第4話 綺麗なものは危険だったっけね。

 彼が何か呟くと、眩しい光が辺り全体に照らされた。

 怖いお姉さんは後ろに跳びのき、近くの建物の影の中に消えていった。


 あのぅ?今のは?

 もしもしお兄さん、何か光る武器みたいの使った?


 ん〜?そんで怖いお姉さん、今建物の影の中に入ったよね。見間違いじゃなければ、なんか……地面の中にスルって入っていったような……。

 な、わけないか?


 で、もしもし?お兄さん。どうして、あなたが今ここにいるんでしょう?なんかあたしの頭撫でてくれてるし、何か温かいし、気待ち良いんだけどね。


でも、また首のとこチュッチュッしてない?そんでこっそり匂い嗅ぐのやめて欲しいです。くすぐったいしね。


 さっきまでの怖〜い緊迫した気分から解放されて、強気でいたけどやっぱり怖かったみたいで、あたしもそのままお兄さんにギュッと抱きついた。


 ……ホゥッと安心した。



「大丈夫?頬っぺた痛くない?」



 顔を覗かれそうになったけど、まだ離れたくない。



「もうちょっと。」



 また優しく包んでくれた。



「………良い匂い。」



 あ、いけね。心で呟いたつもりが、声に出してた。



「そう?君こそ、凄く良い匂いだよ?あいつらも、ソレに引き寄せられたみたいだな。」



 ソレって?何?何言ってるのかね?



「腕は?掴まれた時、傷付けられたみたいだけど。……う〜ん。ちょっと腫れているね?」



 金の髪のお兄さんは眉間に皺をよせ、傷口をマジマジと観察している。

 袖をまくられ、傷の部分に口を付け吸っているの?舌を這わせたと思ったら、ゾクンと感じた。コラコラ、やり過ぎだから。



「もう大丈夫です。」

 急いで離れた。



 金の睫毛バサバサお兄さん。

 今日も眩しいです。

 そんな優しげな微笑み……。

 ああ、美しいです。



「ありがとうございました。」

 ぺこりと頭を下げた。



「アルフだよ。僕はアルフォンス・ベル・ドール。アルフって呼んで。」



 眩しいキラッキラの微笑みをしたまま、左手は自分の胸にあて、右手をスッと差し出した。フランス人なのに、とても日本語上手なお兄さんだよね。そういえば、何故かあのあたしをさらおうとした、怖いお姉さんも日本語上手だったよね。



春音はるねです。春音はるね藤島ぶししま。日本人です。日本語が上手ですね。」



 握手をしながら、こたえた。



「……日本語?ふぅん。そうか。日本人は礼儀正しいから、好きなんだ。知ってる?パリでボランティアで掃除する日本人が居るんだ。今では、パリ市民も外国人に掃除してもらっては恥ずかしいから、自ら綺麗にしようって掃除する人が増えてきたんだ。日本人て偉いよね。人の見ていない所でも、こっそり良い事をしているんだよ。」



 そう言うとブンブン手を繋ぎながら、上下に激しく振る。



「それに日本の女性は可愛いし、美しいよね。肌も綺麗だし、柔らかいし、気持ち良い。」



 更にニッコリ。微笑まれちゃった。はぁ、眼福眼福!ヤバい。ヨダレ出そうになってた。恥ずかしい。


 手を繋ぎながら、一緒に歩き出した。



「どこのホテルに泊まっているの?叩かれた頰が赤いし、もう、戻った方が良いよ?ちゃんと、送って行ってあげるからね。」



 そうね。さっきの怖いお姉さんには、もう会いたくないしね。いいか。



「グランドパワーホテルです。」


「へぇ。随分良いホテルに泊まっているんだねぇ。カップ買うの渋ってたのに?」



 大きな青い瞳が、更にかっと見開かれた。あぁ、その事は忘れて下さい。


「その。高校の修学旅行なので、団体割引とかあるのかも知れませんね。」


 まあ、お金持ちの子が行くような学校だしね。



「ふぅん。」



 ホテルが見えて来た。エントランスが近くに見える所まで来たら、立ち止まった。


「じゃ、今日は早目に寝た方が良いよ。腕の傷口も腫れないと良いけどね。」


 ペロっと舌をだす。


 急に先程、吸われたり舐められたりした事を思い出し、ブワッと顔が赤くなった。そんなあたしの顔見て、うんうんと頷きグッと体を引き寄せた。素早くあたしの顔を上に向けさせ、抵抗虚しく、口を開かせ舌を入れてきた。


 おっと油断ならねぇ。

 これだからフランス人は!!



「ま、待って!あ、あの、あたしキスだって、昨日、あなたとしたのが初めてなんです!慣れてないから、日本人はそんな風に急には出来ないんですから!」



 顔を横に背け、やっとのことで口を離した。精一杯腕をググっと彼の胸を押しているのに、ビクともしない。むしろ、締めて来てない?


 お兄さんは不敵な笑顔のまま、また顔を上に向けさせ、今度はガッツリ舌を絡ませてくる。



 ヤバい。



「もうちょっと。………でしょ?

 うふぅん。可愛い。たまらない程、凄く良い匂いだ。この匂いが僕らを酔わせるんだ。……ああ、もう我慢出来ないよ。」



 腕を下におろしながら、後ろ手に回さられた。グイグイ胸を押し付けてきた。そして、ちょっとしゃがむようにして、彼の膝をあたしの足の間に割り込んでくる。これはヤバいって。



「だ、駄目ぇ!!それは反則!それは嫌っ!」



 すると、ギュッと抱きしめられた後、彼はゆっくり体をひいた。



「………ごめん。無理強いは駄目だよね。」



 もう!今日はせっかく綺麗に終わると思ったのに。



「………せっかち過ぎるから。」



 顔を俯いたまま頬を染めて、静々とこたえた。


 本音)旅先で手慣れた遊び人に、もてあそばれてたまるか!!ボケ!!ちょっとカッコイイと思って、調子に乗るんじゃ無い!



「…うん。分かったよ。これ僕の連絡先。いつまでパリに居られるの?良かったら、連絡して。」



 無い無い無いです。いくら、今まで見た事無いような、美貌の持ち主でも、遊び人は勘弁です。


 投げキスとか、イケメンじゃ無いと絶対許されないポーズを決めて、お兄さんは去って行きました。


 ………ん〜。もう。何とか無事帰ってこれて良かったとホッとした。ホテルのエントランスから、ロビーに入ると、他のクラスの女子がチラホラ目についた。スマホで撮ったものを見せ合いっこしているみたい。


 ん〜っ。腕が段々とズキズキ痛くなってきちゃった。これは早いとこ消毒しなくちゃ。それにしてもあのお姉さんの爪、長過ぎでしょ?しかも何あの馬鹿力。あれじゃ缶とか開ける時、爪だけでカチ割れるよね。


 それにしても、あの怖いお姉さん。確か変な技というが術みたいなの?使っていたよね。物凄い速度で移動してたけど、あの時あたし足を動かしていた?走ってないよね。なのに移動していた。人間離れしたあの力へ何なの?


 それにあのアルフってお兄さんも、どうやったら、あの場所に助けに来られたの?偶然見かけた?それってありえる?あたしの匂いがどうのとか言ってたよね?僕らって?あのお姉さんを退けた光って何なの?幻覚でも見た?


 部屋にこもって、わたしはいつまでも答えの出ない考えを巡って悶々としていた。


 それにしても、腕の怪我が酷くなってきている。腫れが酷い。あまりの痛みに我慢出来なくなって、先生に言って消毒してもらった。



「明日まで様子を見ましょう。」


 夕食の後、早めに寝るように言われた。


 興奮して、眠れるかしら?と心配だったが、痛み止めの薬が効いたのか早々に眠ってしまった。



 辺りは真っ暗だ。何も見えない。

 でも何か仄かに光が近付いてきている。


 段々、優しい声が聞こえてきた。


 会いたかった。

 やっと、やっと会えたんだよ。


 君はまだ思い出してくれないの?


 僕だよ。

 お願い、思い出して。

 早く、でないと……。

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