第12話父娘争い

「勝手とは当主に向かってなんて言い草だ」


「当主? 愚(おろ)かな戦いを始めて、大切な領民を無駄死(むだじ)にさせた者が当主顔しないただきたい」


「愚かな戦いではない! 騎士家として参加せずには行かない戦いだったのだ!」


「いいえ! 初代様や御爺様なら上手く避(さ)けられたはずです! どうしても参加しなければ行かなかったとしても、軍役以上の領民を徴兵(ちょうへい)して皆殺しにされたうえに、自分だけ生き残るような恥知らずなことには絶対なっていません!」


「口が過ぎるぞ!」


「いいえ! 御爺様に謹慎(きんしん)を命じられているにもかかわらず、恥知らずに家政に口出しするような愚か者には当然の対応です」


 不毛(ふもう)な父娘の罵(ののし)りあいを1時間も聞かされ、正直うんざりしたが、御陰でこの家の置かれている状況を理解することができた。どうやら初代が冒険者として命懸けで資金をため、魔境に囲まれてこの地を開墾(かいこん)して騎士に叙勲(じょくん)されたようだ。


 カールと言う2代目も突出した武勇(ぶゆう)の騎士で、各地の貴族に請(こ)われて援軍に向かって、赫々(かくかく)たる戦果で名声を得ていたようだ。だが3代目の現当主・クラウスは、初代に比べて強かさに欠け世渡りが下手で、2代目の父に比べて著しく武勇に劣るようだ。


 文武に劣るクラウスは、名誉を欲するばかりに貴族に利用され、不利な戦いに分不相応な兵力を整えて参加して、大切な領民の戸主や若い働き手を戦死させていまったようだ。この戦いで自分も名誉の戦死を遂げていれば惜(お)しまれもしただろうが、おめおめと自分1人生き残って帰ってきたのだから眼も当てられない。


 父娘の罵(ののし)りあいが最高潮(さいこうちょう)となり、もはや斬り合いに発展するかと思われたとき、バルバラやビアンカなど4人の娘が入ってきて2人を引き離した。御陰で何とか父娘の凄惨(せいさん)な殺し合いは防がれたが、その後でローゼンミュラー家の人たちと話し合うことはできなかった。


 俺は不安と興奮(こうふん)で一睡もすることができず、ドローン配達で手に入れた太陽光発電・マイクロ水力発電・蓄電池を朝には使えるように整理整頓(せいりせいとん)した。同時に資金源である胡椒(こしょう)を、朝には引き渡せるようにしておいた。




「イチロウ様、朝食のご用意ができましたので、食堂まで御案内いたします」


 メイドに案内されて食堂に行くと、アーデルハイト・バルバラ・ビアンカと他に2人の娘が食卓についていた。やはりと言うか、父親であるクラウスはいなかったから、この家は少なくとも2つの派閥に分かれているようだ。


「さてイチロウ殿、食事を用意したが、これも身代金に上乗せされるからな」


 バルバラが確認もかねて、食事や寝床に御金が必要なことを念押ししてきた。姉ちゃんとの交渉を聞いていたから、このことはわかっていたが、自分の命がローゼンミュラー家に握られていることを思い知らされた。


「リンリンリンリン」


 姉ちゃんだ!

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