第22話レベルアップ

「軽く巡回してみたら、今迄二足歩行地竜級ボスしかいなかった縄張りにも、ワーム種玉鋼級ボスが発生していた。緋緋色金級の古竜が発生する可能性もあるから、少しでも危険を感じたら、躊躇せずに魔境の外に逃げてくれ」

「「「「「「はい」」」」」」

 宿に戻りマギー達に身体強化魔法をかけ、一緒に魔境の外縁までやってきたが、俺の注意を受けて六人の顔つきが変わった。

 特に四人の冒険者は、アゼス魔境の異常さを十分認識しているようで、顔付も気配も厳しくなった。

 ギネスは不安が強いようなので、ここは安心させてあげよう。

「俺がもう一度先に入って、玉鋼級以上の魔物は全て無力化しておく。入ってもらう縄張りに隣接する五か所の縄張りに住む玉鋼級以上の魔物も、全て無力化しておくから心配しなくていい」

「「「「「「はい」」」」」」

 俺の言葉を受けて、ギネスもようやく安心してくれたようで、マギーを抱きしめていた力を緩めていた。

 マギーも母親の様子に不安を感じていたようだが、母親が安心したことを敏感に感じたのか、にこにこと笑いだした。

「では、もう少し待っていてくれ」

 俺は急いで魔境の安全を確保すべく、ウォーターカッターを駆使して二足歩行地竜級ボスとワーム種玉鋼級ボスを無力化したが、やはりこの縄張りにもワーム種玉鋼級ボスが発生し、二足歩行地竜級ボスと共存していた。

 それに何気に白銀級以下の魔物の密集率が高く、少し移動するだけで俺が学んだ魔境と常識と違うのをひしひしと感じる。

 マギー達の獲物を横取りする気はないのだが、この密集率は危険なので、目についた白銀級と白金級の魔物は全て狩っておいた。

 六カ所の縄張りを巡回して、マギー達に魔境に入ってもらったのだが、何時もより2時間遅れの狩りの開始になってしまった。

 しばらく六人の狩りを見ていたが、魔物の密集率が昨日より多いせいで、魔物と遭遇する間隔が早く、忙しい狩りになっている。

 昨日のようにヴィヴィが金級や白金級を誘導することが出来ず、出会った魔物を狩った直後に次の魔物に遭遇してしまうと言った、少々危険な狩りになっていた。

 それでも、見ている間に一度も命の危険を感じることはなかったし、事前にかけてある魔法防御やダメージ軽減が発動するような攻撃を受けることもなかったので、不安はあるもののまだ巡回していない縄張りを見回ることにした。

 想像していた通り、全ての縄張りで二足歩行地竜級ボスとワーム種玉鋼級ボスが共存しており、ダンジョンに近い内側の縄張りの中には、二頭の二足歩行地竜級ボスが確認出来たところもあった。

 俺が素材を獲得すると言う意味だけで言えば、二頭以上のボス級が共存すると言うのは美味しい。

 だが家臣団や冒険者・狩人を投入して、恒常的に領地を富ませると言う意味では、あまりに強力なボスが複数頭いるのは大問題だ。

 ダンジョンに近い縄張りに三頭目のボスが発生したと言う事は、その要因が外からではなくダンジョンにあることは明らかで、早急な調査が必要だとは思うのだが、俺一人では不安がある。

 俺も馬鹿ではないので、この状態でダンジョンに一人で潜るような蛮勇はしない。

 手遅れにさせるわけにはいかないが、犬死しては何にもならないので、急ぎ爺に来てもらわなければならない。

 爺と俺に加えて、古参の近習衆でパーティーを組めば、余程の事がない限り不覚を取ることはないと思う。

 王都の繁栄を支える王都魔境と王都ダンジョンで、長年に渡って鍛錬を積んできた我々なら、如何に異常なアゼス魔境であろうと、調査くらいは出来ると思う。

 そんなことをつらつらと考えながら、念の為に再度パトリック達の状態を確認しに行ったら、危なげなく狩りを続けていた。

 直臣陪臣を含め、士爵以下の士族家卒族家だけで編成される王国軍八万兵の中で、魔法の才能に恵まれるのは、確率的に八十人ほどでしかない。

 本来ならその全員を士族や貴族に取り立てるべきなのだが、王国も長い歴史を持つ事の弊害がでていて、長男相続に拘泥してしまい、魔法使いの抜擢が出来なくなっている。

 過去には英邁な貴族家当主が魔術士を養嗣子に迎えようとした事もあったのだが、嫡男との後継争いという御家騒動を勃発させてしまい、それ以来魔術士と言えども養嗣子に迎えられることはなくなってしまった。

 父王陛下が一代限りの貴族位士族位として、王国魔導師・王国魔術師の制度を設けたので、士族卒族の子弟で魔法の才能があるものは、何とか王国に抱え込むことが出来るようになった。

 だが平民出身の魔術士は、王国に仕官することが出来ない。

 冒険者として準軍事力に出来ていればいい方で、他国に召し抱えられてしまったり、王家と潜在的に敵対している地方貴族家に召し抱えられてしまったりしている。

 そしてその最たるものが、教会が抱えている聖堂騎士団の聖騎士なのだ。

 それを憂いた爺が、同意してくれる卒族家に頼んで、卒族家に養子縁組する形で、王国軍の末端に平民出身の魔術士を加えることに成功した。

 そしてそんな卒族家子弟の家格でしかない魔術士達を、爺は俺の直臣にすべく動いていたのだ。

 一応今は王家と教会が敵対していないから、王国軍の士族卒族の中にもパトリックのように聖騎士の資格を持つ者がいるが、何かあれば恐ろしい内乱に発展しかねない。

 おっとまた余計な事を考えてしまっていた。

 パトリック達は魔法を温存し、俺がかけた身体強化魔法を活用し、常に魔物の死角に移動しながら、槍の一撃で急所を突いている。

 その的確な攻撃は、魔物の価値を下げることなく、商品にするための攻撃で、爺の指導の賜物なのだろう。

 今も一人が上空から襲ってきた魔物の攻撃を、滑るような足捌きで避けつつ逆撃の一撃で頭部を粉砕している。

 同時に血抜きの為だろう、首の左右に攻撃を加え、血管を切り裂いている。

 翼長二メートル程度の銀級魔鴉だから、血液も薬剤の原料になるからだろう、吹き出す血液を魔法袋に収納している。

 これくらい経済面も理解している者達なら、魔法袋の容量を超えた無駄な狩りはしないだろうし、後々俺の家の経済を任せても大丈夫だろう。

 俺は再度身体強化魔法をかけ直し、彼らが動ける時間を長くしたうえで、マギー達の様子を見に行くことにした。

「魔法壁はまだ大丈夫」

「若様がかけて下さった魔法壁だから、少々の攻撃で打ち破られたりはしないわ」

「私の魔法壁も大丈夫よ」

「ベネデッタはどう」

「私の方はそろそろ限界みたい。でもまだ大丈夫よ。強い攻撃を避けて、弱い攻撃を受けるようにしているから」

「私達が足手纏いになってしまっていますね」

「ごめんなさい」

「気にしなくていいですよ。それを条件に身体強化魔法をかけていただいているんですから。ただ正面には出ないようにして、内側から槍を使って攻撃してください」

 マギー達は苦戦していた。

 実力的にパトリック達と比べてそれほど劣っているわけではないが、人数が十四人と六人では、野外の狩りでは一人当たりの防衛面が違い過ぎる。

 何より足手纏いのマギーとギネスがいるので、あまりに魔物の密集率が高いアゼス魔境では、圧倒的に不利なのだ。

 マギーとギネスを内側に入れ、ドリス、ヴィヴィ、ベネデッタが盾となり、アデライデが支援する形で魔物の攻撃をしのいでいるが、全ての攻撃を避けることは出来ないようだ。

 強い攻撃は避けるか受けるかして、弱い攻撃を俺がかけた魔法壁で受け、ダメージ軽減魔法で無効化しているようだ。

 だが攻撃を受ければ受けるほど、俺の魔法の効果も失われていくので、徐々に魔境外に撤退する心算のようだ。

 それにしても、マギーとギネスの才能はすごい。

 内側で護られるしかない実力なのは、鍛錬を始めて数日でしかないので当然なのだが、それなのに隙を見ては的確に槍で一撃を加えている。

 今から何の支援もしなくても、身体強化魔法の効果時間内に魔境外に逃げ切れるとは思うが、念の為に身体強化魔法をかけ直した。

「「「「「「若様」」」」」」

 なんか全員若様と言ったぞ。

 若殿様や御兄ちゃんから、若様に統一されるのだろうか。

 まあ何と呼ばれてもいいのだが、マギーにだけは御兄ちゃんと呼んでもらいたい。

「いい判断だ。撤退するぞ」

「「「「「「はい!」」」」」」

 俺は圧倒的な身体能力を発揮し、滑るように駆けるように、縦横無尽に六人周囲を駆け回り、手当たり次第に魔物を狩り、全てを魔法袋に収納した。

 俺の支援を受けたマギー達は、危なげなく魔境から脱出した。

 俺達はアゼス宿場の問屋場に、王都に送る魔物とオークションにかける魔物を持って行ったのだが、そこで問屋に思いがけない言葉をかけられることになった。

「若殿様、パーティーレベルや冒険者レベルを登録されますか」

「それは代官所に併設されていた冒険者ギルドの仕事のはずだが」

「それが若殿様、代官所から使いの方が参られ、しばらく問屋の方に委託したいと言う事でした」

「詳しい説明はあったのか」

「それが何もないのでございます」

「問屋はなぜそうなったと思うか」

「若殿様が王都の方々に働きかけて下されたからだと思います」

「何故そう思った」

「あれほど権勢を誇った御代官様が、御子息が捕らわれているのに何もなさいません。人を送り込んでくるどころか、問い合わせの一つもしてきません。直訴に行った宿場の者が、家族もろとも処刑されたことがあるのに、今回は王都からも何も言ってきません。若殿様が動いて下さったとしか思えないからでございます」

「そうだな。俺が王都に送った訴状が効果を現したのだろうな」

「御代官様は、いえ、代官所はどうなるのでしょうか」

「順当に行けば、代官が解任され新たな代官が送られて来るだろうな」

「若殿様が、御代官様になって下さるわけではないのですか」

「俺は部屋住みだからな、代官にはなれないよ」

「それは残念でございます」

「それはそうとレベル認定の件だが、問屋場の人員でやれるのか」

「それは大丈夫でございます。認定させていただけるのは、今現在アゼス宿場を拠点にし、問屋場を使って魔物を送っているパーティーとそのメンバーだけという事でございますから」

「念のために聞くが、我々以外にアゼス宿場を拠点にしている冒険者はいるのか」

「若殿様達だけでございます」

 やれやれ。

 ブラッドリーの差し金なんだろうが、親切なのか嫌がらせなのか分からんな。

 俺はこのままパーティー登録せずに狩りを続けたかったのだが、ブラッドリーはここでちゃんとしたパーティーを結成させたいようだ。

 恐らくは色々と忙しいから、影供に使っている配下を減らすためにも、パトリック達に警護を任せたいのだろう。

 だが俺としたら、今の自由な環境は出来るだけ長く維持したい。

 パトリック達は十四人のパーティーとして登録させるとして、俺はどうするべきだろう。

 流石にマギー達とパーティーを組むわけにはいかない。

 アゼスダンジョン調査の時に、爺や古参近習とパーティーを組む必要もあるし、秘密を維持する為にも適度な距離感は必要だ。

 だが今なら特に調べられることなく、新しい冒険者証を手に入れ、パーティーを結成することが出来る。

 マギー達三人は、ドリス達三人組が結成していたパーティーに新規加入したことにすればいい。

「ドリス。ヴィヴィとマギー達をパーティーに加えてくれるか」

「それは構いませんが、若殿様はどうされるのですか」

「俺は以前から約束していた仲間とパーティーを組むから、今は一人で新たなパーティーを立ち上げる」

「でも約束してくださったように、私達をクランの加えて下さるのですよね」

「ドリス達に問題がなければ構わないよ」

「問屋殿、ここでクラン結成と加入の手続くもしてもらえるのか」

「それは、代官所から何も言ってきておりませんので、御約束しかねます」

「代官所に問い合わせはしてくれるのか」

「藪を突いて蛇を出すような真似はしたくないので、問い合わせは遠慮させていただきます」

「無理を言う訳にはいかないし、若殿様の口約束を信じるしかありませんね」

「そうだな。俺を信じてもらうしかないな」

 まあ六人にも色々な思惑はあるのだろうが、ここは素直にドリス達のパーティー・レディースターを三人組から六人組に編成替えすることになった。

 今まで特に興味もなく、ドリス達のパーティー名も聞いていなかったが、万が一俺がドリス達のパーティーに入っていたら、女装趣味があると勘違いされていたかもしれない。

 そしてレディースターのパーティーレベルだが、今迄金級であったものが、コンスタントに白金級の魔物を狩っているので、ドリス、アデライデ、ベネデッタ、ヴィヴィの4人が白金級に認定され、マギーとギネスは自主申告と四人の推薦で鉄級冒険者に登録された。

 マギーは年齢的に難しいが、ギネスなら白金級と偽ることも可能なのだが、それでは万が一王国からの強制徴募があった場合に、白金級として戦場に投入されてしまう恐れもある。

 だから実力相応の鉄級にしておいた。

 二人の才能なら、直ぐに銀級・金級に昇格できるだろう

 そして俺のパーティー名だが、アーサー愚連隊にした。

 クラン名は愚連隊にして、各パーティーには初代リーダーの名前を前につけることにした。

 そして俺の偽冒険者証には、白金級と記載されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る