第11話ローゼンミュラー家当主
「御初に御目にかかる、私がローゼンミュラー家当主・クラウスだ」
「初めまして、神の気紛れでこの地に飛ばされてしまった魔導師・一朗です」
「娘たちが魔導師殿に失礼をしたかもしれぬが、騎士家の後継ぎとして家と領民を護ろうとしたためなのだ、理解して頂きたい」
「分かりましたと言いたいところですが、それならばローゼンミュラー家当主として、クラウス殿の責任で人質としての待遇を改めて頂けるのですね」
「申し訳ないがそれは出来ない」
「何故ですか?」
「我が家は今困難な状況にあってな、騎士として許される範囲であらゆる手を尽くさねばならないのだ」
「それが私から身代金を取ると言う事なのですね」
「そうだ、魔導師殿から身代金を取れれば、この領地を維持し民を餓(う)えさせなくて済むのだ」
「そもそもアーデルハイト殿は当主のように振る舞っていました、それは私たちを騙(だま)そうとしていたのですか?」
「アーデルハイトは跡継ぎだ、私が居ない場所では彼女がローゼンミュラー家の代表だ、だから騙していた訳では無い」
ローゼンミュラー家の館に戻って荷物整理(にもつせいり)をしていると、召使(めしつかい)がやって来て当主が会いたいと言っていると言う。さっきまで一緒にいて散々な目にあっていたし、大切な食糧である熊を回収に行ったはずなのにおかしいとは思ったが、俺の命を握っている相手の呼び出しなので仕方なくついて行った。だがそこにいたのは、アーデルハイトではなく壮年の男だった。
「では先ほど私の姉と決めた条件に変更はないのですね?」
「ああ、ない」
「では今さら、当主殿は何の用があって私を呼びだしたのです」
「簡単な事だ、身代金は別にして、イチロウ殿と商売の話がしたいのだ」
「商売ですか? しかし私は帰れるものなら出来るだけ早く国に帰りたいのですが!」
「イチロウ殿が帰ろうとも、家臣や出入りの商人を通じて商売ができるのではないかな?」
「家の為、領民の為、永続的な利益を確保したいと言う事ですか?」
「そうだ、それに今ここで私と約束を交わしてくれれば、アーデルハイトやバルバラと厳しい交渉をしなくてもよくなるぞ。2人い比べれば、私は交渉しやすいのではないか?」
確かに2人に比べれば、この当主を名乗る男の方が威圧感(いあつかん)が少ない。だが言う事を鵜呑(うの)みにする事などできないし、なにより姉ちゃんが決めたことを勝手に変えてしまうなどできない。
「それは無理だ、姉上が決めたことを俺が勝手に変えることなど出来ないし、貴方(あなた)の言う事を鵜呑みにする事もできない。少なくとも貴方とアーデルハイト殿が同席する場所で、御2人が納得した上でなければ約束できない」
「父上様! 私に断りもなく勝手なことをなされないで頂きたい!」
アーデルハイト殿が、烈火(れっか)のごとき怒りを隠そうともせずに部屋に怒鳴り込んできた!
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