第19話引きこもりと復活

「おにいちゃん、おでかけしよう」


「ああ」


 ビアンカが満面の笑みで差し出してくれる手を握って、一緒に館の外に出て行くことになった。10日前、必死で太陽光発電パネルを設置した後、精魂(せいこん)尽き果ててもう部屋から出る事ができなかった。


 結局その後3日間は、誰が何と言おうと部屋から出ずに引きこもっていた。姉ちゃんも無理に俺に何かさせようとはしなかった。唯一(ゆいつ)深夜になってから、俺に音量を一杯にしたノートパソコンを防水延長コードでつなぎ食堂まで移動させ、翌朝から遠隔操作でバルバラと直接交渉していた。


 だが4日目にビアンカがやって来て、部屋の外から声をかけて来たのだ。命懸けで助けたことで、俺の心に中にビアンカに対する精神的に優位な気持があったのか、それともビアンカに不思議な力があったのか、純真無垢(じゅんしんむく)な表情で差し出された手をとることができた。


 数日はただ館を出て散歩するだけだったが、その後で姉ちゃんからのメールの指示に従って、ジャガイモとサツマイモの空中栽培を監督することになった。姉ちゃんの指示で、近大教授が出ている動画を見てやり方を学んだが、今の俺にはローゼンミュラー家の領民に指示など出来ない。ましてアーデルハイトやバルバラが、側に近づいただけで震えが出てしまう。


 だから俺が一旦ビアンカにお話しをして、ビアンカがその話通りに領民を動かしてくれた。まず最初にしたことは、防壁内の道に溢れた糞尿を一カ所に集めて肥料化する事だった。俺も部屋に引きこもっていた時に使ったが、この村ではオマルに大小便をして、溜まったら道に投げ捨てると言う状態だったのだ。


 姉ちゃんは、万が一魔境から魔獣が溢れ出て、防壁内で自給自足しなければならなくなった場合に備えたのだ。異世界には竹と同じ植物が生えている、そこで竹でブランター代わりの箱を作り、同じく竹で作った支柱に吊るし、同じ地表面積で数十倍もの収穫量を得ようとしたのだ。


 俺のする事は、有り余る時間を使って種イモとイモの苗を調べて、ドローンで取り寄せる事だった。できることなら美味しく品種改良されたものではなく、永続的に種イモや苗に出来る品種を探し出す必要があった。目的が目的だから、ドローンによる購入ができなくなった場合に備えておかなければならない。


「おにいちゃん、これおいしね!」


「気に行ってくれた?」


「うん! だいすき!」


「お姉ちゃんたちには内緒だからね」


「うん、なにもいわないよ」


「食べたら歯磨きするんだよ」


「え~、あれきらい!」


「歯磨きしないと、歯が痛くなるからね、その代わり今日は2つ食べてもいいからね」


「うん、わかった!」


 芋を導入するにあたって、まずは美味しさを理解してもらう為に、芋菓子・芋料理を色々採り入れるように姉ちゃんから指示があった。だが芋が育つまで待つのは時間がかかる、だからドローンでお菓子を取り寄せることにしたのだが、アーデルハイトやバルバラに食わせる気にはならない。だからビアンカだけに食べさせて、彼女のやる気を育てることにした。


 ビアンカはスイートポテトが特にお気に入りだった。

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