『昨今の村づくりスキルが有能すぎる件』
タイトル『昨今の村づくりスキルが有能すぎる件』
実家を追い出された。
そこそこの貴族の長男だったが、成人――といってもまだまだ子供で平民は成人を機に見習いなどを行って自立に向かうが貴族であればこれからも親の保護下でぬくぬくと育てられる年齢――の儀式で、俺には『村づくり』というしょーもないスキルが与えられているとわかったからだ。
魔法とか剣とかそういうのがあったほうがいいよね、それか王宮で事務仕事に役立つスキルとか、せめて。
というわけで追い出された。
唯一の救いは、母親がこっそりと支援してくれたことだろう。支援と言っても馬車に積めるだけの物資をくれただけだが。これだけで生存率が大きく変わる。
「では坊ちゃん、お気をつけて……」
老齢の執事がそう言い残して去って行った。
ここは街道から少し外れた森の入り口。
街道だと目につくし――大量の物資が――、森の中だと即デンジャーなので折衷案としての人目にはつかない森の入り口が分かれの地点に選ばれた。
先代から仕えてくれていた執事で、早くして亡くなった先代――親父の親父――の代わりに俺のおじいちゃんのような優しい存在……、ではなく、仕事は仕事、プライベートはプライベートと割り切るタイプの執事さんだったので、特に思い入れはない。
向こうもそうみたいで、親父に言われた命令を淡々とこなしてさっさと帰ってしまった。
さあ、村づくりでもするか。
普通は有能なメイドとかのヒロイン候補が一緒についてきてくれるパターンが多いが、俺は一人だ。
人望が無かったわけではなく――有ったわけでもないが――、うちの使用人はビジネスライクな人が多かった所以。
ともかく第一村人となって、ここを開拓して要塞にしてしまおう。
というわけでスキルを発動する。
念じると、半透明なウィンドウみたいなのが現れた。
系統樹みたいなのが表示され、その中で唯一アクティブなアイコンをタッチ――物理ではなく念じるというか精神的に――する。
【村長に就任しますか? 消費ポイント<10>】
これを行わないと始まらない。現状10ポイントしか所持してなくて、全ポイントを使用するしかないのだが、他になんの選択肢もない。
【村長に就任しました!】
ポップアップが表示され、どうやら村長に就任できたようだ。これで所持ポイントは0になった。
さて、どうするか。
村長就任からは2本の線が伸びているが、その先には【?】と書かれたスキル。どうやら条件を満たさないとアクティベートはされないようだ。消費ポイントすらわからない。
というかポイントを得る方法がわからない。
ヘルプを見てみる。
『村レベルは1です。
村レベル1では、1村人につき、1日に0.1ポイントが加算されます。』
なるほど、10日で1ポイントか。気が遠くなる。
『(但し、村長は除く。)』
なるほど、現状じゃポイントは得られないと。
『村レベルは村の広さと村人数によって上昇していきます』
なるほど、とりま広い村にすればワンチャンなんとかなるかもしれない。
『村の領域は、スキル<領地化>で増やしていけます。初期はゼロです』
領地化のスキルがないんですが……。いつ得られるかもわからないんですが。
『また村人の困りごとを解決することで特別に村ポイントが得られることがあります』
村人居ないんですが……。
とりあえず、スキルが現状では何の役にも立たないことがわかったので、ニンジンを餌に兎の罠を作って、木箱を並べてシートで覆って簡易小屋を作って、乾パンと干し肉を食べて寝た。
ママありがとう。ママの支援が無かったらもう詰んでたよ。
翌日。
とりあえず開墾してみることにする。
とはいえ、木を切り倒すみたいなのは無理なので――支援物資に斧はなかった。鉈はあったが――、森の入り口近くにあった、たまたま木が生えてないエリアの草刈と整地だ。
一日かけて5m四方のエリアが出来た。そこにお引越し――木箱などの移動する。
スキルを使わないと整地しても村になるわけじゃないようだ。
【ログインボーナス】
どうやら村スキルを使用――閲覧だけでも――するとログインボーナスが得られるようだった。3つの箱から一つを選ぶ演出が終わると、村ポイント1を得られた。
1か月後。
そろそろ支援物資が尽きそうだ。
ニンジンもしなびたので腐る前に食べてしまった。兎は一匹も捕まえられなかった。
だが、今日で何かが変わる。
毎日ログインしていたので村ポイントが今日で20ポイントになる。ハズレを引かなければ。当たりもあるのかもしれないが、ここまで30日引き続けてきた感じでは、1ポイントか0ポイントのハズレかの二択だった。
【ログインボーナスです!】
運よく当たりを引き、ようやく20ポイント貯まった。
スキルを確認すると、【村名命名】コマンドが有効になっている。
【村に名前を付けますか? 消費ポイント<20>】
『村に名前をつけられます。改名も可能ですが消費ポイントが倍々になっていきます』
なるほど、20で名前を付けて、40で改名して、次に改名する時は80と。
慎重に名付けないといけないようだ。
とりあえず、残り僅かな物資で夕食。
村名を考えながら眠りについた。
村に名前を付ける。これで何かが変わると信じて。
だが、名前を付けたところで、何かが変わるわけではなかった。
詰んだ?
ログインボーナスがあるとはいえ、多分次のスキルは30ポイントだ。奇跡的にハズレを引かなくても30日かかる。食料はない。狩猟もできない。
本格的に採取生活に移行する。
今までも、整地の合間に木の実などを探して食べてはいた。一日中探して歩いて、食べられる葉っぱとか根っことかも探していけばギリギリ飢えることはないかもしれない。
2か月後。
ギリギリ生きてる。本当にギリギリだ。
街道に近く、街道の魔物除けの魔法陣の影響が出てるのか、魔物が出ないので単にサバイバル生活になっているのが救いではある。
食べられる木の実はほとんど食べ尽くしたので、食べられる葉っぱとか、食べられる根っことか食べられる木の皮に詳しくなった。胃腸が強くてよかった。
なんだかログインボーナスはハズレが多く、新たに30ポイント貯まるまで想定よりも長くなってしまった。
が、これで……。ようやく、何かが好転すると信じてスキルを見てみる。
新しい項目がアクティベートされていた。
【副村長任命】
『村人の中から任意に副村長を任命できます。副村長は村長の一部スキルを使用可』
村人居ない……。
半年後。
冬が来た。食事は木の皮がメインだ。美味しくはないがそれだけでなんとか生きているのでカロリーはあるんだろう。めちゃめちゃやせ細ったが。
この半年は【ログインボーナス】運が良かったのか、半年で50ポイント貯まった。40ポイントで新しいスキルが解禁されなかった時には絶望しかけたが、なんとか踏ん張った。
そして今回、選べるスキルが二つ。
【副村長任命】の下に生えた【戸籍管理】。
戸籍を管理するものらしい。現時点では要らない。
【村名命名】からは、【領地化】が生えた。
ようやくだ。
1㎡あたり10ポイントで村の領地に出来て、日々1ポイントずつ費やすことで領地として存続させることができるらしい。
ちなみに、領地にしたところで、作物の育ちが良くなったり魔物の侵入を防いだりとかそういう機能はない。
自己満足の世界だ。
とりあえず、木の皮を食べて凌いで、10ポイントだけ溜めて領地にしてみた。
それで村のレベルが上がるわけでもなく。数日後にはログインボーナスが外れて、存続させるだけのポイントがなくなったので、領地じゃなくなった。かといって何が変わるわけでもないが。
そして5年の月日が過ぎた。
多少狩りが上手くなったり、鉈で頑張って木をこって整地した面積が広くなったり。
基礎代謝が低くなったりとした。
村ポイントは1000貯まった。ここまで新しいスキルは何も生えなかったが、一度アクティベートされている【領地化】から新スキルが生えた。
【村道整備】
村の中に道を作れるらしい。作れるというか、道を作ったらそれを村道として認定できるというだけのスキルだ。村道1号とか村道2号とか。
ちなみに、村道にすると何かメリットがあるのか? と言われれば……。特にはないらしい。
とっても意味のないスキルなので、駄目元で、【戸籍管理】のほうを伸ばしてみた。こちらは主に村役場の人事権みたいなの――自警団設立とか自警団長任命とか――が次々生えてくるだけで、村民の居ない現状では全く意味がなかった。
異世界(面白いかどうかはさておく)短編集 東利音(たまにエタらない ☆彡 @grankoyan
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