第110 あの日の始まり

私は、こんな底辺を求めていない。


欲しいのは、女神のような人だ。


見下された目線に留まったのは、2人の死体。


記憶が途切れた。


2つ目の記憶。


零子は、今にも死にかねない重症。


救急車に運ばれて行く。


救急隊員は、血相を変えていた。事は一刻を争う事を示している。


吉沢先生は、理科室の窓から零子の運ばれた救急車を見ている。


零子は緊急手術が始まり、長い時間行われた。


待合室には、零子の両親がいた。


零子が、手術室から出て来た。


集中治療室に、ベッドごと運ばれた。


零子の両親が、零子に呼びかけるも、意識はない。


だが、零子の昏睡状態の中、両親の呼ぶ声が微かに聞こえた。


心電図の音は、ピッピッピっと無情にも現実を突きつけ、室内に鳴り響く。


両親は指をトントントンと音をさせ、モールス信号を送った。


2つの音は重なり合い。


ピートントンピートントン。


意識のない零子には、この音が両親の暖かさを感じた。


院内の先生が、両親に残酷な事実を告げた。


「零子さんの命は、いつ死んでもおかしくありません。明日か明後日か、もっと先かもしれませんが、永らくは生きられないでしょう。」


両親は先生に泣き叫び、しがみついた。


助かる方法聞いても、返って来るのは沈黙の絶望。


両親は零子に届くように、モールス信号を送り続けた。


当時、零子はモールス信号が好きだった。


理由としては、死んでしまった人にも音は届く気がしたから。


両親に教えたのは零子。


もしかしたら、自分が死ぬかも知れない事を、感づいていたのかも知れない。


両親が送り続けて4日目の夜、初めて音が止んだ。


この時、零子は奇跡的に目を覚ました。


場所を確認し、左右を見渡すと、窓が開けられた場所に、両親がいた。


声をかけようとしたら、窓から両親の姿が消えた。


零子には、意味が理解出来なかった。


しばらく窓を見続けていると、担当医の先生がやって来た。


先生は驚いていたが、言いづらそうに言った。


両親が悲観して飛び降りた。


先生の言葉に我に返り窓の所に行き、下を見ると、もうこの世にいない目をした赤い海に沈む両親の姿だった。


零子は病室を抜け、学校に向かった。


吉沢先生の所に向かい、理科室に入った。


奥の部屋に行くと、瑠璃の死体と里奈らしき死体がゴミのようにあった。


零子は里奈達の死体を見て、確信した。犯人は吉沢先生だと。


校内全てを探したが、見つからない。


残るは、屋上のみ。

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