ランクSの冒険者
俺はランクSの冒険者を目指して活動してきた。
異世界に召喚され、チートは得たが、勇者の称号はこの世界に存在せず、魔王も居ないため、凄い、痺れる、憧れる存在としては、冒険者ランクを上げるぐらいしかなかった。
とっくの昔にAランクには到達した。
A、B、C、D、E、F、Gとあり、Gが一番下だ。Aランクは現在確認されている最高ランクだ。
災害級とか呼ばれる魔物を何匹も倒したり、ドラゴンにさらわれたプリンセスを助け出したり、数万匹の暴走する魔物の群れから街を救ったり、超災害級と呼ばれる魔物を倒したり、神話級と後に呼ばれ出した魔物を倒したりした。
プリンセスを倒したあたりでAランクになった。
Aの上にもランクは存在している、と噂されている。だが、冒険者はもちろん、ギルド職員やもっと偉くて役職のあるギルドマスターもその上位ランクについては、決して口外してはならないというルールがある、と言われている。
Aの上にランクがあったとしてこっそりと任命され、それを自慢することはできないらしい。
本部のギルドマスターや、俺以前に大活躍していたAランクの冒険者にそれとなく話を聞いてみたが、口が堅いのか、それとも噂は噂で真実なのか、何も聞き出すことはできなかった。
そもそもAとかBとかいうのは、もしこの世界の言語が英語だったら? という仮定の元、読者にわかりやすく伝えるために当てはめているだけである。
この世界の文字はアルファベットというよりは表音文字で、ひらがなやカタカナに近い。60種類ぐらいある。
あいうえおかきくけこさし……のように、順番が決まっているので、その最初から7文字をギルドランクに使っているのだ。
Sに相当する文字がなんなのかわからない。
わからないが、少し問題が発生している。
こちらの世界で「凄い」「超」とかを表す単語の頭文字は、3番目の文字であり(アルファベットでいうなら”C”、ひらがなだったら、”う”、ひらがなでもいろは唄なら”は”)、さらにこの世界は単語が結構少なく、それ以外の頭文字でスーパーとかスペシャルとかSupremeみたいな意味の単語はないのだ。
ランクS(に相当するであろうランク)に対するあこがれともやもやを抱えたまま、俺は依頼をこなし続けた。
ある時、数千年の昔から生きているという長寿の種族の長老と出会った。
「お前さん、まだ冒険者ランクはAのままなのか?」
「まだ? Aに上がってからはどれだけ難しい依頼を達成しようが、国を救おうが昇格の話すら出ないが……。まさか、長老!? ランクAの上のランクについて何か知ってるのか? あるのかランクS(本人は、最上位のSという概念のつもりでSと発声しているが、長老からは上から3つめのランクを指す”C”に聞こえる)が?」
「S(長老の認識ではSではなく、”う”とか”C”)?」
「あ、いや、そうじゃない。俺の世界ではAの上はSだったんだ」
「なるほど、転生者、あるいは召喚された者か。昔一人だけであったことがある。そいつは、Aを超えるランクを手にしていたなぁ。あれから一度、世界が滅びかけ、ギルドも崩壊したから今に伝わっておらんのか……」
「教えてくれ、長老、Aを超えるランク、それはなんなのか?」
「既に忘れ去られた文字じゃよ、”ヰ”じゃったか、”ゑ”じゃったか……」
※冒険者には、(自動翻訳スキルが精いっぱい頑張った結果)”ヰ”や”ゑ”と認識されるが、実際にはもはや長老の記憶の中にしか存在しない文字。古代言語で”凄い”とか”超”みたいな意味の単語の頭文字
「そうか、文字自体が伝わっていないのか……」
その話を聞いて、俺はランクSになることを諦めた。
だが、それから7~8回ほど国を救った後、ギルドマスターと国王から呼び出された。
王「冒険者よ、そなたをいつまでもランクAのままとどめておくことは、功績の面からも他の冒険者への体裁の面からも相応しくないと判断したのぢゃ。ギルドマスターと話し合った結果、新たなランクを創設することにした」
ギルマス「あなたの功績に並ぶものが現れた時には、そのランクをその者にも与える許可をください。それまではあなただけに与えられる、特別なランクです」
「それはいいんですが……、Aの上のランクの名称は決まってるんでしょうか?」
「あなたの名前の頭文字を使わせていただこうかと」
こうして俺は、唯一無二の、”ぬ”ランクの冒険者となった。
※ぬは、冒険者の名前の頭文字で、その世界の文字の中でも、なんとなく微妙な文字
俺は心の中では”ぬ”ではなく”S”だと思うことにした。
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