第69話 復讐の冷血

「違うのに、どうしてわかってもらえないの?」


1人、教室で喚くしかなかった。


頭から痛みが引くと、同時に記憶の映像が途切れた。


意識が遠くなる。


夏希の呼びかける声に、反応出来ない。


「ちょっと、急にどうしたの?」


霊子の体を上下に揺さぶるも、返答がない。


「先生を呼んで来ないと」


立ち上がり、霊子の元を離れようとした。


「ピートントンピートントンピートントンピートントン」


聞き慣れた声とは、違う声が聞こえた。


霊子の方へ振り向くと、人間の放つ雰囲気とは明らかに次元が違う。


悍ましい人が長い前髪に顔が半分隠れて立ってこちらを見ている。


体育館には今、霊子と夏希しかいない。


だが明らかに雰囲気も、顔付きも何もかもが違う。


疑問が確信に変わる。


恐怖の中、問いただした。


「れ、霊子…だよね?…頭大丈夫…なの」


ゆっくりと笑みを浮かべ、口を開いた。


「ふふ、記憶を…カエシテ…貰う…だけ」


自分の問いに、別の答えが返って来た。


その答えを続けて聞いた。


「え、記憶って何のこと?」


返答もなく、迫り来る霊子に逃げ出したい感情が、沸き起こる。


「こ、来ないで…な…何をするつもり?」


沈黙のまま、夏希に近づき、頭を掴み引きずって、体育館の2階の応援席に連れて行く。


暴れる夏希を物ともせず、階段を登っていく。


2階は硬いコンクリートで作られており、下の階の試合が観戦出来るようになっていて、コートを囲うように長方形型の隙間に、人が落ちないように鉄格子がつけられていた。


泣き叫びながら声をあげるも、館内に響くだけ。


「離して、何でこんな所に連れて来たの?」


首を横に傾げて言った。


「何でって…コ…ロ…ス…タ…メ…だよ。」


夏希は体を引きずりながら、逃げようとするも、頭を押さえつけられ、地面に叩きつけられる。


額から流血しているが、恐怖のせいか痛がりもせず霊子に言った。


「わ、私達がいじめたから?ごめんなさい、許して」


無情にも、何度も何度も絶句と共に叩きつける。


「ギャアァァァァァ、や…め…」


髪を掴み、顔を持ち上げ言った。


「いい顔…あぁ…その顔が愛おしい。」


左が半開きな状態で、霊子を見た。


「理枝や彩も霊子が………殺…した…の?」


最後の力を振り絞り、疑問をぶつけた。


返って来たのは、振り下ろされた鈍器のような物。


鈍い音と共に、息を引き取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る