第8話 成る程!だからホイホイなんだ!

 心肺停止していた時間がある為、脳内細胞が損傷を受けている可能性があるらしいの。そんな訳で、脳波やら、MRIやら、MRAやら受けさせられちゃった。手足の痺れはないかとか、体に違和感が無いかとか、色々調べられまくりよ。


 やっと終わって病室に戻ったのは夕方の5時頃。ほぼ一日中、検査されていたかもしれない。退屈で、待ち時間はスマホでずっと遊んでいた。そのせいで、スマホも充電器も電池がもうなくなりそう。


 ベッドに横になり呆けていたら、病室のドアがノックされた。



「どうぞ。」



 やっぱりというか、どうやったらわかるのか、もう腹くくって聞いてみようと思った。



「気分はどうだい?」



 病室には場違いなオーラを撒き散らして、アルフはにっこり微笑んだ。


 手に持っているのは、真っ赤な薔薇やコスモス、ダリヤなどが籐カゴにオシャレに飾られてあるブーケ。花瓶が無くても良いように、そのまま病室に置いておける。さすが気配り王子ですわ。


 ベッドの脇の椅子に座り、籐カゴブーケを渡してくれた。おお、良い匂い。



「あ、ありがとう。」



「うん。適度に解放されたようだね。ふうん。良い感じだね。」



 手であたしのあごをあちこち向けさせて、ほほのチェック。ん?今、もしかして鼻の穴まで見たぁ?腕の傷跡も確かめる。手櫛てぐしであたしの髪を軽く整えたかと思ったら、当たり前のように、あたしの手を取るとモミモミと手のツボを軽く刺激し、マッサージを始めた。



 コラコラ、君はあたしのオカンか!



「あの、聞いても良いですか?」



 良い香りのハンドクリームを取り出して、マッサージに夢中になっているアルフに問いかけた。



「どうぞ、何でも聞いてごらん。」こちらを見もせず、甘皮や爪のマッサージをしながら応えてくれた。



「どうして、アルフはあたしに構うの?……あの怖いお姉さんて何者?あたしの匂いって何?

 …………………そして、アルフって何者?!」



 聞きたい事を一気に聞いてみた。


 アルフはマッサージの手を止め、フゥッとため息を漏らした。



「そうだね。1つ1つ答えていこうか。」



 あたしはうんうんと頷くと、アルフの答えを待った。



「まず、君の事だ。何故君を構うのか。それは君が実はこの世界の人間ではないからだよ。」



 は?

 えええー!

 イキナリ、頭がパニックになってしまう程のお答え。



「君は私と同じ、スィーテニア世界の住人。初めて会った時は魔力がそれこそ無理矢理、君の体の奥の方に閉じ込められていたようだよ。その時は確信はもてなかったんだ。でも今は体全体を魔力が覆っているよ。僕と同じ色だね。虹色の魔力だ。」



 虹色……?



 朝見せてくれた、妖精のような子達の贈り物。あれも虹色だったね。何か関係があるの?つまり、あたしは異世界から、この世界に来たの?


「多分、転生して来たのではないと思うよ。その場合、こんなに魔力は強くはならないから。こちらの世界に合わせ、魔力を抑えて生まれてくるはずだからね。君のご両親、、そのものが異世界人の可能性があるかもね。今、ご両親どちらに居るんだい?日本に本当に居るのかい?」



 ちょっと意地悪な含み笑いをもらすと、またあたしの頬に手を添えた。



「あのイカレた女は禁忌を犯し、向こうの世界から追われた罪人だ。君を狙ったという事は力を狙っての事だろうな。君……春音の匂いは強烈だからね。」



 なんか、酷く侮辱された気分。

 ちょっとぉ、あたしが臭いって事??

 それは流石に傷つくんですけど。

 ムウッとしかめっ面で口を尖らせた。



「あははは。違うよ。反対だよ。良い匂い過ぎて、蜂が花にとまるように、ウツボカズラが虫を呼ぶように、あちらの世界の住人なら、種族を問わず皆惹かれてしまうのさ。」



「ちょっ!ウツボカズラ!?よりによって、全然嬉しくない例え、ソレハソレハ、アリガトゴザイマス!!」



 顔をフン!と横に向けて拗ねた。


 アルフはギュウッとベッドから、あたしを膝の上に移動させて、抱きしめた。鼻の頭をくっつけて、首筋から耳の後ろをクンクンしている。



「……良い匂いだよ。魔力が解放されたから、濃さは穏やかになったけど、かなり広範囲に広がっているな。これじゃあ、これから益々狙われるね。だって、遠くにいるものにさえ、私はここにいます!って教えているような強烈な匂いだもの。」



 そして、我慢するように、フゥッとため息を吐いた後、顔を戻した。



「……まったく、忍耐力が必要だ。

 それはそうと、君を狙うのは人間や魔族だけとは限らないよ。こちらの薄い魔力の空気は悪い者も呼ぶかもしれない。そうなると益々君は危険に苛まれるってわけだね。それは大変でしょ?


 だからさぁ、、春音。僕と僕たちの世界に戻らないかい?あちらだったら、魔力の層が濃いから、少しは目立たなくなって、ここ程は怖い目に合わなくなるんじゃないかな?」



 はあい?

 あちらの世界って、あたしまだ未成年だし、あたしだけでは決められないんですよ!



 …病室のドアの外、高坂は2人の会話に聞き耳を立てていた。



 なんだろう。藤島の声は日本語だが、もう1人の男の声は明らかにフランス語だ。あれで、どうやって会話が成り立っているのだろう。スマホで翻訳しながらの会話なんだろうか。

 それに異世界って?匂いって?

 一体何の話をしているんだ?

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