ちしているミトレスの太ももに、しっかりとしがみついていたのは、涙も鼻水もダラダラの、まさかの高坂海斗だった!!



 うがーーーーー!!

あんたここまで付いてきたのぅ!??

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