第109話 あの日の始まり

里奈が包丁を持って、吉沢先生を探した。


学園祭だった為、人々は里奈を見ていたが、ホラー屋敷の宣伝だと思い、誰も里奈の異変に気がつかなかった。


里奈は幽霊のように、ひたひたと歩いた。


最初に訪れた部屋は、理科室だった。


誰もいない奥の部屋から物音がする、瑠璃だった。


里奈は、死んだ魚のような目を見開いて聞いた。


「何で瑠璃がここにいる…の?」


瑠璃は必死に弁明した。


「ちっ違うの!吉沢先生は関係ない。りな、顔や服に付いているの…血?なん…で…包丁なんか・・・」


里奈は瑠璃の弁明した話に、吉沢先生と親密な関係がある事が見て取れた。


「瑠璃ぃ、裏切っていたんだね。私を!」


里奈の顔は、狂気に走る。


瑠璃は何とか、宥めようとした。


手を突き出し、必死に殺される事の抵抗を示した。


「殺さないで、じ、実は里奈が付き合った日に私も付き合ったの、先生から言われて、ごめん、知ってたけど私、どうしても、好・・・」


瑠璃の弁明中に、頭蓋骨にナイフを刺した。


「さっさと死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」


頭に刺さったナイフを手に触り、額から血が流れて、自分が刺された事に気がついた。


「あ…あぁ…わ…わた…し…死」


バタンと倒れた。


里奈は気持ちが収まるどころか、憎しみが呪いに変わる。


刺さったナイフを抜き、何度も刺しては抜いた。


顔には血が跳ね、血だらけ。


「あ~あ、里奈…君まで殺人を犯したのか!意外と繊細なんだなぁ。」


声がする方に振り返ると、硫酸を顔にかけられた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁあ…熱い…痛い…焼ける」


里奈は微かに開いた目で見た。


見ずとも声で分かっていた。


薄っすらと、目に映る光景に、居たのはやはり吉沢先生。


「健、わ…私…を…殺す…の?」


「君は確かに美しかった。


零子が居なかったら君を選んでた位さ、でも零子が居れば他は不要、そこに君の殺したゴミの始末はありがたかった。


最後に礼を言えて良かった。


あー、後言い忘れる所だった。


春香に君を嗾けさせたのは俺だよ。


正確にはクラスの殆どだけど、取引してね。


春香は父親の為に金で受けたんだよ。


まぁ、そうゆう事だから」


見下された目は、決して礼を言う目じゃなかった。


ゴミを捨てて行く、父のよう。


零子、ごめんね。


ナイフを心臓に刺し、口元が緩む。


涙が流れると同時に、息を引き取った。


「あーあ、こんなに散らかして瑠璃と里奈か、焼けば食えるかな?」


いや、俺が全てを喰い尽くしたいのは零子だ。

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