第5話 こんな痛いって聞いてないから!

 真夜中、余りの痛みに、あたしは夢から覚めた。腕が引きちぎられたような、激しい痛みで体が痙攣けいれんする。


 大きな声でわめいていたらしく、声を聞いたクラスの女子が先生を呼んできてくれた。


 先生は腕が赤黒く腫れ上がっているのを見つけ、意識朦朧いしきもうろうとしているあたしに何度も声をかけた。でも、その声に応える余裕は無く、あまりの痛みに「ウガァ〜」とうなるしか出来なかった。先生は直ぐに救急車を呼んでくれた。



 グランドパワーホテルのエントランスから救急車のサイレンが響き渡り、春音を乗せて走り出した。


 道路向かいの建物の影の中。周りの気配を探りながら、アルフは立っていた。


 あの……彼女の魔力の匂いは、何なのだ。普通の人間ではありえない。抑えようとしても、側でいでしまうとどうしょうもない。


 もっとも、ヤツらも彼女の力を狙っているようだから、時間がないのは解っているが。あそこまで強烈だと、流石の私も長年培ってきた、自制心も何も吹き飛んでしまう。


 だが、私はあの匂いを、以前にも何処かで嗅いだことがあるような……。


 ………いや、そんなことがあるわけないか。


 そして、匂いだけじゃない。

 体の中に炎というか、溶岩が閉じ込められているかのような、激しい強烈な魔力の渦を感じる。こちらの人間にしては魔力が強すぎる。あの力を解放すれば、彼女が何者か分かるというものだが。敵なのか?味方になれる者なのか?



 !!!

「もしかしたら、奴等はその為にワザと彼女を傷つけたのか?!」



 とにかく、奴等には渡せない。

 何者であっても、あれだけの力を奴等に渡すわけにはいかないんだ。



 春音が担ぎ込まれた救急病棟では、大変な騒ぎになっていた。


 アレルギーテストや毒性検査、細菌やウイルス検査、血液採取、レントゲンやMRI検査、何をやっても原因が特定できなかった。しかも血圧が下がり、意識が何度も落ちた。


 そして、彼女の意識が落ちそうになると何故か病棟というか、病院内の全ての電気類が落ちそうになった。


 担当医のワルツ・ゴーレンは気がつかなかった。電力会社の怠慢を呪い、今電力が落ちたら、この病院に入院している沢山の助かるはずの命も消えてしまうかもしれない。自家発電設備はあるが、そんな長くはもたない。本日オペを控えている人達もいるし、取り敢えず今日の救急の受け入れを止めてもらった。


 別の地区では特に問題なく、電力の供給は安定しているらしいから。そちらに回してもらうようにした。もし、万が一の場合はこちらに入院している患者も受け入れてもらう必要がある。


「一応、院長にも相談しておくか。」


 春音の3度目の意識が落ちそうになった時、点滴を変えようと看護婦が近付いた。その途端、天上のLED点灯や脈拍計がチカチカと落ちようとしている。


「やだ。停電?」


 担当医が病室に入って来た。

 直ぐにあたしの手を取り、腕の脈拍を確認した。


「不味いな……。」


 あたしの顔を上に向けさせ、目にペンライトをあてる。


「AEDの用意をしてくれ!」


 あたしはもう、唸る声さえも出せなくなっている。身体中が熱くて、痛くて、苦しい。そして、あたしの体の中から、何か熱いものが出て来ようとしている。


 あ、あ。このまま、もしかしてあたし、死んじゃうのかな?破傷風とか?全身に菌がまわったの?あのお姉さん、爪の中にそんな強烈なばい菌持ってたの?綺麗な顔して、ちょっとダラシないんじゃない?なんてとりとめない事、グルグル考えていた。


 しかし、そんなとりとめない事考えている時、突然、胸の辺りがドカン!と何かあてられた!!



 ウギャ〜〜!


し、心臓飛び出しちゃうじゃんかぁ!今、何されたの?



 もう、何も考えられない。

 あたしの意識はそこまでだった。


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