第43話バルバラの苦悩

「バルバラ、なぜ出陣できないのだ!」


「噂を広めて盗賊団や傭兵・冒険者の動きを抑えようとしたのですが、我らが持っている商品が貴重すぎるようで、噂を聞いても略奪(りゃくだつ)を諦(あきら)めそうにないのです」


「だが今が勝てる好機なのだぞ! わずかな兵力でミヒャルケ侯爵家の大軍を破ったとなれば、ローゼンミュラー家の武名は再び国中に鳴り響くのだ! 少々の危険など、我が武勇で打ち負かしてくれるわ!」


「御待ち下さい姉上様、べアトリクスやブリギッタが勝ち取った勝利を、我らが無にしてしまう訳にはいかないのです。すでにローゼンミュラー家は、分断された悪条件にもかかわらず、わずかな守備兵でミヒャルケ侯爵軍を撃退しているのです。この勝利を我らの功名心で、無にするわけにはいきません」


「なに! バルバラは私が妹たちの勝利に嫉妬(しっと)して、手柄欲しさに出陣したがっていると言うのか?!」


「己の武勇を誇り、不利な状況で無理な出陣をすると言うのなら、父上の愚かさと同じでございますぞ!」


「?!」


 言葉が少し厳しかったかもしれないが、負ける可能性の高い行動を許す訳にはいかない。姉上の剛勇は天下無双とは思うが、猪武者のように突撃ばかり繰り返していては、簡単に敵の罠に陥ってしまう。まして味方に不利な状況での戦いを命じたら、逃亡者や裏切り者を誘発してしまう。


「私は断じて父上とは違う! あのような愚か者では無い! だからバルバラの諫言(かんげん)には従うぞ」


「そうですか、それなら安心ですね」


 父上と比べることで簡単に制御できるのも問題だ!


 父上と比べることで、簡単に罠に誘導することができてしまう。姉上様にはできるだけ早く、私たち妹以外の話は無視するように教えなければならない。だが今はそれも後回しにしなければならない、何とか知恵を搾(しぼ)り出して、戦場に駆け付けられるようにしなければならない。それも200の兵力を維持した上でなければならない!


「姉上様、今からバッハ聖教皇家の勅使殿に面会を求めましょう」


「バッハ聖教皇家が、今回のオークションの為にハナセ伯爵家に御遣わしになられた勅使殿の事か? 約束も無しに今から面会を御願するなど無理ではないか?」


「勅使殿も日々の生活に苦心されておられます、胡椒の1つも献上すると申し上げれば、直ぐに会って頂けます」


「勅使殿の困窮(こんきゅう)につけ込むようで気が引けるな」


「姉上様、ここが正念場でございます! 勅使殿を巻き込まなければこの苦境を切り抜け、兵と率いて戦場に向かうなど不可能でございますぞ!」


「う~ん、だが私には上手い口上など考えつかんぞ」


「私が横から助言させていただきます、ですから姉上様は堂々としていて下さればいいのです」


「分かって、戦場に駆けつけることができるのなら、全てバルバラに任そう」

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