第41話バルバラと軍議

 カール殿から聞いた話では、ミヒャルケ侯爵家は代々勇猛な息子を当主に据えて、老練な父親や祖父が後見することで勢力を伸ばしてきたそうだ。その力と勢いを持って、多くの弱小領主を家臣に加えたり、手柄を立てた冒険者や傭兵・盗賊を騎士に任命して忠誠心を得て来たそうだ。


 罠(わな)に嵌(は)めて捕虜(ほりょ)にした者を尋問(じんもん)したところ、今回も巨万の富を得たローゼンミュラー家に攻め込むと大々的に表明することで、略奪目的の盗賊団や傭兵・冒険者を掻(か)き集めたようだ。


「バルバラ殿、ミヒャルケ侯爵家は本隊を伏兵にしているそうだ」


「やはりそうでしたか、兵力を聞きだすことはできましたか?」


「領民従兵が主な軍勢だそうだが、5000兵が森に隠れているそうだ」


「だとすると領内に攻め込んでいる兵は、盗賊団や傭兵団ですね」


「ミヒャルケ侯爵軍だと思いこませるために、旗印や装備を貸し出したそうだ」


 なんか自信がついてきたようで、ネット会議でなら普通に話せるようになってきた。多少は偉そうに話せるし、命令口調も出来るようになってきた。


「イチロウ殿、申し訳ないが今回の交易では利益が出ないと思います」


「どういうことです?」


「ダンジョン都市の領主が、紛争(ふんそう)を理由にオークションの中止を強行(きょうこう)したのだ。このままでは宝の持ち腐(ぐさ)れとなり、安値で買い叩かれる可能性が出て来た。それに宿泊費や傭兵の給料が暴騰(ぼうとう)していて、1カ月ここにいると多めに持ちだした軍資金もなくなってしまう。いや、下手をすると借金をする事になりそうです」


 なるほど、ダンジョン都市の領主は事前の情報を手に入れていたのだろう。いや、もしかしたらミヒャルケ侯爵軍の味方の可能性もある。1番可能性が高いのは、この紛争を利用して何方が勝っても利益を得られるようにしていることだ。


 紛争や戦争が起これば、武器や食糧が値上がりするのは当然だし、安全な宿を求めて人が集まり宿泊費が値上がりするのも当然だ。まして200兵がまとまって宿を探すのだから、足元を見られて高値を要求されるのは仕方がない。


 アーデルハイトなら、ダンジョンの中で野営した方が安くて安全だと言いそうだが、そんなことをしたら全冒険者が盗賊になって襲ってくるだろう。(後日聞いた話だと、本当に全軍を率いてダンジョンで野営しようとしたそうだ)


「ミヒャルケ侯爵軍の前衛は明日には全滅させる、交易品を持って戻ってくればいい」


「何か秘策でもあるのですか?」


「ええ、恐らく秘策で勝てると思います。勝利が確定したらスマホで連絡しますから戻る準備をしておいてください、しかし実際に戻るのは、ミヒャルケ侯爵軍の本隊を領地に引き入れ、アーデルハイト殿と挟撃できるようになってからです」


「では事前に噂を流しておきましょう。ダンジョン都市にいるローゼンミュラー軍は、領内に残った軍が勝った場合、森に隠れているミヒャルケ侯爵軍本隊を挟撃(きょうげき)するために出陣すると!」

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