第17話食料確保

「バルバラ、これだけの胡椒が手に入ったのだ、少々無理をしてでも街に行って売るべきではないのか?」


「姉上様まで、父上様と同じような愚かな事を申されますな」


「私を父上と同じだと言うか!」


「今無理をして峠を越えようとすれば、信頼できる兵士を失う可能性があります。目先の御金に目が眩み、そのような危険を犯すようなら父上様と同じです」


「う~ん、そう言われるとそうだな、だがならば、私が単騎で峠を越えるのはどうだ?」


「姉上様の武勇は信頼しておりますが、過信するのは愚か者のする事でございます。それに単騎で街に降りた姉上様を、諸侯や他の騎士家が見逃すはずがありません」


「そうなのか? そうだな、私が死ぬようなことがあれば、父上が当主として振る舞うだろう。そうなれば他の騎士家や貴族家が、父上様を騙(だま)し領民から税を搾(しぼ)り取るだろうな」


「そうです、今は計画通りに食料を確保する為に、魔獣に追われて凶暴になってる獣を狩りましょう」


「そうだな、そうするしかないな」


「御姉様方、少しよろしいですか?」


「なんだい、ブリギッタ」


 アーデルハイトが優しく問い返す、ビアンカが熊に襲われた時と言い、どうやら妹を可愛がっているようだ。


「今イチロウ殿が運ばせた荷物ですが、中に塩が入っていたように思えるのですが、食事の対価に塩をもらう事はできないのでしょうか?」


「なに? 塩を手に入れる事が出来るのか?」


 アーデルハイトは、鋭い獲物を見るような眼を俺の方に向ける。殺気に当てられ、足から震えが始まり徐々に身体中が震えだした。情けない話だが、自分の意思で震えを止めることが出来ない!


「姉上様、イチロウ殿は武人ではありません、そのような殺気を放つのは止めて下さい」


「そうか、それは悪かった。すまぬ、イチロウ殿」


 いまさら謝られても、恐怖で震えだした身体を止めることなど出来ない。女5人を前にして情けない話だが、歯の根が合わぬほど震えていて、上下の歯が当たってカチカチ言っている。


「イチロウ殿、新月になったらダンジョン都市に行って胡椒を換金することができます。そうなれば条件次第で、イチロウ殿が望むように独自の兵を雇う事も考えましょう。だから塩を譲ってもらえないでしょうか、この通りです!」


 バルバラは深々と頭を下げたが、俺には返事をする余裕もない。塩くらいいくらでもくれてやるから、もう2度とアーデルハイトとは話したくない!


「ここは一旦荷物を館に運ぼうではないか、全ては落ち着いてから話そう」


 震えの止まらない俺を見て、アーデルハイトも悪い事をしたと思ったのだろう。場所を変えて自分の失敗を取り繕おうとしたが、ここで緊急の連絡が入って来た!


「アーデルハイト様、狼の群れが鹿の群れを追いかけています!」

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