第4話 1人目
霊子は、吉村先生の言葉を聞いて、軽く頷きながらも、不安が取れず右手の人差し指を噛み締めていた。
吉村先生は、霊子に微笑みながら聞いた。
「しかし、ピートントンピートントンってのは、心辺りないのか?」
霊子はあまり言いたくなさそうだが、先生に聞かれたので、話す事にした。
「心辺りは、ないんですけど、何か、とても大事な事のような感じがするんです。
学校に、来たらわかるかもしれないと思って。」
吉沢先生は、霊子の左肩に手を置き、笑顔を向けた。
「先生が、力になるからな!記憶喪失の事も出来るだけ協力するから、何でも言ってくれ。」
だが、この時、吉沢先生の言葉は、 生徒を思っての言葉ではなく、男が女を、 思っての意味だった。
その事に霊子は、薄々感じていたが、あえて態度には出さなかった。
そんな事を、話している内に吉沢先生の受け持つ、霊子のクラスに着いた。
学校を外から見て、老朽化している事は分かっていたが、教室のドアは傷だらけで、所々木がえぐれている。
銀色で出来ている取手の、上の部分のネジが外れていて、いつ壊れてもおかしくない感じだ。
教室が騒めいているしている声が、壁越しに聞こえた。
吉沢先生は、大学ノート位の、黒い出席名簿を右肩にトントン叩きながら、悪戯の少年のような顔で、自分が呼んだらクラスに入るように霊子に言った。
霊子には、この呼ばれるまでの僅かな時間は、緊張と不安を打ち消す時間になった。
吉村先生は勢いよくドアを開け、教卓の前に両手を置き大きな声で言った。
「みんな、今日から転校生が来るぞ!」
教室の男子生徒は15人、女子生徒は、15人、いる中で男子生徒は女子が良いと興奮している人がほとんどで、その姿に、女子達は呆れた顔をしているのがほとんどだった。
1人の生徒が手を何度もあげながら、先生に質問をした。
質問をした生徒は、髪が茶髪で、顔は童顔。
右の前髪に、ヘアピンをしていて少しお調子者な感じだ。
「なんだ?」
ヘアピンの生徒は、わくわくしながら、先生を真っ直ぐ見つめ「男ですか?女ですか?」
吉沢先生は、ヘアピンの生徒が転校生が女子かどうかに楽しみにしている事に、悪戯心が芽生えた。
「男子生徒だ。」
その答えに、あからさまに肩を落としがっかりしている。
すると先生は「実は女子生徒だぞ。」
それを、聞いて落とした肩が上がり、気持ちのまま立ち上がり歓声をあげた。
「よっしゃー、ってか先生の意地悪る。」
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