第115話 生きるは死・死は生きる

波は返事がなく、ただ恐怖から涙が溢れた。


里奈は聞くのをやめた。


辺りを見渡すと、波達の恐怖の理由が分かった。


屋上から見える外の情景は、もはや情景と言う言葉が当てはまるのかさえ、疑問に思う程の景色。


それは、学校の回り全ての木が、無限に続くかのように、遥か彼方まで埋め尽くされ、外の世界が見えない。


何より、全ての木が赤い液体を体内から流し、血が流れている。


里奈は、絶望に近い感情を抱いた。


「嘘…何これ、こんなのどうやって逃げればいいの?」


波は、涙の粒が落ちながらも、少し落ち着きを取り戻し、里奈の方に体を引きずるようにして来た。


「り…里奈…これどうゆう事?」


里奈も恐ろしさに耐えられなくなり、目を瞑った。


「分からない。ただ一つだけ分かった事あるんだ。」


波や杏子に、亮と京介は話を聞いた。


少しだけ希望を持って、絶望の話を。


「何?…里奈教えて!」


今、本当に言って良いのだろうか?。


霊子は恐ろしい殺人者になってしまったけれど、理由もなく人を殺す人じゃない。


でも、言わないと他の人達が殺されてしまう。


長い沈黙を突き破り、言った。


「霊子は、内のクラスの人を殺してた。」


波は受け止め切れず、上手く言葉を出せなかった。


「は?」


里奈は波の方を見た。


おおよそ、こう言う反応する事は分かっていた。


波は情に熱い女。


裏切られても、助けてあげるような人だ。


霊子のした事は、決して許される事じゃない。


波の体を抱きしめた。


里奈の温もりは、波の受け止めれない気持ちを、実感させる結果になった。


波の瞳から涙が出た。


里奈も、つられたように涙が出た。


亮は声を荒くして言った。


「霊子が犯人なら、殺しちまえばいい。所詮女だ。」


京介も続けて言った。


「そうだ、俺も行くぞ。」


ぎゃあぁぁぁぁぁぁあ。


痛いよぉ。


苦しいよぉ


ぐあぁぁぁぁぁ。


絶叫と悲鳴が聞こえる。


里奈達は辺りを見渡すも、誰かが殺されてる感じはない。


悲鳴は止まない。


耳をすますと、木の方から聞こえた。


波が木の方を指し言った。


「この悲鳴、木から聞こえてるんじゃない?」


亮と京介に再び恐怖が走る。


里奈は、2人を見て警告するように言った。


「これでも行くの?」


亮は強がった。


「当りめぇだ、殺して来てやる。行くぞ京介」


京介も引っ込みが効かないようだ。


里奈達は、3人で暫くいる事にした。

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