第28話帯広競馬預託料・賞金・出走手当

帯広競馬場:厩舎地区


「それで先生、この子以外は決まりましたか?」


「ああ、どの調教師も馬主さんも、肉にはしたくないがどうしようもない馬を持っている。特に調教師は、出来ればどの子も肉になんかしたくないんだ。だが年間1600頭以上生産され、そのなかで馬名登録までしてもらえるのが400頭ほど。400頭の中からばん馬としてデビュー出来て、今日まで生き残れた馬は本当に少ない。手塩にかけて調教した馬でも、肉にしなきゃ生活できない現実がある」


「ええ、その中から6頭選べと言うのも酷だとはおもいますが、最初に出会えたこの子以外は、専門家の方に選んでもらうしかありません」


「勝也さんを疑う訳じゃないが、6頭の馬を生涯養ってもらえると信じ切っている訳じゃない。最初は可愛いからと言って買った犬猫を、簡単に捨てたり保健所に持って行く世の中だ。まあ、俺達が言えた義理じゃないんだが」


「経済動物と愛玩動物は違うとも言えるですが」


「まあそれも身勝手な言い訳なのは重々承知しているよ。話を戻させてもらうが、2年後に勝也さんが馬主資格を取ると信じて、少しでも費用負担を減らせるように、怪我をして長期休養が必要だが、地力のある馬を選ばせてもらった」


「それは、休養から復帰すれば、自分の飼葉代くらいは稼げる馬と言う事ですね」


「ああ、今の馬主さんの経済状況から、長期間預託料を負担する事が出来ないが、復帰できれば能力検定は合格できそうな馬だ」


「ではその子達に会わせてもらえますか」


「ああ、是非会ってやってくれ!」


 俺達4人は、夜明け前に帯広競馬場の厩舎地区を訪問させてもらった。


 本来なら、競馬開催中に関係者地区に入るのは原則禁止だろう。八百長を疑われるような行為は、一切やってはいけないのだ。だが元々朝調教ツアーと言う、競馬を広める宣伝活動を行っていたので、建前的には個人ツアーを依頼して許可された体裁をとった。


 調教師の先生が案内してくれて、各厩舎を周って俺達が購入する馬を紹介してくれた。1頭当たりの購入費は30万円で、馬肉としての価値を払う事で話をつけてくれていた。


アサキユメ :3歳:240万円未満:骨折1年

イージマワン:3歳:300万円未満:骨折2年

ミドリハナ :3歳:400万円未満:骨折2年

ライデンマル:4歳:400万円未満:骨折2年

ゲンジボタル:4歳:オープン   :骨折2年

リードオン :5歳:オープン   :骨折2年


 どの馬も将来性豊かで、骨折さえしなかれば、自分の飼葉代くらい楽々稼げる馬だろう。調教師の先生から、彼らにかかる費用を色々と教えてもらったが、1番問題となったのが診療費だった。帯広競馬場内の診療所で診てもらえるとは言え、保険の利かない競走馬の治療費用は大変だ。


 今回は最低限の応急手当はされているし、即薬殺されるほどの状況でもない。一応俺にも柔道整復師の資格と経験と、鍼灸師としての資格と経験もある。そして動物の経穴の勉強も個人的にはやっていたが、獣医師の業務独占があるので、仕事として対価を貰って動物に鍼灸治療をする事は出来ない。


 だが、自分の馬にどう治療しようと構わないだろう。


 それに太郎君と花子ちゃんが教えてくれた、河童の妙薬が本当に効果があるのなら、俺の鍼灸治療など無用の長物だ。本当に効果があるとしても、あの婆さんが俺に分けてくれるとは限らない。分けてくれるとしても、無尽蔵と言う訳では無いだろう。限りがあるだろう薬を、どこ子に使うかでも悩む事になるだろう。


 相談の中で分かった事の1つに、帯広競馬で馬主をするに当たって必要な経費がある。養老牧場に関しても、調教師の先生や馬主関係者のつてで、育成牧場と同じ条件の6万円前後で預かってくれるそうだ。医療費と蹄鉄料は実費だが、6万円で預かってもらえるのはありがたかった。


 諸費用を考慮しても、今まで考えていたより3頭多く助けることが出来る。その事を話して、新たに3頭の養老馬を選んでもらうことにした。


「帯広競馬場費用」

1歳馬購入:150万円から

育成牧場 :6万円前後

入厩預託料:10万円から12万円

診療費  :実費

蹄鉄料  :実費


 そして2年後馬主になれたとしたら、どれくらい収入がえれるかと言う話にもなった。それによると、1開催の1走目で4万5000円の出走手当が貰えるそうだ。健康な馬なら、1カ月1走してくれるだけで、預託料の4割を咥えて帰って来てくれる。


 だが利益を上げたり収支をトントンにしようとすれば、普通競走で2カ月に1回は1着になってもらわないと不可能なのだ。無理に2走目出しても、減額された2万円の出走手当しか貰えない。出走きかいを均等にすると言う意味もあれば、馬に無理な負担をかけないと言う意味もあるだろう。だがそのために、肉にせざる得ない馬も出てきてしまうだろう。


 とにかく出走させさえすれば、預託料をペイできるのなら、肉にしないでおきたいと言う馬主もいるだろうに。厳しい競走馬試験に合格し、2歳の能力検定で肉にならずに済んだ馬も、この収支の関門をくぐりにけれずに肉にされてしまう。


「帯広競馬場賞金」

普通競走 :1着賞金:9万円~15万円

     :2着賞金:2万円~

     :3着賞金:1万円~

     :4着賞金:六千円~

     :5着賞金:0円~

特別競走 :1着賞金:18万円~22万円

     :2着賞金:4万円前後

     :3着賞金:2万円前後

     :4着賞金:1万2千円前後

     :5着賞金:8千円戦後

準重賞競走:1着賞金:40万円

     :2着賞金:

     :3着賞金:

     :4着賞金:

     :5着賞金:

出走手当(普通・特別・重賞競走一律)

1出走目

5万2000円:2歳新馬限定戦・重賞競走・特別競走

4万5000円:2歳

4万5000円:3歳以上

2出走目(普通・特別・重賞競走一律)

2万0000円

(注)重賞競走と自己条件での競走で2回出走となる場合は、それぞれ1出走目と同額とする。

(注)この馬齢は、1月以降の開催においてはそれぞれ1歳を加えて読み替える。


着外手当(着外特別奨励金を含む)

重賞競走

ばんえい記念:10万0000円

ばんえい記念を除く

BG1   :3万5000円

BG2   :1万5000円

BG3   :1万0000円

特別・準重賞競走

着以下   :3000円


朝調教ツアー料金:大人2000円×2=4000円


 調教師さん達との色々な相談を終え、朝調教ツアーについているプレミアムラウンジ利用券は貰えたものの、常にパドックに張り付いていなければならないので、全く利用する予定はない。


 俺が話をしている間、太郎君と花子ちゃんは綾香さんが面倒を見てくれて、輓馬達と色々とお話をしていたようで、とても嬉しそうにしていた。厩務員さんが特別に対応してくれて、出走予定のない馬に乗せてくれたりしたそうだ。


 競馬場に入るのにはまだ時間がっあったので、競馬場に隣接するとかちむらで食事をする事にした。今回は十勝の豊かさを食べるコース2500円を頼み、その美味しさを満喫した。


 最初に前菜10種盛り合わせを出してくれて、次に熱々のとかちマッシュのアヒージョが出てきた。次に出て来たのが十勝野菜のラクレットチーズがけで、その次がメインの中札内産十勝野ポークローストだった。さらに十勝産ゆめちから小麦のパスタは、トマトソースかカルボナーラを選ぶ事が出来たので、2人前づつ頼んで分けて食べた。最後にデザートが出たけど、それもとても美味しくて、今度帯広に来た時にまた頼みたいと思うくらいだった。


十勝の豊かさを食べるコース:2500円×4=1万800円


 帯広競馬場に入ってからは忙しかった!


 第1競走から第11競走まで、パドック・馬券売り場・レース場を移動し忙しく過ごした。太郎君と花子ちゃんは心から楽しんでいるようで、パドックから全ての馬に声をかけ、レースの時は一緒に進みながら声援を送っていた。


 馬たちが坂を越えるために力を貯めている時は、一緒になって力んでいたし、動き出してからは声援を送りつつ一緒に走っていた。ゴール前でも、1着馬ばかりではなく、最後尾の馬がゴールを切るまで、声を限りに声援を送っていた。


 それだけ声援を送ればお腹も空く、どれだけ昼食を食べていてもお腹は空く。月曜の帯広競馬は人影もまばらで、綾香さん1人でも安心して買い物に行ってもらう事が出来る。俺と太郎君と花子ちゃんが、パドックで馬を見ている間に、綾香さんがラーメンやらうどんやらを買って来てくれた。それを食べながら応援するのも、心楽しい掛け替えのない時間だ。


味噌チャーシューメン:700円×1=700円

鍋焼うどん   :600円×1=600円

山菜そば    :480円×1=480円

とろろそば   :510円×1=510円

ざんぎ     :400円×4=1600円

アメリカンドッグ:180円×4=720円

フランクフルト :200円×4=800円

春巻き     :300円×4=1200円

あげいも    :200円×4=800円

団子      :250円×4=1000円

(いも・かぼちゃ)

ソフトクリーム :250円×4=1000円


小計:9410円


 競馬が終わって、現金とネットともに43万2600円づつ勝つことが出来た。売り上げの少ない地方競馬の勝ちで養老馬を持つ事は出来ないけれど。俺達4人の旅費や遊興費くらいは十分稼ぐ事が出来る。


ネット投票:43万2600円

現金投票 :43万2600円


 土日のJRAの開催日は、大きく稼ぐ為に競馬場に張り付いていなければならない。河童の妙薬を貰いに行くなら、明日以降の平日となるだろう。


「綾香さん、出来るだけ早く太郎君と花子ちゃんの実家に行きたいんですが、そこに綾香さんを連れて行く訳にはいかないんです」


「分かっています、太郎君と花子ちゃんがただの人間ではない事は、一緒に居て十分理解しています」


「では、航空券が取れたら別行動になってしまうのですが、綾香さんはここで待っていてくれますか。それとも中山競馬場近くのホテルで待っていてくれますか」


「私からも相談があるのです」


「何ですか?」


「調教師の先生に馬主になる条件を聞いたのですが、馬主資格を失った人が、馬主資格のある人に馬をリースした事があるとの話でした。勝也さんは、そんな事はされないのですか?」


「昔ね、オグリキャップと言う名馬の売却問題があってね。馬主資格を失いそうだったオーナーが、2年後に買い戻す約束で売却したんだけど、今でも名義貸しだったんじゃないかと言う疑惑がるんだよ。俺は自分の為だけに、そんな事をする気はないんだ。それでなくとも、瀬戸際から復活した、世界で唯一の輓馬の競走なんだ。僅かだって後ろ指を指されちゃいけない」


「そうなんですね、勝也さんはその決意で養老馬を引き受け、2年後の馬主資格申請を目指しておられるのですね」


「まあ馬券で稼ぐ胡散臭い稼ぎ方だけど、それで所得証明が取れて馬主になれるのならなりたいんだよ。今11月だから、2年間の所得証明と言っても丸々年掛かる訳じゃない。申請の審査期間が5カ月あるけど、それを合わせても2年以内に白黒はっきりするさ」


「あの、私の父はそれなりの所得があるので、父を代表にして会社を設立し、定款に競走馬の仕事をすると言う事にすれば、勝也さんも株主の1人として、馬主になれるのではありませんか」


「法人馬主だね、確かに馬主不足の地方競馬は、馬主条件を緩和しているけど、法人馬主は代表や表向きの役員だけじゃなく。役職名が何であろうと、実質的な力を持っている者は、役員同様に個人馬主と同条件の審査されたはずだよ」


「では、勝也さんを役員待遇にしなければ大丈夫ではないのでしょうか?」


「そうだね、完全に陰に隠れたオーナーになる事は可能かもしれないね。でもさっきも言ったように、ばんえい競馬の傷になる事はしたくないんだ。それにね、俺は綾香さんの父親を信じていないんだ」


「え?」


「綾香さんが自殺を決意する所まで追い込まれているのに、何も気づかないか、気付いていて手を打たなかった父親だからね。信じていないし、そんな父親に、綾香さんが俺の為に頼みごとをしなければいけないような事は、絶対にさせれないよ」


「勝也さん!」

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