第42話秘密兵器

「イチロウさま、こうげきしていいですか?」


「バルバラと連絡が取れたから大丈夫、徹底的に叩くよ」


「はい!」


 俺は秘密兵器を使う決意をした!


 ここでケチって敵に攻め込まれたら、ダンジョン都市にいるアーデルハイトたちが殺されてしまうかもしれない。慎重(しんちょう)で頭が切れる者なら、ミヒャルケ侯爵家が勝ってもローゼンミュラー準男爵家が勝っても利益が得られるようにするだろう。だが目先の利益に踊(おど)らされる者の方が圧倒的に多いし、アーデルハイトたちが手にしている商品は、何度も命を懸ける価値があるほどの御宝(おたから)だ。


 そのような俗物が動く前に、できるだけ鮮(あざ)やかに勝つ必要がある!


『防御力低下陣』


『睡魔陣』


『麻痺陣』


『即死陣』


「べアトリクス殿、敵の前衛は眠るか麻痺(まひ)している、一気に殲滅(せんめつ)してくれ」


「分かりました、御任せ下さい」


 防衛軍の総指揮をとっているべアトリクスは、手練(てだ)れの従兵を先鋒(せんぽう)に突撃(とつげき)を仕掛けていった。俺とビアンカが、ドローンに吊り下げた魔道具にマイクを使って呪文を唱え、敵を死角から攻撃していたのだ。もちろんその動画はリアルタイムで共有され、べアトリクスやブリギッタだけでなくアーデルハイトやバルバラも観ている。だからよほどの馬鹿(ばか)でないかぎり、今自分が何をすべきか理解できるのだ。(アーデルハイトには期待しすぎない方がいいが)


 べアトリクスとブリギッタに指揮されたローゼンミュラー軍は、猛烈果敢(もうれつかかん)にミヒャルケ侯爵軍を攻め立てている。ミヒャルケ侯爵軍は、指揮官らしい者に叱咤(しった)されて踏み止まろうとする者もいるが、ほとんどは少し不利になると逃げようとする。


 だが狭く険しい山道を、恐怖にかられて逃げようとしても、後から次々と登ってくる味方と鉢合(はちあ)わせするだけだ。少しでも平たんな場所なら味方同士でケンカする程度ですむが、急角度の場所や谷沿いの危険な場所では、ケガどころか死につながる行為だ。


 要所要所に配置された指揮官が、非常手段として逃げようとした者を切り捨てて、逃亡を防ぎ混乱を収拾しようとした。


『防御力低下陣』


『睡魔陣』


『麻痺陣』


『即死陣』


 俺はミヒャルケ侯爵軍の中央付近にまでドローン1機を移動させ、混乱が収まりかけていた後方で呪文を唱えて奇襲を仕掛けた。そして同時に、付属しているマイクのボリュームを最大にして叫んだ!


「裏切り者だ! 指揮官が裏切ったぞ! 指揮官がローゼンミュラー家に寝返ったぞ!」


 不意を突かれた指揮官は一瞬棒立ちとなったが、その一瞬が命取りだった。味方である逃亡者を殺した直後であったため、盗賊や冒険者を集めて編成されたミヒャルケ侯爵家ローゼンミュラー領侵攻軍は、兵と指揮官の間に決定的な亀裂(きれつ)が入ってしまったようだ。


 特に仲間を殺された盗賊団の1人が、指揮官を背後切りつけた事により、収拾不能な同士討ちがいたるところで始まってしまった。これで我らの勝利が確定した!

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