第16話ボス養殖

「それでどうなったんだい?」

「どうもこうもないさ。ただひたすら地竜の攻撃に耐えていたんだけど、その強大な魔力に対抗するために、みるみる魔力を消耗してしまってさ、あっという間に魔力切れで気絶してしまったよ!」

「へぇー、そんな強大な地竜を、若様は簡単に倒してしまわれたんですね」

「いやいや、倒してしまうと魔物が暴走するから、適当に相手をして逃げてきたよ」

「でも倒そうと思えば倒せるのですよね」

「それは考え方が少し間違っているよ」

「私の何が間違っているんですか?」

「ボスを倒すと言うのはね、魔物の暴走を抑えることが出来て初めてやるべきことで、周辺の町や村を壊滅させるようなら、絶対にやってはいけない事なんだよ」

「そうなんですか? ドリス、あんた知ってた?」

「私が知るはずないでしょ」

「アデライデは魔法使いだから知っているわよね?」

「あのねヴィヴィ、魔法使いだからって何でも知っている訳じゃないのよ。ボスを倒す場合のマナーなんて、玉鋼級以上のパーティーじゃなきゃ覚える必要はないのよ」

「そうなの?」

「そうなの! 金級のあたし達では、ボスに遭遇しないように気を付けるだけよ」

「ベネデッタはどうなの? あなたは神官戦士だよね」

「私が教会で学んだ中に、ボスを倒すマナーなんてなかったわよ。そんなことはボスを倒せる人達だけが、冒険者組合から教わるモノなんじゃないの?」

 女三人寄れば姦しいというが、それが久しぶりに会った旧知の四人ともなれば、姦しいどころの話ではない。

 俺は直ぐに話を切り上げ、女四人組の会話から逃げ出し、中庭で日課の鍛錬を行いつつ、同時に火魔法を駆使して魔獣の肉を焼くことにした。

 獣人族の獲物を残しておくために、後半は銀級以上に限定して魔物を狩ったが、それでも山のような成果を魔法袋に収納することになった。

 その中から銀級の魔鳥を七羽選んで香草焼きすることにした。

 マギーとギネスは女四人組の会話に加わることなく、俺の鍛錬と料理を飽きることなく見ている。

 いや、ただ見ているだけではなく、見よう見まねで型をなぞるのだが、獣人族天性の運動能力なのか、それともマギーとギネスの才能なのか、信じられないくらい正確に模倣している。

 本気で学んだら、マギーはもちろんギネスも一流の冒険者になれるのではないだろうか。

 そんなことを鍛錬しながら考えつつも、料理の手も抜かず、魔鳥から抜いた胆や砂肝、心臓や腸もそれぞれに合った香草と一緒に脂炒めした。

 使う脂も猪型・牛型・鹿型・羊型と分けて、個性的な脂の風味と何十種類もの香草を組み合わせることで、独特の味わいを作り出すことに成功した。

 この技術は王城内の料理人から学んだものもあれば、爺が冒険者時代に会得した物もあるし、ブラッドリー達忍者が代々伝えてきた料理もある。

 食べることは生きることにつながるから、例え冒険中であろうとも、命の危険がない限り手抜きすることなく美味しい料理を作りたいと思っている。

 まして今は安全と言える状態なので、手抜きすることなく丁寧に作り上げることにした。

「出来たよ」

「うぁ~、おいしそう!」

「待ちなさい! 若殿様が食べられてからですよ」

「はい、おかあさん」

 丸々と肥った大きな魔鳥に齧り付こうとしていたマギーが、母親にマナー違反をたしなめられているので、早々に食べ始めることにした。

「じゃあ食べようか」

「「「「「「はい!」」」」」」

俺が食べ始めるのを待ちかねていたのだろう、俺が一口食べると直ぐに六人が食べ始めた。

「おにいちゃんこれおいしい」

「そうか、口に合ってよかったよ。明日の分も用意しておくから、おかあさんに温めなおしてもらいなさい」

「はい!」

「若様は明日も魔境に行かれるのですか?」

「ああ行くよ、だがヴィヴィ達の事もそろそろ表に出した方がいいな」

「表に出すとはどういう事でございますか?」

「ヴィヴィ達はもちろんドリス達もここにはいないことになっているから、一旦密かに抜け出して、堂々と大木戸から入った方がいいな」

「そうですね。宿場町に入った記録がないのに、本陣に入り込んでいるなど、見つかったら厳罰に処せられてしまいます」

「幸い今は貴族や士族が移動する時期ではないから、大きな問題は起こっていないが、騎士家に過ぎない俺が本陣の奥座敷を占拠していれば、貴族家の者が訪れた時に部屋替えを命じられるからな」

「そうですね。本陣に留まれればいい方で、場合によったら脇本陣どころか一般の宿屋に移動させられてしまいます」

「そうだな。貴族家が軍規模の家臣を連れて移動していた場合は、最悪近隣の民家に宿を頼まなければいけない」

 最初のヴィヴィの質問に始まり、俺の提案を受ける形でドリスが答え、ベネデッタが締めくくる形で、明日大木戸からアゼス宿場に入り直す話がまとまった。

 王都屋敷を抜け出した当初は、一直線にドラゴンダンジョンまで行く心算だったのだが、アゼス魔境があれほど強大なモノに変質している以上、見過ごすわけにはいかない。

 それにアゼス魔境がボス養殖で金になるのなら、魔境と周辺を拝領することで、狭い領地で大人数を養える貴族家を興すことが出来るかもしれない。

 まあ魔力は遺伝しないので、俺一代に限られてしまうのだが、先天的な障害がない限り、鍛えれば最低金級以上の冒険者になることは可能だ。

 それと俺の代で魔法の武具を創っておけば、身体的才能は金級であっても、実戦闘力を白金級や白銀級にすることは可能だ。

 そのような家臣団を創設し、彼らを使って定期的に貴族家としてアゼス魔境で狩りを行えば、子供に魔法の才能がなくても貴族家を維持することが出来るだろう。

 それに何より心配なのが、王家王国とボニオン公爵家との関係だ。

 いや、王家王国と無理矢理養嗣子を送り込まれる貴族家の関係だ!

 ボニオン公爵家が養嗣子を受け入れる決断をしたことで、一気に状況が動く可能性がある。

 それが万が一隣国を巻き込んだ内乱に発展するようなら、王都から離れ過ぎていると、危急の際に援軍に間に合わない可能性がある。

 俺は明日の予定を話していたのだが、いつの間にか話がヴィヴィとドリス達の思い出話になり、遂には俺の戦闘能力を褒め千切るに至り、話を打ち切り眠るように促した。

 満腹になったマギーが眠そうにしていたこともあり、ヴィヴィ達も話を続ける訳にもいかなかったのだろう。

 俺を奥座敷に残し、六人は控えの間で眠ることになった。

 奥座敷には独立した布団部屋がついているので、畳の上にそのまま眠る必要はないのだ。

 まあ歴戦の冒険者なら、岩や土の上に毛布敷いて、外套を掛布団代わりにして眠るなど普通の事なので、畳の上で眠れるだけでも十分なのだが、布団に包まれて眠れるならそれにこしたことはない。

 だが魔境や魔境外で返り血を浴びながら戦った状態で、そのまま本陣備え付けの布団に入るわけにはいかない。

 いやそもそもその前に、アゼス宿場に入り込む前に、水魔法を使ってシャワー替わりに身体を洗い、十分に清潔にしていた。

 そして火魔法と風魔法を組み合わせ、身体を冷やすことなく衣服ごと乾かしていた。

 まあ細かいことではあるのだが、冒険者とは言え女性だから、身嗜みには気を付けてあげないと、思わぬところで恨まれてしまうかもしれないのだ。

 そんな恨みが知らず知らずに積み重なり、思わぬ不覚を取る事があると、しみじみと爺が語っていたので、その事も忘れないようにしていたのだ。

 翌日は夜明け前に起きて、七人揃って早めに食事を済ませ、全員に身体強化魔法をかけたうえで、六人に土塁と塀を乗り越えてアゼス宿場町の外に出てもらった。

 俺も本陣と問屋場の者達に話を通したうえで、大木戸から堂々とアゼス宿場町の外に出て行った。

 直ぐに女六人と合流し、アゼス魔境向かった。

 昨晩色々と考えたのだが、マギーとギネスに関しては、ただ護るだけではいけないと結論したのだ。

 俺が一生護ってやれるわけではないし、立場上常に一緒にいてやれるわけでもない。

 俺の鍛錬を真似する姿を見た限り、幸い二人には才能があることが分かったので、狩人になるのか冒険者になるのかは別にして、戦闘力と生活力を伸ばしてあげることにした。

 それに今なら、金級冒険者が四人も揃っているので、魔境に入っても四六時中俺が付き添わなくても大丈夫なのだ。

 それに素の状態で金級冒険者の四人は、俺が手当たり次第身体強化魔法をかければ、白金級から白銀級の冒険者に匹敵する戦闘力に上昇する。

「それじゃあ六人には魔境に入って実践訓練をしてもらう」

「そんな! それは御無体でございます」

「大丈夫だよ。俺が身体強化魔法をかけているから、銅級や鉄級の魔物の攻撃は無効になるし、四人の熟練冒険者が支援してくれるから、ギネスはもちろんマギーも戦えるよ」

「ですが・・・・・」

「不安なのは分かるけど、これから生きていくのに戦闘力を伸ばしておかないと、いざと言う時に戦うどころか逃げる事も出来なくなるよ」

「それは分かっているのでございますが」

「大丈夫ですよ、ギネスさん。私達が必ず守って見せますよ」

「ヴィヴィさん」

「そうですよ、ギネスさんマギーちゃん。私達は若殿様に命を助けられた。命の恩は命で返すのが冒険者の掟だから、若殿様がギネスさんやマギーちゃんに戦闘訓練つけろと申されるのなら、命懸けで行うのが御礼でございますよ」

「そうなのですか?」

「そうですよ」

「それにこれほどの身体強化魔法をかけてもらえる機会など、今後あるとは思えませんから、今のうちに稼げるだけ稼がせていただきたいのです」

「そうですか、そう言う事なら危険のない範囲で御願い致します」

 六人の間で話がまとまり納得してくれたので、七人揃ってAボスが縄張りにしているアゼス魔境の境界線まで進み、改めて俺も含めて七人全員に各種身体強化魔法をかけ直した。

 俺は魔力と気配を隠さずに、Aボスや強力魔物を誘い出すように進み、昨日両腕・尻尾・牙・鱗・皮を斬り取ったAボスが、どれくらい回復しているのかと、勝てないと分かった俺に再び挑んでくるかを確認することにした。

 俺はAボスの魔力と気配を察知し、一直線にAボスの所に向かったが、驚くことに鱗や皮だけでなく、腕や尻尾まで完全に再生していた。

 しかも馬鹿としか思えないのだが、怒りの咆哮あげながら俺に突進してきた。

 昨日の戦いで俺に勝てないことは分かっているはずなのだが、一晩経つと昨日の事を忘れてしまうくらい頭が悪いのだろうか?

 竜種は賢いというのが一般常識なのだが、二足歩行地竜種は常識外れの馬鹿なのかもしれない。

 ただこの個体だけが馬鹿と言う可能性もあるので、サクサクと他の縄張りにいるボス達も確認すべく、手早くAボスの両腕・尻尾・牙・鱗・皮を斬り飛ばして魔法袋に収納した。

 Aボスが逃げ出したので、女六人組の魔力と気配を探り、堅実に狩りをこなしているのを確かめ、安心して隣のBボスの縄張りに移動することにした。

「マギーちゃん、そのまま魔蟲の頭を突いて」

「はい!」

「ギネスさんもその魔蟲の頭を突いて」

「はい!」

「ドリス、左からレッドベアーが近づいて来るわ」

「銀級ね、任せて」

「ベネデッタ、ブルーボアが正面から来るわよ」

「金級ね、用心しないといけないわね」

「私が側撃するから、ベネデッタは止めを御願い」

「分かったわ、ヴィヴィ」

「マギーちゃん、慌てなくて大丈夫よ。何度かかっても大丈夫だから、完全に殺すまで一頭に攻撃を集中しなさい」

「はい」

「ギネスさんはマギーちゃんの支援に徹して、マギーちゃんを攻撃しそうな魔物を叩いて」

「はい!」

 俺はBボスCボスと、素材になる部分を斬り取り魔法袋に収納し、順番に十六か所の縄張りを巡ったのだが、昨日今日だけの結果で言えば、ボス養殖が可能と言える。

 姑息なようだが、この事実が王家王国に知られる前に、アゼス魔境を含む周辺を俺の領地に下賜してもらう必要がある。

 俺以外に個人でボスをあしらえるような強者はいないと思うが、世界は広いから絶対と言いきれるものではない。

 父王陛下まで騙すと後で問題になるが、大蔵宮中伯やボニオン公爵家の一件を考えれば、例え王国の重臣であろうと、このような重大事を話すわけにはいかない。

 後はダンジョンの中まで探査をするかなのだが、十六頭もの地竜種を門番にするようなダンジョンを、単独で探査するのは危険すぎるだろう。

 領地にする予定だから無視するわけにはいかないが、俺とパーティーを組めるような強者といえば、爺とブラッドリーくらいしか思い浮かばない。

 近習のパトリック達を鍛えるという方法もあるのだが、それでは時間がかかるだろうし、どうするべきか?

 うん?

 マギー達の様子がおかしい?!

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