第18話嗚咽

「ビアンカは御爺様のところにいなさい」


「はい、おねえさま」


「べアトリクスは村を守りなさい」


「はい、御姉様」


「バルバラとブリギッタは私と一緒に狩りに出てもらう」


「「はい、御姉様」」


「イチロウさま、へやにかえりましょう」


 ビアンカが俺に声をかけてくれた。


 ビアンカの声を聞き顔を見ることで、不思議と身体の震えが止まった。御蔭で何とか館に向かって一歩踏み出すことが出来たが、護衛と監視兼用の兵士2人が着かず離れずついてきた。アーデルハイトたちにも数人の兵士がついていったようだが、なにをしに行ったのかわからない。


 部屋に戻って1人になると、先程の自分の姿を思いだし激しい自己嫌悪に落ちいった。いくら騎士だろうと、女に睨(にら)まれたくらいで震えが止まらないのは情けなさすぎる。たまらず嗚咽(おえつ)が込み上げて来て、部屋の外に見張りがいるにもかかわらず、心の奥底から感情が溢(あふ)れ出て、みっともなくすすり泣いてしまった。




「リーン」


 2時間ほど落ち込んでいたが、姉ちゃんからのメールを知らせる音で自分を取り戻すことができた。とは言っても、元々人間不信の元引きこもりだ。ボロボロ涙を流しながら、メールを確認することくらいしかできない。


『大丈夫? 無理する必要はないよ! 交渉は私がやるから、一朗君は部屋にこもっていていいからね。ただ連絡を続ける為に、充電だけはがんばってもらわないといけない。太陽光発電とマイクロ水力発電が手に入ったと言っていたね? 水力発電は徐々にで大丈夫だから、太陽光発電パネルを設置して、蓄電池とつないでおいて。そうしてくれれば、私が必ず一朗君を助け出してあげる、だから安心して!』


 姉ちゃんからのメールを見たら、また涙が出て来てしまい、嗚咽が込み上げそうになった。だが今度は何とか我慢して、呼吸を整え身だしなみを整えた。


「外に出て、母国と連絡をとるための魔道具を設置したい」


 何とか部屋の外で監視している兵士に話しかけることが出来たが、アーデルハイトの殺気に当てられた醜態(しゅうたい)と、この部屋の中で泣き続けた姿を兵士には見聞きされている。貴族待遇としての威厳などなく、根性なしの腑抜(ふぬ)けと思われているだろう。とてもではないが、外に出たいと言う願いが聞き入れられるとは思えなかった。


 だが意外と簡単に許可してくれた。


 俺のような情けない者なら逃げようとなどしないだろうし、万が一逃げようとしたり抵抗しようとしても、簡単に取り押さえることができると思っているようだった。2人の兵士の顔には、俺を馬鹿にしているのがありありと見て取れた。だがそれでも構わない、姉ちゃんに俺にでもできると思ってもらえたことくらいはやりとげたい!


 何とか日当たりのよさそうな所に太陽光発電パネルと設置し、20mの防水延長コードをつなげて俺の部屋に置いてある蓄電池までつなぐ事に成功した。 

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