第40話バルバラ視点

「バルバラ、直ぐに戻るぞ!」


「駄目です、今戻ったら我々は全滅します」


「何を言う、私と御前が指揮をとれば、相手が2000兵でも蹴散(けち)らすことができる」


「駄目です、敵は2000兵だけではありません」


「なに? 敵に援軍がいると言うのか?!」


「援軍もいるはずですが、何よりもこのダンジョン都市の冒険者が危険です」


「どう言う事だ?」


 アーデルハイト姉さんも困ったものだ!


 御爺様や初代様に匹敵する武勇を誇(ほこ)られているが、知略に関しては父上様より少しマシな程度だ。私がいるからいいようなものだが、私がいなくなったらどうなされるのだろう? 


 やはり私が領地に残り、魔術長として婿を迎えるしかないのだろうか?


「今は領主のハナセ伯爵の手前大人しくしていますが、都市を出てしまったら、我々の持つ商品を奪おうと寄ってたかって襲撃(しゅうげき)してくるでしょう」


「くそ! ハナセ伯爵が善人のように言うが、急にオークションを中止にしたり法外な宿泊費や都市入場料要求したり、こちらの苦境(くきょう)につけ込んでやりたい放題では無いか!」


「それでも最低限の礼儀は守られています、我らも困っていたイチロウ殿につけ込んで、法外な身代金を要求したではないですか」


「それは領主の正統な権利だ!」


「ハナセ伯爵も同じように、領主として正当な権利を行使されているだけです」


「くそ! 傭兵の相場も高額になっているし、金を借りる利息も恐ろしく高い、領地を出る時に軍資金を持ちだしていてよかったな」


「こうなる可能性は分かっていました、1カ月はここで持ちこたえる必要があるかもしれません」


「従兵の中には、裏切る者や逃げ出す者が出てくるかもしれんな!」


「多少はその可能性もありますが、イチロウ殿に胃袋を掴(つか)まれているから大丈夫でしょう。どれだけお金を手に入れても、イチロウ殿から離れたら、あの料理を食べることができなくなります」


「くそ! 早く帰ってカレーと煮込みハンバーグが食べたいぞ!」


 あぁあぁ、従兵ならともかく、准男爵を引き継ぐ者が料理につられてどうするの。まあ確かに思いだしただけで唾(つば)が湧(わ)いてしまうけど、個人的な欲望は心の中だけに留めてもらいたいな。


「姉上様、まずはバッハ聖教皇家に勅書を出して頂けるように御願いしたしましょう」


「それはいいが、バッハ聖教皇家にそれほどの力が残っているのか?」


「いえ、全く何の実戦力も残っていませんが、牽制(けんせい)くらいにはなります」


「分かった」


「それとアショフ武王家にも使者を送りましょう」


「アショフ武王家もボーデヴィヒ公爵家の傀儡(かいらい)になりはてているのではないのか?」


「はい、ですが少しでも戦局が動いた時に仲裁(ちゅうさい)に入ってもらえるように、前もって手を打っておく必要があります」


「今回は交易では、全く利益が出ない可能性があるな」


 姉上様も多少は金勘定が出来るようになられたか!

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